第6話 やっぱり結婚は大事
それからレイナは自分がなぜ悪人とされ、こんな辺鄙な場所に追放されたかを語った。
どうやら彼女はもともと第三王子アイズ・ファンズの婚約者だったらしい。
しかし正義感の強いレイナはアイズのワガママな性格を直したくて必死に叱っていた。
だがアイズはそれが気に食わず、それに加え聖女ミーナ・ミシシットに恋をしていた。
そんなある日、アイズはレイナの悪評を周りに広めていき、嫌いなレイナを追放。
それから聖女ミーナと婚約をし直した、らしいと彼女は語った。
「なっ、なんてやつだ! けしからん!」
俺はその話を聞いて鼻の穴を大きくし憤慨した。
そんな俺にレイナは驚いたような表情で首をかしげた。
「……信じるのですか? 私の話を」
「確かに俺は第三王子の人柄も知らないし、信じる根拠はどこにもないかもしれない」
俺が頷きながら言うと、彼女は悲しそうに目を伏せた。
「……やっぱりそうですよね」
しかし、そんなレイナに俺はしっかりと目を合わせて、こう話を続けた。
「でも——レイナが嘘を言っているようにも思えなかった。まだ知り合って間もないし、レイナのことは何も知らないけど、でもなんだか嘘じゃないような気がしたんだ」
俺の言葉に彼女は今度こそ目を大きく見開き口元を震えさせる。
「……何で」
「何でって、まあ……ただの勘かな。でも俺の勘はよく当たるし、絶大な信頼を置いてるんだ」
彼女は声を震わせたまま、感情をドンドンと露わにしていく。
「でも……みんな私の話を信じてくれませんでした。みんな、私を嘘つきだと罵ってきました。みんな、私に冷たい視線を向けてきていました。それからすぐに婚約を破棄され、追放されました。しかも第三王子には、私を口封じするつもりがあるみたいでした」
俺は零れ出てくる彼女の言葉をただ黙って聞く。
「だから——私が生き残るには、マルセルさんに取り入るしか道がないと思っていました」
ああ、だから昨日の夜はあんな風に俺の前で下着姿を晒したのか。
ようやく俺は納得する。
「……しかしマルセルさんはいい人でした。私みたいなのにも気を遣ってくださりますし」
「ええと……いきなり何を言い出すんだ」
俺がジッとレイナの綺麗な瞳を見て尋ねるが、彼女はポツポツと下を向きながら言葉を紡ぐ。
「マルセルさんは私の話を信じてくださりました。でも……思った通り第三王子は口封じのために、こうして騎士たちを送り込み、私を殺しに来ました」
確かにあの騎士たちはレイナを殺しに来たのかもしれない。
だからそれが何だというのだ。
俺にはレイナが何を言いたいのかよくわからなかった。
すると、意を決したように彼女は顔を上げて、俺の目を見返すとハッキリとこう言った。
「だから——私はマルセルさんには迷惑をかけたくありません。この問題は私の問題です。結婚は破棄しこの村から出て行こうと思います」
俺はそんな彼女の決意の言葉に思わず大声を上げてしまった。
「駄目だっ!!」
「……どうしてですか? 私みたいなのに、もう関わる必要もないんですよ」
俺の言葉に、彼女はまた目を見開きこちらを見てきた。
そんな彼女に俺は自分の熱い思いを語っていく。
「それでも駄目だ! せっかくできた結婚相手なんだ! そう簡単に手放せるかよ! だって俺は売れ残りの、34歳未婚なんだぜ! 君に見捨てられたら、俺は今後誰と結婚すればいいんだよ!」
必死だった。
レイナを逃せば俺は一生結婚どころか、恋人もできずに終わる。
無理無理! それだけは絶対にいやだ!
だから彼女が何に悩もうが、誰から狙われようが、逃がすつもりはなかった。
レイナは俺の言葉を聞いて呆気にとられたような表情をするが、すぐに呆れたような視線を向けてきた。
「……わかっているのですか? 私と結婚すれば、貴方も狙われるのですよ?」
「しらんしらん! 結婚できずに長生きするより、結婚して短命で終わる方がいい!」
俺の必死の言葉に彼女は呆れを通り越して、冷たい視線を向けてきた。
「なんて俗な考え方なんですか……。そんなに結婚って大事ですか?」
「大事だぞ。多分、もっと歳を重ねればわかるはずだ」
そう言うと、彼女は諦めたようにため息をついた。
「なんて馬鹿な人なんですか……。そんな単純な理由で私と一緒にいようなんて」
「……駄目か?」
やれやれと首を振っているレイナに俺は尋ねた。
すると彼女は少し考えた後、初めて——出会って初めて、ふんわりと微笑むと言った。
「いいえ。私はそんな馬鹿な人、別に嫌いじゃないですよ」
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