第12話 「エースとして勝利し続ける!」
翌日。
ミーティングルームにチームメンバーが勢揃いしている。
理由は単純にして明快。昨日は今後に関する具体的な話し合いが出来なかったからだ。まあ姫島部長がチームに馴染むための時間だったと考えればマイナスではない。
「昨日の終わりに伝えていたように……今日は今後に関する話し合いをしたい」
わけだが……
この席順ってもう少しどうにか出来なかったかな。
進行役とかって普通は全員の顔が見える位置に座ると思うんだけど。
なのにどうして左にシオン、右に姫島部長って感じになっているんですか。
向こう側はレオの左右に水上とエータ。誰も違和感はないという顔をしている。
男女比率で考えて俺の隣に異性が来るのは仕方がない。
しかし、片方はレオであるべきではないだろうか。
「どうしたのミカヅキ? アタシの方をそんなに見つめて……もしかして、お姉さんに惚れっちゃったのかしら♡」
「お前のどこに惚れる要素があるんだ?」
「す・べ・て」
「異世界に転生してからほざいてください」
「辛辣ッ! ふざけたアタシも悪いとは思うけど。もう少し言葉を選んでくれても良いんじゃないかしら。まるでアタシの全てを否定された気分だわ!」
いやだって、ねぇ。
自分よりも身長の高いことは置いておくとしてもだよ。
お前さん、筋肉隆々なオネェじゃん。
口調とか生き様とかで差別するつもりはないけど。
俺の恋愛対象は異性。女の子だ。その時点でレオは対象外。
「両手に花なんだからもっと朗らかな言動を取りなさいよ」
「両手に花なのはそっちも一緒だろ」
「ノンノン、それは違うわ。こっちは両手も花なの」
は?
お前も花って言いたいの? その見た目で?
ないわ。それはない。
身長は変えようがないから仕方がないとしても、自分を花だって言い張るならもう少し見た目から男らしさ消せよ。
女らしさを体現してから言ってくれ。
じゃないと否定の感情しか浮かんでこない。
「レオさんも花……良かったねミカヅキ!」
「何がだよ?」
「ミカヅキ以外が花ってことは、ここはミカヅキのハーレム。君が酒池肉林の王だってことがだよ」
何言ってんのこいつ。
俺の中ではレオは花ではない。問答無用で野郎だ。
レオがハーレムメンバーとは断じてない。拒否する。拒絶する。
そもそも……俺にハーレムとか無理。
全員を平等に均等に等しく愛するとか大変の極み。複数の相手をし続けるとか心身共に疲弊する未来しか見えない。
「それがもしも現実化したら俺は転校する」
「女の子を傷物にするだけして出て行くとか。なかなかの鬼畜野郎だね」
「鬼畜なのは仮の話なのに俺を追い込もうとしているお前だ。大体お前が居る時点でハーレムとか無理だろ」
「え? ボクはむしろ君にハーレムを推奨するよ」
いや、そういう意味じゃなくて。
シオンさんとはこれまでに何度も周囲に誤解されてきたわけだけど。
最初期を抜きにしたらお互いに恋愛的感情はないわけで。
おそらく、何もないなら今もこれからもただの友人という関係に留まる。
そんなあなたが居る時点でここが俺のハーレムになることはないでしょ。
「違うわよシオンちゃん。ミカヅキはそういうことを言いたいんじゃないの」
さすがレオ。
ふざけることはあるが、俺のことをよく分かっていらっしゃる。
そう俺が言いたいのは
「ミカヅキはね……『ハーレムなんていらない。作らない。シオンちゃんさえ居てくれればいい』って感じのことを言いたいのよ♡」
んなわけあるか!
お前、俺のこと全然分かってない。いや分かった上でそのふざけた内容を選んだだろ。他人の色恋を横から突っつくのがそんなに楽しいか?
いや、楽しいんだろうな。
レオだけじゃなく、レオの左右にいる無表情と後輩もウキウキしているし。
このチームメンバー……アドバトのことから離れるとマジで面倒な奴らばっかじゃん。良心的なのって引き抜いた部長さんだけなのでは?
