第10話 結婚式は波乱で始まる

 俺が料理人(村の主婦)たちにテキパキを指示を出していると、父が近づいてきて言った。


「マルセルがあんな美少女と結婚するなんてな。俺とは段違いだ。……はあ、母さんもあんな風に可愛かったら、俺の人生も華やかだったのに」


 最近、ずっとネチネチそんなことを言ってくる。

 俺はそんな父に呆れたようにため息をついた。


「……一言一句、そのまま母さんに言うぞ」

「うっ、そ、それだけはやめてくれ」


 父は母の尻に敷かれているからな。

 影でコソコソと言うことしかできないのだ。


「でもまあ、これでようやく俺の夢『まったりゆったりスローライフ結婚生活』が送れるな」

「なんだその夢……初めて聞いたぞ」


 初めて言ったからな。

 20代までは都会に行ってみたいとか、煌びやかな生活に憧れていた。

 しかし30になってからは、まったりのんびりするほうがいいことに気がついた。


 そして結婚願望も生まれてきて、それらが組み合わさってこの夢になったのだ。


「そのためにもまずはこの結婚式を無事に終わらせないとな」

「いやいや、結婚式が無事に終わらないなんてことがあるのか?」


 俺の言葉に首を傾げて父が言った。

 確かに……。

 結婚式が無事に終わらないなんてことは……普通はないだろうな。


 例えば俺と結婚したい人が突然現れて喧嘩になるとか、そういったことがない限りは。

 でも俺はずっと村で過ごしてきたわけだし、ハーレム要素なんて一切ない。


「……うん、無事に終わる未来しか見えないな」

「だろう? ああ、いいなぁ、俺もあんな美少女と結婚したかったぜ」


 まだ言うかこのジジイ。

 今度こそ、俺は母に全部チクろうと思いながら料理を仕上げていくのだった。



   ***



 そして村にある古ぼけた教会で俺たちの結婚式は行われることになった。

 俺とレイナは別々の控え室で着替えをし、呼ばれるのを待っていた。


「マルセル兄ちゃん! もう時間だよ!」


 呼びに来た子供に続いて俺は広間に向かう。

 そしてその手前でレイナと合流した。


「……なんだか緊張しますね、マルセルさん」

「い、いや、そんなことないぞ!」


 俺が強がってそう言うと、彼女は呆れたような視線を向けてきた。


「……そんなこと言いつつ、右腕と右足が同時に出てますよ」

「うっ……たっ、確かに緊張はしてるが」

「でも、マルセルさんが緊張しすぎてるせいで、少し緊張がほぐれました。ありがとうございます」


 彼女はクスクスと小さく笑いながら言った。

 そ、それは男としていいのか……?

 しかし徐々にレイナの表情も自然になってきている。

 それはとても嬉しいことだった。


 そして俺はレイナを頑張ってエスコートしながら広間に入る。

 村人たちや招待した人間(?)たちが参列している席の間をゆっくりと歩く。


 そして村唯一の聖職者である老シスターの前に立った。

 緊張しすぎて何を言われたのかは覚えていないが、俺は必死でコクコクと頷いていた。


 それからしばらく問答があった後、老シスターはこう言った。


「新婦は永遠の愛を誓うか?」


 それに対し、レイナは少し間を置いた後、はっきりと言った。


「誓います」


 そして老シスターはこちらに向き直って同じことを聞いた。


「新郎は永遠の愛を誓うか?」


 俺は緊張でカラカラに乾いた喉から無理やり声を捻り出す。


「ちかいま——」


 俺は言い終わる直前、教会の外から大声が聞こえてきた。


「その結婚式、ちょっと待ったぁあああああああああああ!」

「…………は?」


 思わず困惑の声をあげてしまう。

 みんな何事かと周囲をキョロキョロしていた。


 次の瞬間——。


 パリンっっっっ!!


 そんなガラスが割れる音とともに教会のステンドグラスをぶち破って何かが現れた。


「貴様がマルセルですか! 私と勝負してください!」


 それは見目麗しい美少女だった。

 彼女はワクワクした表情で俺に剣を突きつけてくる。


 ええ……。

 なんだこの展開。


「ええと……あなたは……?」

「私はジーサリス帝国、第一皇女ユフェーリアです! マルセルさん、私と勝負してください!」


 な、なんで帝国の皇女様がこんなところに……?

 それに勝負ってなんだよ……。


 皆がみんな困惑した表情を浮かばせている。

 ……いや、そんな中、面白そうに見てくる奴らもいるが。


「勝負ってなんだよ……」

「決まっています! 勝負は勝負です!」


 意味がわからないんだが……。

 そう困惑していると、今度は扉がバァアンと開かれて重厚な鎧を纏った女性が現れた。


「その結婚式、ちょっと待って!」


 …………ええ。

 また変なのが現れた。


 そして彼女は兜を脱ぎ、その辺にポイっと捨てる。

 その下から現れたのは——。


「る、ルイン……?」


 彼女は都会に行ってしまった俺の幼馴染の、ルイン・ライナーなのだった。

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