第13話 第三王子と決闘します

 アイズ・ファンズ。

 彼は暗い目でこちらを睨んできながら、こう叫んだ。


「貴様が弱いことが証明できれば、俺は王位継承権を剥奪されずに済む! 勝負だ!」


 ええ……みんな勝負好きすぎない?

 てか王位継承権剥奪されるの?

 なんで?

 俺が首を傾げていると、ルインが近づいてきて教えてくれた。


「彼がレイナさんをで追放したことで、王位継承権を剥奪されそうになっているみたいです」


 ふ〜ん、確かにそれなら仕方がない。

 というか、レイナを不当に追放した奴が、国のトップにのさばっている時点でおかしいと思うし。

 でも疑問はまだ残っていた。


「それがなんで俺と決闘することに繋がるんだ?」

「それは……この地に価値があるかどうか、というのが基準らしいです」

「と言うと?」


 俺が首を傾げて言うと、ルインは説明を始めてくれた。


「ええと、私よりも強い人間がここにいると言ったら、国王たちが総出でやってくることになった——ところまでは分かってますよね?」

「ああ、なんとなくな」


 ルインの言葉に俺は頷く。


「それで、この土地に不当な理由で令嬢を追放してしまった——ということが、問題らしいのです」

「ふ〜む、つまりこの土地にと判断されれば、アイズの罪は軽くなると、そう言いたいわけだな?」


 俺の言葉にルインは頷いた。

 なんて身勝手な……。

 というか、アイズだけではなくアルベルト国王までも腐ってるみたいだ。


 価値の有無で判断するのは国王として間違っていないのだろうが……。

 それでもレイナが不当に追放されたことには変わりない。


 その罪を軽くする云々とか言ってる時点で、俺はおかしいと思うんだ。


「俺と勝負だ、おっさん! そのヨボヨボになった体をズタズタに切り裂いてやる!」


 なっ、なんだと……!


 俺はおっさんじゃない!

 まだギリおっさんに届かないくらいだ!


 俺は怒りでプルプルと震え、アイズを睨みつけた。


「俺をおっさんと言ったな……?」


 低い声で俺は言った。

 それに対し、ルインはポツリと。


「三十四歳は微妙ですよね……。私も衰えを感じてますし」

「い、いえ……マルセル様はまだおじさんではありません」


 ルインの呟きにレイナは慌てたようにそう返した。

 ううっ……やっぱりレイナは優しいな……。

 婚約者の心遣いを嬉しく思いながら、俺はアイズにビシッと人差し指を向けた。


「いいだろう! 勝負してやる! そして俺がおっさんではないことを証明して見せよう!」


 まあ——この土地に価値があるかどうかはどうでもいい。

 というか、こんな辺境に価値があるとは思えない。


 でも、おっさん呼ばわりしたことは撤回してもらおうか。


「はははっ! そうじゃなくちゃな! ジジイ、貴様をボコボコにしてこの土地に価値がないことを証明してやろう!」


 じ、ジジイ……だとッ!

 ゆ、許せん……。


 もう俺は怒ったぞ。

 フルボッコにしてやるからな!



   ***



 と言うわけで俺とアイズは教会前の広間で対峙していた。

 周囲にはリンやミア、アビスやアカネなんかも見にきている。


 流石にこの状況でみっともないところは見せられない。


「むぅ……私とは勝負してくれないのに、アイズとはするんだな」


 拗ねたようにユーフェリア様が言っているが、俺はそれをあえて無視する。


「アカネさんアカネさん、賭けしませんか?」

「ミア……大天使が賭け事なんてしていいの?」

「ほら神域って退屈じゃないですか。やっぱり刺激はたまにでもあったほうがいいと思うんですよ」


 アカネにミアがそう声をかけている。

 ちなみにアカネは神に近く、ミアは大天使なので、アカネの方が立場は上だ。


「で、アカネさんはどちらに賭けます?」

「もちろんマルセル一択だろう」

「えー、私もマルセルに賭けようと思ってたんですけど……」


 どうやら賭けは成立しなかったらしい。


「お前たちはバカか。マルセルが負けるわけないだろ」


 そんな二人を見て呆れたようにリンが言っている。


 ——とまあ、そんな風にガヤがやいのやいのと言っているが、俺はそれを聞き流して言った。


「アイズ、後悔だけはするなよ?」

「そっちこそ! 無様に負けて全てを失っても後悔するなよ!」


 驕り高ぶったようにアイズは言った。

 まあ、この高くなりすぎた鼻をへし折るのも、彼の将来のためかもな。


 そんなことを思いつつ、俺は剣を構えた。

 それに対するようにアイズも剣を構える。


 そして俺たちの間にアカネがやってきて、宣告した。


「これより、マルセル辺境伯とアイズ第三王子の決闘を始める! 両者準備はいいか?」


 俺たちは同時に頷き、そして——。


「それでは、試合を開始する! ——始め!」


 その合図とともに、第三王子アイズ・ファンズが愚直に突っ込んでくるのだった。

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