第4話 ドキドキ大作戦
「マルセル、お前結婚したんだって?」
その日の夜、レイナが疲れて眠った後に俺はもう一人の幼馴染の家を訪れていた。
幼馴染——ジン・ルーカスはお酒をグイッと飲みながらそう尋ねてきた。
「……まあな」
「なんか浮かない顔だな。めでたい話なのに」
ちなみに彼は三歳下のミミと結婚をし、子供も産んでいる。
つまりは結婚生活に関しては、俺の先輩というわけだ。
「いや……それがかなり込み入った話でな——」
俺はジンにそう言いながら説明していく。
すると彼はフッと小さく笑った。
「なんだよ、なんか可笑しなところあったか?」
「いや、やっぱりお前って真面目で不器用だよなって」
「うっせ。余計なお世話だ」
「だからルインに逃げられるんだよ」
ルイン・ライナー。
彼女は俺のもう一人の幼馴染だ。
俺は子供の頃、密かに彼女に恋をしていたが、結局俺たちを置いて都会に行ってしまった。
風の噂ではもう結婚しただとか、有名な騎士団の騎士団長をしているとか聞いたりする。
まあ、昔から図抜けて戦闘能力が高かったし、騎士団長になっていてもおかしくはない。
結婚に関しては……まあ、よく分からんが。
「で? 結婚式は挙げるのか?」
「あー……確かに式は挙げたほうがいいよなぁ」
いきなりのことすぎて、結婚式のこととか考えていなかった。
でも式は挙げたほうがいいよな。
一応これでも俺は領主なんだし。
「ああ、挙げたほうがいいな。そっちの方が結婚したって気分になるし」
「でもなぁ……知り合って間もないし、もっと仲を深めてからの方がいい気がする」
「それも間違いない」
俺の言葉にジンは頷いた。
「でもどうやって仲を深めればいいのか」
「……吊り橋効果って知ってるか?」
レイナとの交流に頭を悩ませていると、ジンが突然そう言った。
俺は首を傾げる。
「吊り橋効果?」
「領主なのに知らないのか。この村には代々、吊り橋効果というものが伝わっている」
なんだそれ、初めて聞いたぞ。
てか、この村には代々伝わっていることが多すぎてこんがらがる。
例えば温泉とか石鹸とか醤油とか、全部伝わってきたものだ。
「で、吊り橋効果ってなんだよ?」
「人はドキドキするような出来事を体験したとき、隣にいる人間にドキドキしていると勘違いして恋をするという効果のことだな」
なんだそれ。
そんな便利な効果があったとは。
ジンは得々と話し出す。
「ちなみに俺はそれを使ってミミと結婚したんだからな」
「へぇ〜、それはいいことを聞いた。でも何をすればドキドキするかな?」
俺が尋ねると、彼はニッと笑って指を立てる。
「そんなの決まってるだろ。ドキドキ墓地ダンジョン探索だよ」
***
「あの、レイナさん。ちょっと一緒に散歩でもしない?」
次の日の午前、俺は起きてきたレイナにそう言った。
ジンの教えてくれた作戦はこうだ。
彼女を散歩に連れ出して、森の中で迷ったふりをする。
そんな中、突然目の前に現れる墓地ダンジョン。
何か手がかりがあるかもしれないと一緒にそのダンジョンに入り。
吊り橋効果でドキドキさせつつ、魔物を倒して好感度ゲット。
——とのことだ。
うまくいくのか半信半疑だが、やってみるしかない。
「散歩、ですか? まあ構いませんよ」
いつも通り死んだ目でそう頷くレイナ。
よかった、これで第一段階クリアだ。
そして軽く支度をして、俺たちは森の中に入った。
「武器は持っていくんですね」
レイナは俺の腰にある直剣を見つめながら言った。
これは魔物と戦うために持ってきたのだが、レイナも極悪人かもしれないのでそれ対策でもあった。
まだ完全にレイナのことを信用しきれていない。
流石に国家反逆罪で追放されてきました、という人をすぐに信用できなかった。
「ここらの森でもそこそこの魔物が出てくるからな。村では武器は必須なんだ」
「そういうものなのですね」
それっきり黙ってしまうレイナ。
やっぱり難しい子だ。
それからしばらく黙って歩き続ける俺たちだったが、ふと俺は辺りを見渡して言った。
「アー、迷っちゃったナー。困った困った」
「……え? 大丈夫なのですか?」
「うーん、分からん。ともかく先に行ってみよう」
もちろん、迷ったわけではない。
帰り道はちゃんと理解している。
でも作戦のために、俺は迷子になったフリをしているのだ。
俺はそのままレイナを連れ、墓地ダンジョンの方に向かっていく。
墓地ダンジョンも何度もクリアしているから、今回も問題はないはず。
しかしレイナは不安そうな表情で、俺の服の裾を掴んできた。
「……不安か?」
「いや、迷子になったと言われて、不安にならないわけないでしょう」
確かにそうだ。
俺は安心させるため、服を掴んでいるレイナの手を握った。
女の子の手を握るのは久々すぎて心臓はバクバクだ。
ちなみにこれもジンの入れ知恵だったりする。
手にを握ると、レイナは驚いたような表情でこちらをみてきた。
俺はぎこちなく笑って彼女に言う。
「だ、大丈夫だ。俺が守ってやるからな」
なんか歯の浮くようなセリフだが、これもジン云く効果的らしい。
しかしレイナは目を伏せてしまった。
「そうですか……それなら安心ですね」
なんだか感情のこもっていない言い方だった。
なんか間違ったことを言った気がする。
それから俺たちはジンに言われた通り、墓地ダンジョンにたどり着くのだった。
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