「そうだったんだね……でもごめんミカヅキ、今のボクの推しは君じゃなくて部長さんなんだ。仲良くなりたいのは部長さんなんだ!」
「あっそう、真に受けた回答をどうもありがとう。感謝の気持ちとして部長さんと席変わるわ」
ある意味でこの地獄から抜け出せるチャンス。
そう思って立ち上がろうとしたのだが……
立つな、と言わんばかりに服の一部を掴まれてしまっている。
それは誰か。
答えは俺の右側に居る人物。ここまでの会話をいつもどおりの涼しげな顔で聞いていた姫島部長その人である。
「姫島部長」
「何でしょう?」
「何でしょうって言いたいこと分かってますよね?」
「遠野くん」
そちらもこちらが言いたいこと分かってますよね?
そう言いたい顔ですね。
まあそちらの言い分も分かります。ですが俺も自分のためにそう簡単に諦めるわけにもいかない。
「部長、席を変わるだけです」
「その必要性を私は感じません」
「そうですか。ならシオンと席を変わります」
だからその手を放してください。
「その必要性も私は感じません」
財前さんの隣は嫌です。疲れます。遠野くんが相手してください!
と言っているような駄々っ子状態の部長さんの幻影が見える気がする。
「遠野」
「何でしょう水上さん。見てのとおり俺は忙しいんですが」
「それはご苦労様。でもあんたのおかげでこっちは眼福」
「眼福?」
そんな要素がいったいどこにある?
こちらには俺の行動を阻もうとしている部長さんとそんな部長さんにお熱な金髪ハーフしかいないんだが。
「才色兼備な大和撫子、鉄仮面、絶対零度、第二の才川凜華……数々の肩書きを有する姫島が」
話の途中で申し訳ないんですが。
その肩書き、最初の以外は蔑称なのではないでしょうか。
いや最後のはアドバトのプレイヤーとして考えれば、プロにもなった人間が関するものだから喜ぶものかもしれないけど。
でも確実に最初と最後の間にあるものは確実に姫島部長を侮辱しているよね。
憤慨した部長の怒りが俺に飛び火しないか位置的に不安なんですが。氷の刃のような視線が向けらないか気が気じゃないですが!
「第二の……ふ」
あ、何か嬉しそう。
もしや部長さん、凜華さんのファンだったりするのかしら。
まあ何にせよ、意識が俺以外に行ったのは間違いない。今のうちに部長さんの手の呪縛から脱出を……
うーん、何だろう。
女の子に服を掴まれたりするのってラブコメではキュンなポイントのはずなんだけどな。部長さんの掴み度はガチ。
それ故にこちらもガチで振りほどこうとしないと自由になれない。
このレベルはもうキュン出来ない。シオンの相手をしたくないという彼女の覚悟、想いがヒシヒシと伝わり過ぎて……
これ、もう俺が甘んじてシオンの面倒を見るしかないのかな。
「遠野に対してはなかなかに女の子らしい行動をする。今も隣に居て欲しくて遠野のこと捕まえて」
「そんなことしていません」
とても凛々しい顔で言い切った。
さっきまで頑なに俺を逃がさないようにしていて手が、一瞬にして淑女的ポジションまで戻っている。
「姫島、隠さなくていい。どんなに大人びていてもあんたも女子高生。恋愛は自由」
「隠すも何も遠野くんに対してそのような感情は抱いていません」
水上って怖いもの知らずだよね。
俺だったら部長さんに対してこの手の話題を振ることは出来ないよ。
話題の中の人物にされているから恐怖が増大しているのもあるけど。そうでなくても現在進行形で水上に向けられている部長さんの瞳。日本刀みたいな切れ味があってガチで怖いもん。
まあ、それはそれで置いておくとして。
おいシオン、てめぇは何で俺の肩に手を置いて来てるんだ?
その「残念だったね」と言いたげな顔は何だ?
