第9話 「終わりだ」

 俺には全国で勝ち上がるための構想がある。

 それはシオンを絶対的エースとして位置づけ、他がシオンがエースとして機能するようにサポートすること。

 そのためには俺はこれまで以上に努力に励み、シオンとの差が開かないように努めなければならない。

 こう考えていたわけだが。

 この天道学園には、姫島篝という天才が存在していた。

 才能だけで見ればシオンには劣る。が、凡人の俺よりは才能に恵まれている。その才能を磨き上げれば、俺よりも確実にシオンに匹敵する戦力になる。

 そうなればダブルエースでの運用が可能になるということであり、また体調不良や事故でメンバー変更を余儀なくされてもエースを主軸とした戦いは可能だ。

 それだけに争奪戦が開始された今日、真っ先に姫島部長のチームに対戦を挑み、今後使える人材か確かめるために挑発や発破を掛けたわけだが……


『はあぁぁぁああぁぁぁッ!』

「え、あ、ちょっ!?」

『逃がすか!』

「部長さん、急に気合が段違いなんだけど!」

『財前シオン、私と戦え!』

「それでいてガチギレなみに荒々しいんですけどぉぉぉぉおぉッ!」


 姫島部長の圧に押されるように後退するシオン。

 それをマシンガンを乱射しながら追いかけ回す姫島部長。

 あのシオンが防戦に回るというか、狼狽えるのは珍しいことだ。

 まあ、今の部長さんのプレッシャーを考えると気持ちは分からなくもない。

 あんな姿は小さい頃から親の手伝いとしてやっていたアドバトのテストプレイ。そこでプロと対戦した時くらいしか見たことがない。


「遠野」


 淡々として抑揚のない声。

 はい、すいません。

 水上さん、あなたの言いたいことは分かってます。あれこれ言い過ぎました。

 シオンが満足していなさそうなので小休憩も兼ねて話しかけたわけですが、俺があれこれ言い過ぎたせいで姫島部長が元気になりましたね。

 攻撃は最大防御と言わんばかりの二丁拳銃、致命傷以外は被弾しても構わないと言いたげな最大稼働優先の突撃にシールドを蹴り飛ばすという荒業。

 うちのエースが敵のエースに抑えられる。それは僚機に余裕が出ることを意味している。となれば、必然的にエース以外の誰か。この状況だと俺とエータでどうにかするしかない。


「どうするの?」


 圧倒的に有利な状況だったのに。

 この責任をどう取るつもりですか。

 そう問われるのはごもっともです。

 

「ちょっとちょっとちょっとぉぉぉオォオォォッ! どうするのよミカヅキ。あなたが発破掛け過ぎたせいで、ヒメちゃん完全にガンギマリなんだけど。このままじゃシオンちゃん危ないんじゃない? 危ないわよね!」


 普通は戦闘が開始されればメカニック担当は、機体の操作などでトラブルが起こらない限りは口を挟んでこない。

 が、うちのレオさんは水上からヘッドセットを奪ったのかと思うほど大音量の声で話しかけてきた。正直に言って騒音でしかない。


「レオ、うるさい」

「うるさくもなるでしょ! 圧倒的有利だったのに舐めプからの形勢逆転。まだ完全にそうはなっていないけど、もしそうなったら笑い話にもならないわ」


 それは否定しない。

 しかし、現状で喜ぶべきなのは姫島篝という人間が強敵相手にも立ち向かえる強者であるということ。今後うちのエースに匹敵する実力になる可能性を示してくれているということだ。

