第11話 結婚式がメチャクチャだ!

 唐突に止められた結婚式。

 俺もレイナも、その他大勢も困惑している。


「ええと……困ったなぁ……」


 思わず本音が漏れる。

 この状況、ホントどうすればいいんだ。


 凍えたように固まった空気。

 それを破ったのは、さらに後からやってきた人物だった。


「ユーフェリア様。いけません、人の結婚式を邪魔したら」


 そう言って教会に入ってきたのはアイル。

 俺たちの後輩で、彼女もまた都会に憧れて出て行った女性だった。


「あ、アイル……どうしてここに……? いったい何が起こってるんだ……」


 俺が尋ねると、アイルも困惑した様子で言った。


「いえ……私もよく分かってないんだけど……。私が分かっているのは、ユーフェリア様がマルセルお兄ちゃんと勝負をしたがっている、ということくらい」


 いや、その勝負をしたがっているという時点で意味が分からない。

 彼女は何を思って俺と勝負をしたいのだろうか?

 そもそもユーフェリア様ってジーサリス帝国の皇女様なんだよな……?


「てか、マルセルお兄ちゃんはルインお姉ちゃんと結婚するんじゃないの?」


 そう言われ俺は言葉が詰まってしまう。

 確かにアイルはルインが村から出ていく前に出ていっているしな……。

 そう考えてしまうのも仕方がないことかも。


 アイルの言葉に兜を捨てたルインが近づいてきて口を開いた。


「それにはですね、深いわけがあるのですが……」


 ルインはどうやら俺が結婚することになった経緯を知っているらしい。

 どうして知っているのかは分からないが。


 そう思っていると、そのさらに後ろからパタパタと髭面のおっさんと無数の騎士たちがやってきた。


「それについては私が説明しよう。ルイン騎士団長、ひとまず君は下がりたまえ」

「……はい。了解しました」


 髭面のおっさんの言葉に渋々引き下がるルイン。


 騎士団長……? ルインが?

 確かに風の噂で騎士団長になったとは聞いていたが。

 てことは、このおっさんは……。


「私の名前はアルベルト・ファンズ。この国の国王である」


 ええと、国王様まできちゃったよ!

 こんな辺境の土地に、大物が大集合だよ!


 と言うか、ファンズ王国の国王様とジーサリス帝国の皇女様が一緒にいていいのか……?


 なんだか大変なことになっている気がする。

 そんな混沌の中、参列席から一人の女性が立ち上がってパンパンっと手を叩いた。


「とりあえず落ち着きましょう。みんな混乱しているみたいですし」


 その女性は大天使ミアだった。

 威厳たっぷりに言う彼女に、ユーフェリア様が首を傾げた。


「貴女も村の人ですか……? そうは見えませんが……」

「ああ、もちろん違いますよ。私はこのマルセルに招待されてからやってきたのです」

「…………え? 神域?」


 今度はユーフェリア様が困惑する番だった。

 ミアの言葉にアルベルト国王たちまでもが困惑している。


 それに対して、アイルやルインは気まずそうに頭を抱えていた。


「そうです、神域です。なんて言ったって、私は大天使ですからね」


 堂々と言い放たれた言葉にユーフェリア様やアルベルト国王たちは疑惑の視線を向けた。


「大天使……? そんなバカな」


 アルベルト国王の呟きを聞いたミアは、いたずらそうに笑って言った。


「そうですか。私が大天使だと信じられませんか……。それならば——」


 おおっと、これは不味いかもしれない。

 俺は慌てて静止の言葉をかけようとするが——。


「ちょ、ちょっと待ってください。ここであれを使ったら——」


 次の瞬間、ゴウっと空気が変わった。

 それは比喩とかではなく、ちゃんと空気が変わったのだ。


 神聖な、輝かしい空気が周囲を包み込む。

 ミアの背中には一対の純白の翼が広がっていた。


「うそ……」


 小さくユーフェリア様の驚きの声が聞こえてきた。

 アルベルト国王たちは驚きすぎて何も言えないみたいだった。


 俺はツカツカとミアの方に近づくと、ペシっと頭を叩いた。


「ミア。ここで神域の力を解放したら、ご覧の通りみんな驚きます。使い所は考えてください」


 すると彼女はシュンとして言った。


「ご、ごめんなさいマルセル。ちょっとやりすぎてしまったと反省します……」

「はい、しっかりと反省してくださいね」


 そんな萎れたミアにクスクスと笑いながら堕天使リンが近づいた。


「ぷぷっー! マルセルに怒られてやんの! お馬鹿さん!」


 ケタケタ笑っているリンをミアは思い切り睨むが、何も言い返さなかった。

 口をパクパクとしていたユーフェリア様が再起すると、恐る恐る尋ねてきた。


「ミア様が大天使様であることは理解しました。しかし……マルセル様とどういった関係なのでしょうか? 頭を叩いて許されるなど、普通じゃありません」


 その問いに、ミアはにっこりと微笑んでこう言うのだった。


「マルセルと私はただの友人ですよ。友人が間違いを犯したら頭を叩いて反省を促す。普通でしょう?」

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