部長さんが俺に対して何かしているのも大本を辿ればお前が原因だろ。お前が原因で俺も部長さんも迷惑してるんだろ。そのこと理解してる?
「気軽に異性に触れるべきではありません、とか言うタイプなのに?」
「それは……」
財前さんに絡まれたくないからです。
そう口にしたいけど、口にしたらシオンが悲しむ……悲しむならまだしも仲を深めようとしてアタックしてくる。その可能性があるだけに迂闊なことは言えない。
そんな想いが俺には透けて見える。
分かる、分かるよ部長さん。シオンの相手をするのは大変だもんな。向こう側に居る面々はシオンの相手を本気でしたことないもんな。
だから分からないんだよ。シオンの相手を本気でしなくてはならない苦労を。その大変さを。
「キョウコちゃん、あまりヒメちゃんをいじめちゃダメ。ヒメちゃんにはヒメちゃんのペースがあるんだから。あんまり急かしたら困らせちゃうわ」
レオ、それは助け船になっていません。
話題の中心が部長の恋愛に戻っています。
というか、もしかして戻そうとしてる?
はたから見ていられる立場だから俺達をおもちゃにして楽しんでる?
「レオさん、それだと」
「部長、その話はあとでしてくれ。一向に本題に入れん」
「……分かりました」
分かってくれてどうもありがとう。
でも俺の目がおかしいかな?
分かったと言った割には分かってくれていない顔をされているように見える。簡潔に表現するならムスッとされているように思えるのだが。
「ミカヅキ、そういうことばかりしてるとさ。君にはボク以外の女の子が寄り付かなくなっちゃうよ」
「その言い方だと俺だけが悪いみたいに聞こえるんだが?」
今日ここに集まった理由を思い出して。
昨日するはずだった話がお前主催のどんちゃん騒ぎで出来なかったから今日この時間にミーティングをしようとしているんでしょ。
「部長さんを泣かせたらボクが許さない」
「お前は部長の何なんだ? 部長と仲良くなりたいのを通り越して、落としたいとか思ってるなら弱ったところを助けた方が可能性は高くなるぞ」
「確かに」
こういうとき本能に忠実で助かる。
あとは本題に……
「遠野くん、あとで話があります」
……本題に入るだけ。
あとのこととか今は考えない。考えたらメンタル的に辛くなるだけ。
俺はリーダー、やるべきことをやる。負けるな俺。頑張れリーダー。
「さて、今後のチーム方針やら諸々について話をするわけだが」
「ねぇミカヅキ」
「これからする話題に関係ないなら強制的に黙らせるぞ」
じゃないと話が進まない。
それは君達も分かっているのに……何でちょっと黄色い声援が聞こえてきそうな表情をされているんでしょうか。
ミカヅキのドSだとか、そういうプレイなのとでも言いたいのかこいつら。普通は部長みたいに非難するような視線を向けるとかが正しいだろ。
俺の方が正しい行いをしているはずなのにシオンのせいで非難されるとかとばっちりもいいところではあるけど。
「まあ一応関係あるんじゃないかな。装備構成変えたいって話だし」
「そういう話か……事前に伝えてたとは思うが、お前の装備に関しては決められたコスト内なら好き勝手にしていい」
「じゃあ高速機動用のブースター増しましの近接武器オンリーで行くね」
「ちなみに射撃武装は?」
「コストに余りがない限りは無し!」
ですよね。
分かってました。どうぞ好きにしてください。
「お待ちください」
ここで待ったをかけたのは、新規メンバーである姫島部長。
まあ彼女くらいしかシオンのやることにツッコミ入れる人っていないよね。レオや水上とかは受け入れちゃってるし、エータは無意識に毒のような言葉は吐いても否定したりはしないだろうから。
「話を遮ってしまって申し訳ありません。ですがどうしても意見したいことがあります」
どうぞどうぞ。
遅かれ早かれこの部分は話しておかないといけないことなので、この機会にちゃんと納得してもらいましょう。
「このチームのエースが財前さんであり、財前さんの機体にコストを掛けて最大戦力として運用する。そういう方針であることは理解しています。また財前さんの腕前なら大幅に武装変更……今回の高機動重視で近接武器で戦うスタイルでも問題ないとも思います。ですが」
