第14話 第三王子に圧勝してしまう

 愚直に突っ込んできたアイズ・ファンズ。

 俺はそのチンタラした攻撃を軽々と避ける。


「——なにッ!?」


 なんかアイズがすごく驚いているけど、そんな凄くないからなその攻撃。

 アルベルト国王やユーフェリア様も感心そうに。


「ほお……なるほど」

「これはなかなかだな……」


 ……そんなすごいことしたか? 俺。

 首を傾げていると、アイズが大声で叫び出した。


「くそッ! なんで避けられるんだ! 俺は王国内でもトップ10に入るレベルの人間なんだぞ!」


 え……これでトップ10……?

 そんなバカな。

 これだったらうちの領地の子供たちでもフルボッコにできるぞ。


 そう思ったが、アイズの続けた言葉で納得する。


「今度こそ本気でやるからな! 死んでも知らんからな!」


 やっぱりまだ本気じゃなかったということか。

 そうだよな、トップ10でこんなわけないよな。


 うんうんと一人で頷くと、俺はニッと笑った。


「よっし! それじゃあ本気で来い! 大丈夫だ、多分死にはせん!」

「貴様ァ……! その舐めた態度を改めさせてやる!」


 アイズは溜めるようにグググっと腰を落とした。

 そして腰を捻り、剣を引くと——。


 ダンッ! と飛び出してくる。


 ……あ、あれぇ?

 これが本気……?


「これで終わりだぁあああああああああああ!」


 叫びながら突っ込んでくるアイズの剣を、俺は人差し指で止めた。


「…………は?」


 すると彼は素っ頓狂な声をあげる。

 それを見ていたアルベルト国王やユーフェリア様も——。


「なっ……!? なんだと!」

「ひ、人差し指で止めた、だと……あの攻撃を……」


 驚き目を見開いている。

 ちなみにリンやミア、アカネなんかはさも当然のような表情で見守っていた。


 そして極め付けは——。


「ねえ、ママ。あのお兄ちゃん、なんであんな弱いの?」


 村の子供が不思議そうにお母さんに尋ねる声が響き渡った。

 膝から崩れていくアイズ。

 なんか……ちょっと可哀想だな……。


 しかし決闘をふっかけてきたのは相手である。

 仕方がないと言えば、仕方がないな。


「ま、参りました……」


 とうとう負けを認めてしまったアイズに、俺は近づいてポンポンっと肩を叩いた。


「ま、まあ……気にすんなよ」


 こうしてアイズと俺の決闘は幕を引き、アイズは王位継承権を剥奪されるのだった。



   ***



「マルセル! 私と勝負しなさい!」


 決闘騒ぎが終わった後、俺はユーフェリア様にそう言い寄られていた。


「ええ……流石に今日は疲れたんですが……」

「それじゃあ明日、私と決闘だ!」


 なんて強引な……。


「そもそも、ユーフェリア様は先ほどの戦いを見ていたでしょう?」

「ああ、見ていた」

「だったら俺がどれだけ強いか、分かるでしょう?」

「ああ、分かるな」


 俺が尋ねるごとに、うんうんと頷いているユーフェリア様。

 俺はため息と一緒に彼女にこう聞いた。


「じゃあ俺と決闘する必要もないのでは? 俺の強さが分かっているなら、戦うこともないでしょう」


 俺の言葉に、ユーフェリア様は胸を張り堂々とこう言った。


「いいや、ある! 私は貴様のその強さをこの身で確かめてみたいのだ!」


 なんて戦闘狂な……。


「それに俺はもう結婚するのです。というか今日が結婚式なのです。俺の方が強いからってユーフェリア様とは結婚できませんよ?」


 すると再び彼女は堂々と答えた。


「なら私は妾でもいい!」

「……よくないと思うんですが。貴女はジーサリス帝国の第一皇女ですよね?」


 俺はただの辺境伯だぞ。

 小さな王国の辺境伯が帝国の第一皇女を妾にするって……。

 絶対に恨まれる、間違いない。


 しばらくぐぬぬとこちらを見てきていたユーフェリア様だったが、ハッと思いついたように言った。


「それじゃあ、マルセルが私と釣り合う身分を手に入れればいいんだな?」


 ……なんか嫌な予感しかしない。

 しかし彼女は嬉しそうにニコニコしながらどこかへ行ってしまうのだった。


 疲れたようにため息をつくと、レイナが寄ってきて水を渡してくれた。


「お疲れ様です、マルセル様。今日はとても大変な一日でしたね」

「ああ、ありがとうレイナ。やっぱり君は俺の癒しだよ」


 俺がいうと、レイナは恥ずかしそうに顔を背けた。


「あ、ありがとうございます、マルセル様」


 その様子になぜか俺も恥ずかしくなって、頬を赤く染めてしまう。


「い、いや、どういたしまして……?」

「……ふふっ、なんで疑問系なんですか?」

「な、なんでだろうな……?」


 そして俺たちは目を合わせあって、小さく笑いあう。


「しかし結婚式、めちゃくちゃになっちゃいましたね」

「ああ、そうだな。また今度、しっかりやり直そう」


 そんなふうに喋っていると、遠くからアカネの声が聞こえてくる。


「おーい! マルセル、レイナさん! ご飯は食べなくていいのー?」


 その声に俺はレイナと目を合わせると頷いて言った。


「行こうか」

「はい、行きましょう。今日は美味しいご飯がいっぱいありますからね」


 そして結婚式はまた今度、仕切り直すことになり。

 俺たちはありふれた日常へと戻ることになる——はずだったのだが。


 それから二週間後、俺の元に帝国と王国の使者が来てこう言うのだった。


「マルセル様。この辺境の土地はファンズ王国からジーサリス帝国へと所有権が移りました。今日よりここはジーサリス帝国です」

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