勇者の記憶

@yagihiro

語り手

俺の名前はエギル

そこそこ名のある魔法士だ


俺には幼なじみにアッシュという奴がいた

アッシュは剣を独学で習っている

すげー奴だった

根性と勇気で動いている、俺にはない物を

持っている、そんな奴




──エギルーーーー!!!!!


「なんだよアッシュ、デカい声出して」

「いやさ!?おれさ!めっちゃとっくん

してさ!!」


けんからなんかオーラ出せるようになった!


「…はぁ?何いってるんだよ

オーラとかすごいの出せるのはおとぎ話

だけなんだぜ?」


「見てろよ!」


アッシュがにぎっていた剣から

少しずつ赤いぼやぼやが出てきた

おとぎ話ほどではないけど、アッシュは

たぶん、本に出てきたようなま力をもってる


「あ、アッシュ!ほんとじゃねぇか!」

「な?な?へへッ!」

「アッシュ、まほうと剣両方つかえるよう

になれよ!」


ぴょんぴょんと跳ねていたアッシュの

背中がピクリと止まった。


いいや、ならない


「おれは、とうさんのぶんまで、すげー

剣のつかいになるんだ」


「…そうだったな、おれも

ちちおやよりつよい、まほうつかいに…」


「エギル!おれたち、さいきょー

になろうな!で、んで、いまこのせかいを

こわがらせてる、わるいやつを

ぶっとばすんだ!!」


「あぁ!おれたちでたおしてやろう

もっと、つよくなって!!」


暑い日差しが俺達を照らしている時

そんなことを交わしたのを

今でも、覚えている。



──エギルーー


「なんだよ、アッシュ」


「俺達なんでこんなことしてんの?」


「訓練は力になるからだ」


「でもさぁ…」


ずっと素振りと筋トレと魔力放出訓練は

厳しくない?


「お前、まだまともに剣から魔力

出せてないだろ

今この村にはお前しか手から完全体の

魔力を剣に出させる奴はいないんだ」


アッシュの剣付属の魔力を放出する技は

アッシュのみの特性で、村唯一の勇者候補と

呼ばれている。


「でーもーさぁ?そんな圧かけられても

俺、まだ15歳なんだぜ?」


荷が重いんだよぉー


ブーブーと文句を並べるアッシュに

俺は腹を立てた


「お前覚えてないのか!」


「俺達で魔王ぶっ飛ばしに行くんだろ!!」


気が付くとアッシュの胸ぐらを

掴んでいた俺は、すぐにその手を離した。


「覚えてるに決まってんだろ

ただ、疲れてんだよ」


目の光のない、アッシュのあの明るい顔を

完全にショートさせたような、暗い

見てると手汗をかいてしまうような顔で

アッシュは言い続けた


圧ばっかかけられてさ、村の希望、光、

唯一の力、冒険者の息子、勇者


こんな風に勝手に呼ばれて

期待に応えないといけなくて

弱い一面なんか見せられないんだ


アッシュは精神的に苦痛を受けている

でも、それでも

俺達で、もうかれこれ21年間

村を、世界を脅している魔王を

倒さなくちゃいけないんだ


どんよりとしていて、口を開こうにも

まともに開けない時、アッシュの声がした


なぁエギル


なんだよ…アッシュ


正直な話さ


─俺達二人だけで魔王ぶっ飛ばすとか

無理だと思うんだ


─ハァ!!?


「お前!いい加減にしろよ!!!

訓練を嫌がってお前何がしたいんだよ!

魔王倒そうって言ったのはお前だろ!?

魔王倒す力を持ってないから

力付けてんだよ!!!

そんなに嫌なら俺一人──


「─いや違う」


俺達二人だと訓練しても圧倒的に

力不足だ、だから、仲間を付けようぜ


「仲間…?」




「見ろよエギル!ここが冒険者の酒場だぜ」


賑やかな声だ、だが俺にとっては

少しうるさい。


「酒くさぁ…」


ありえないくらいデカい酒の入った樽を

一気にぐびぐびと飲んでいる…

あれが冒険者…?

あ、あそこにはデカい肉…

こ、これ、図鑑で見た…

ノイシュの肉じゃないか!?

相当の筋力がないとノイシュは硬くて

刃が通らないと言われている…

てことは…


「本物の冒険者なんだ!!!」


あ…


周りの空気が静まり、とても、こう

気まずい。


「?エギル早く来いよ!このうめー肉

30コルで食えるぜ!」



つい大きな声を出してしまった…

アッシュの呼ぶ席へ座り、一息つく


「お、おいアッシュ

俺達の目的は美味い物を食うんじゃなくて

仲間を探しに来たんだからな」


「?覚えてるぞ!当たり前だろ」


「てか、どうやって仲間集めんだよ

俺達名前広まってないし…」


「あー、俺に任せろ!」


「すんません!俺アッシュって

言うんですけど、俺と仲間になってくれる

奴いません?ちなみに、今俺と仲間の奴は

エギルっていう凄腕の魔法士でーす!」


視線が一気にアッシュを向く

アッシュ…あんなに見られて怖くないのか…


「おうおう、ガキがこんな所に来るとはな」

「お前さん、ここは"冒険者"の酒場だぞ?

お前さんは、冒険者じゃないだろ?」

「早く帰りな、君が来るとこじゃないぞ」


──お、おい!!!

「こ、こいつ、村唯一の勇者候補じゃ

ねぇか!!!!」


全員が驚いたような顔してる…

まぁ唯一の勇者候補とか聞いたらそうなるか


「前言撤回!!この冒険者 強度レベルDの俺様がお前を魔法城まで担いでやるよ!」

「クソテメー!!俺は強度Cだぞぉ!!」


子どものように騒ぐ冒険者達を

避けてアッシュに近づく男が一人いた


「アッシュ殿 俺が出てもよろしいだろうか」


「ん?別にいいぞ!」


俺の名前は──





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