「射撃武装を一切積まないという点だけは看過できない、と?」
「はい」
近接武器をメインに戦っているプレイヤーは、数こそ多くないにしてもプロにだって存在している。
しかし、射撃武装を完全に外しているプレイヤーは初心者でもない限り存在するとは思えない。
何故なら射撃武装……エネルギーライフルといった主流のものを抜きにしてもマシンガンなどを装備していないとミサイルといった誘導兵器の処理が大変だから。
なので姫島部長の言い分は最もである。とはいえ……
「このように部長は申しているが、お前さんに変える気はあるか?」
「ないね。部長さんには悪いけど微塵もない」
「だよな。ならこの話はこれでおしまい。次の話というか本題を」
「遠野くん」
俺に向けられている部長の目。それは……
本当にそれがリーダーとして下す判断なんですか。
あなたは全国大会を、そこでの優勝を目指しているのですよね。
そのように訴えかけてきている。
これがうちのチームのやり方。新参者の部長は口出ししないでくれ。
そんな風に叩き斬ることは簡単ではある。理性的な部長は表面上は納得もしてくれるだろう。
しかし、それでは部長の中にしこりのようなものが残る。
俺の思い描くチーム像。それにはシオンだけでなく、部長も必要になってくる。ならここは多少の時間を割いてでも真の納得を勝ち取るべきだ。
「部長の言いたいことはもっともです。本気で勝ちに行くのならシオンの我が侭じみた要求を呑むべきじゃない」
「ならどうして財前さんの好きにさせるのですか?」
そんなの決まっている。
「それが勝利に最も近づける要素だから」
この中でシオンと最も付き合いが長いのは俺だ。
だから誰よりもシオンという人間がどういう人間なのか。どういう性格をしているのかを理解している。
「はっきり言ってシオンは気分屋だ。楽しいと思えるものにはとことん熱を入れるし、興味がないものは見向きもしない。アドバトに関してもそれは当て嵌まる」
「え、そうなんですか? シ、シオン先輩はいいつも楽しそうにしてると思うんですが」
「それは装備選択もトレーニングメニューも自由。争奪戦という緊張感のある要素が身近にある。そういう要素が揃っているからだ。何の刺激も得られない固定化された日常になった途端、シオンのやる気は目に見えて下がる」
するとどうなるのか。
アドバトにあった分だけのやる気が他のものへと向く。
具体的に言うならオタクとしての活動が強くなる。他のゲームに打ち込むだの、漫画やラノベを買い漁るだの、グッズを収集し始める。過去には同人活動に手を出した時もあった。
まあその頃は、アドバトに触れなければならない時間はテストプレイでのデータ収集の時だけ。時期も時間も限られていた。故に支障が出なかったわけだが、今はそういうわけにはいかない。
「やる気のない時のシオンは、弱いとまでは言わないがエースとしての強さはない。シオンにエースとしての強さがないのなら現状ではこのチームの強みは瓦解。俺と部長でどうにかこの学校の代表になれたとしても、全国大会で勝ち上がるなんて夢のまた夢になる」
それだけシオンと俺達との間では明確な力量の差がある。
部長に関しては、今後の取り組み方次第でシオンに迫ることは出来るだろう。が、俺は間違いなく不可能。エータは狙撃能力だけは上回れるかもしれないが、総合的な強さでは俺以上に歯が立たない。
「とはいえ……無条件に納得しろと言って納得できるものでもない。そのへんは俺もシオンも理解している。だからシオンとは、ここに来る前からひとつ約束していることがある」
その内容は単純にして明快。
「もしもシオンが原因で負けた場合、その後はチームのために自分の意思は表に出さない。チームのためにチームが求める役割をこなす」
え、あのシオンが……
と付き合いの短い君らが心配になる気持ちは分かる。だってシオンさん自分勝手というか、本能に従って行動すること多いし。
しかし、シオンは約束は守る奴だ。
プライベートな遊びで「ミカヅキが勝ったら自分の下着をプレゼントしよう」などと言い出し、適当なこと言っているだけだと高を括っていたら後日本当に下着をプレゼントされた俺が保障しよう。
ちなみにその下着に関しては、懇切丁寧に受け取りを拒否させてもらった。
だってシオンの下着なんか持ってても扱いに困るだけだもの。
「ミカヅキ、その言い方だとボク以外が原因で負けたら関係ないみたいじゃん」
その言い方だと、まるでお前以外が戦犯でもお前に関係あるみたいじゃん。
「こっちはコストをバカみたいに使わせてもらっているんだよ。それで勝利を得られないようなら……誰かのやらかしをカバーして、逆転できないようなら存在理由ゼロだよ」
自分さえいれば勝てる。
そういう傲慢にも聞こえかねない内容だが、自分勝手をさせてもらうための責任。強者としてのプライド。それが真っ先に感じられるからこそ、部長を引き抜く前のミーティングで俺達のやり方にレオ達も理解を示してくれたのだろう。
「だから改めて宣言しておくよ。ボクはどんな戦いでもこのチームに勝利をもたらす。エースとして勝利し続ける! だから他校との練習試合を始め、全国への切符がある無し問わず全ての大会。そして、ここで現在行われているメンバー争奪戦も含めて、一度でも敗北しようものならボクは卒業までエースではなく、チームの駒として生きよう!」
逃げ道を潰した。
これで俺との約束は、チームメンバー全員との約束として認知された。
だがシオンの顔に曇りはない。
むしろ、そこには自信に満ちた笑顔がある。
誇らしげに楽しげに。これが財前シオンの生きる道だ、と言わんばかりの輝いて見える笑みがある。
「……というわけなんで、こいつには好きにさせる。それが嫌なら部長さん」
「分かっています。財前さんより強く……財前さん以上のエースになれ、ということですね」
話が早くて助かります。
いやほんと、俺だって思うところはあるのよ。むらっけの強いエースとか扱いに凄く困るもの。
シオンを超えるエースなんて滅多にいないだろうけど、シオンの近しいエースがいるのならそっちを主軸にしたいところですわ。その方が安定感が段違いだし。
まあでも、姫島部長の負けず嫌い精神に火が付いたようにも見える。
これはこれでチームとしてプラス。姫島部長が成長してくれれば、シオンのやる気がダメな領域まで落ち込むことも少ないだろう。
それにシオンの宣言を聞いてレオ達もシオンへの理解を深めてくれたように思える。チームとしてのまとまりを考えれば、ここだけは今日で一段階上にレベルアップしたと断言できるだろう。
「俺としてはそうなってくれると嬉しいですね。シオンと部長のダブルエースにエータを添えて。それが今後の最終的なプランであり、全国大会で優勝する確率を最も高められる方法だと思いますから」
なので姫島部長とエータには日々精進していただきたい。
そのように締めたい気持ちでいっぱいなのだが、何やらシオンを除いた皆さんの表情がおかしい。特に向こう側に座っている方々が困惑していらっしゃる。
「あ、あの遠野先輩……今の口ぶりだと最終的にわたしがスタメンで、遠野先輩が補欠みたいに聞こえたんですが」
「そうだが?」
「なななな何でそうなるんですか!?」
何で俺は怒られているんですか?
「ど、どう考えてもわたしよりも遠野先輩の方が強いじゃないですか。そそそもそも、わたしは人手が集まらなかったが故の臨時メンバー。争奪戦でメンバーが補充出来たら補欠としてのんびり、もしくはチームからポイされる枠だったはずです!」
現状の実力では確かに俺の方が強いよ。エータより格段に強い。
それは間違いないし、エータをメンバーに迎えた経緯にシオンによるヘイト問題があった。それも事実だ。
だけど……
「俺がいつお前をポイするとか言った?」
「そ、それは……言ってませんけど、普通は常識的に考えて姫島部長という最強カードを手に入れたわけですから。先輩方3人がスタメン。それがこのチームの最高戦力かつ最強の布陣。わたしは要らない子。そう考えるのは自然だと思います」
何でネガティブな内容も入っているのにポジティブに言い切ってんの?
現実的なお話をしているのは分かるけど、何でこの子は自分を卑下するようなことも言ってしまうのかな。
自己評価が低いのは性格的な問題もあるからすぐには無理だろうけど、わざわざ口にする必要がない場面にも入れてくる癖はどうにかしなさい。あなたのためになりません。
「まあ確かに現状ではエータに代わって俺が入る方が、あらゆる戦闘に対応できるだろうし、何よりコミュニケーションを始めとした連携面ではスムーズ。最強の布陣だろう」
「わ、話題に上げたのはわたしですけど。さらりとチクチクしてくるのは良くないと思います。後輩いじめです」
いじめてません。
現実を口にしているだけ。エータくんの今後改善すべき問題を提起しているだけです。被害妄想はやめなさい。
というか、チクチクされて嬉しそうな顔をするな。
お前なりの鉄板ネタなのかもしれないけど、誰にでも使えるネタじゃないからな。ここにいるメンバーは、お前の性格について理解があるからネタとして使ってやるけども。
でも今後のために万人向けのコミュ力の習得。それを疎かにはするなよ。
「エータの言い分は無視して話を続けるが。うちはエース機にコストを掛ける関係上、必然的に他の場所にシワ寄せ来る」
「そうね。だから高機動型に乗ってるミカヅキはともかく、エータちゃんの機体は狙撃くらいしか出来ない武装になっているし」
「ああ。だから言い方を変えれば、狙撃能力さえあれば誰が乗ってもさほど変わらないということになる。つまり、先のことまで考えると」
「遠野が乗るよりも影下に乗らせた方が後々のメリットが大きい……正確には、大きくなる可能性がある。ということね」
そういうこと。
でも水上さん、そこはわざわざ言い直さなくて良かったんじゃないかな?
あなたからすれば事実を言っているだけだと思うんだけど。
言い切る形にしてあげないとエータの性格からして……ほらやっぱり、ちょっと寂しげというか涙目じゃん。自分のこと卑下にしちゃってるじゃん。
後輩の育成も先輩の務めなんだからあとでケアはしといてね。
おいこら、絶対にしとけよ。そのへんまでこっちに回したらオコだからな!
「ただ……ぶっちゃけ、俺達は人間だ。体調を崩したり、止むを得ない理由で欠席する場合は絶対に出てくる。だからメンバー構成に合わせたパターンを事前に考えておいた。それを今から説明……」
したいんだけども。
ねぇシオンさん、どうしてあなたはわざわざ抱き着くように人の肩からタブレットを覗き込もうとするの?
そんなことをしなくても横に座っているんだから見えるよね。
それ以上に全員に見やすいようにモニターに映してあげるからさ。もう少しだけ待つようにしてくれないかな。
向こう側の連中はこれ見よがしにニヤニヤしやがって。
何でこういう時にお前らはシオン側に付くんだよ。俺の味方もしろよ。不公平だろうが。
「遠野くん」
え、俺が悪いんですか?
これから俺は部長さんからお説教、とまでは行かなくてもお小言をもらってしまうのでしょうか。
それはちょっと理不尽過ぎない? さすがに俺が可哀そうじゃない?
「私が代わりに操作しましょうか?」
あ、助け船をくれるつもりだったんですね。
ありがとうございます。
でも代わりに操作してもらうよりもシオンの相手をしてもらえる方が、こちらとしては助かるのですが……
それは絶対にしてくれないという顔をしている。
表情こそさほど普段と変わらないけど、シオンを面倒臭いと思う同士として雰囲気で分かる。
この人、今後多分その手の助け舟はよほどのことがないと出してくれない。
くそ……いつか見てろよ。絶対にあんたにシオンの世話をさせてやるんだからな!
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