 であるならば、俺達がここで負けるわけにはいかない。


「安心しろ。部長さんが激しく攻めているように見えるが、シオンは致命傷になるような損傷は受けていない」


 何なら適切に反撃して損傷具合で考えれば、シオンよりも確実に部長の機体の方がダメージを受けている。


「何なら自分に対してどこまで迫れるのか。それを試そうとしている気さえする。だからシオンが俺達より先に落とされることはない」

「それは……そう見えなくもないけど。でも勝負に絶対はないわ。もしもシオンちゃんが負けちゃったらどうする気なの?」


 どうするも何もシオンよりも上の強者がこの学校に居たと喜ぶだけだ。

 そう言いたくもあるが、俺の見る限り部長がシオンに勝つことはないだろう。


「それを起こさせないようにするのが俺の仕事だ」

「遠野、そこは俺が敵を討つとか言った方がリーダーとして適切」

「万全の準備もない状態でうちのエースを倒すような奴に俺が勝てるわけないだろ」


 こちとらシオンと10回戦ったら最初の2戦、どんなに頑張っても4戦しか勝てない。出会ってから今日に至るまで勝ち越したことがない凡人だぞ。

 シオン以上の化け物に即興で勝てるわけないだろ。勝とうと思ったら入念な準備で時間が必要になるわ。

 リーダーとしては情けないかもしれないが、自分の力量を正確に測れないで行動する方が致命傷。なのでオペレーター達の責めるような目も気にしない。


「そんなことより俺達の話をするぞ。敵のリーダーはシオンに夢中だ。それに俺の予想では、邪魔が入らなければ最終的にシオンが勝利する」

「となると、他の敵を遠野達が止められなかったら負け筋があるってわけね」


 そうだけど。

 そのとおりなんだけども。

 揚げ足を取るような言い回しをしなくても良くないですか。

 俺のメンタルは無敵じゃないのよ。削れる時はちゃんと削れるんだから。

 まあ全身全霊を掛けてシオンを相手にしている部長さんほど辛くはならないけど。


『部長の邪魔はさせないぞ!』

『あなた達は私達が倒す!』


 シオンの加勢をしようとしていると考えたのか、敵の方からこちらに近づいて来ている。

 個人的に部長の手助けに行かれて、それを止めなければならない。しかし、シオンと部長の戦闘は継続される。

 そのような乱戦気味の戦闘になることが最も嫌だっただけにこの敵の動きは正直に言って非常に助かる。

 また陣形が崩れたうえ、こちらが敵の僚機を倒すことになったことを踏まえると、敵をチャフの影響下に押し留める意味はない。

 影響下に押し留めていては、こちらの武装の威力も激減してしまう。

 故に倒すとなれば、通常戦域で。また今後のチームのことを考えると…… 


「水上、プランBで行こう」

「それは構わないけど……今のままだと財前達の戦闘位置の関係からプランが実行できない可能性が高いわ」

「す、すすすすみませんすみません! 自分で考えて動けないポンコツでご、ごめんなさ――ぅッ!?」


 盛大に頭をぶつけるエータ。

 鈍い音が響いただけに両手で患部を押さえるのは仕方がないことだろう。

 マジで遠距離からのサポートにしておいて良かった。

 戦闘中に操縦桿から手を放すとか自殺以外の何物でもなかったし。


「落ち着けエータ。お前に任せた仕事が変わるわけじゃない」

「遠野先輩……でもひとりで大丈夫なんですか? 相手はふたりですよふたり」


 多少緊張が和らいだと思えばこれだ。

 単純に心配しているだけなのかもしれないが、どうして煽っているようにも聞こえるのだろう。

 いやまあ、俺はシオンより弱いですし。

 実際に何か成し遂げるところを見せたわけでもないですから。こう言われてしまうのも仕方がないことかもしれないんだけど。

 けど……ある程度の能力があることは、チーム練習の時に証明してたよな。シオンにしか目が行ってなかったのだろうか。あぁー悲しい。


「だったらお前も前線に上がるか? 俺としてはお前のことを守らずにデコイに使っていいのなら非常に攻めやすくなるが」

「い、嫌ですよ! わわわたしのこと守ってくれるならともかく、囮に使うとか後輩虐待も良いところです!」

「そうね。そもそも、影下の機体はコストの関係から狙撃銃とブレードしか装備していない。そこに影下の力量、そして敵側の力量を考えるとデコイにすらならないわ。ただの粗大ゴミを前線に上げる案はオペレーターとしては反対ね」

「水上先輩……援護してくれているようで遠野先輩よりボロクソに言ってます。わたしのメンタル破壊してますそれ」


 先ほどとは別の意味で涙目のエータである。

 戦闘中に何をやっているんだと怒られそうでもあるが、このチームで考えれば後輩の緊張感が解れるのはプラスだ。

 精神面が不安定では、大会のような場所で本来の力を出すのも難しい。

 この後輩にいつでもどこでも自分の力を出せるようになってもらうには、自分はやれるんだという自信を付けてもらうしかない。

 なら先輩として、このチームのリーダーとして頑張ることにしよう。


「無駄話はここまでだ。水上はエータのポジション誘導を最優先。そこからの狙撃する際の最適解位置には、俺が相手を誘導する」

「了解。ただ、あんたが倒された時点で瓦解するから」


 だから絶対負けちゃダメ。負けたら許さないんだから!

 そうツンデレチックな仮想の水上を想像し、メンタルへのダメージを最低限に抑える。

 ちなみに誤解がないように言っておくが。

 俺はそんなことがしないといけないほど追い込まれているわけではない。そんなことを考えられるくらいには余裕があるだけだ。

 でもさ、わざわざプレッシャーを掛けるようなこと言わないで欲しいよね。この状況を作ってしまった一端は俺にもあるけど。

 もしくはもう少し表情と声に感情を出して欲しい。

 こういう時の水上は、普段以上に淡々としてし過ぎてて内心で何を考えているのか全然分からん。


『残りの敵の場所が不明な以上、まずは奴を叩くぞ!』

『了解!』


 俺に狙いを絞って突撃してくる敵2機。

 チャフの影響から外れたこともあり、敵の手にはエネルギーライフルが握られている。敵の機体選択やコスト運用、武器の形状からして威力や連射は標準規格だろう。

 しかし、俺の駆っている機体は敵と比べると装甲の薄い高機動型。

 シールドは装備しているが、エネルギーライフルの直撃をもらえば1発でも致命傷になりかねない。

 とはいえ……


「――当たらなければどうということはない」


 それに部員全員のデータは一通り確認している。

 現在敵対している部員2名は、突出した能力は持ち合わせていないものの近・遠距離共に隙のないバランス型。姫島部長にチームに誘われるだけあって、総合力で考えればAクラスでも上位に入る実力者だ。

 それを裏付けるように高速機動の姿勢制御、スラスター出力の調整、射撃までの移行時間、射撃の正確性。その全てが評価に値する。


『クソ、ちょこまかと動きやがって』

『熱くならないで。スピードではあちらが上。しっかりと連携しないと無駄なエネルギーを消費するだけよ』


 さすがは全国常連の天道学園の1軍メンバー。

 攻撃が当たらないと熱くなって動きが雑になるプレイヤーはいるが、さすがにそんな甘さは出してこない。

 しかし、部長に対する気遣い故か。

 それとも俺如きに時間を消費させられている苛立ちからか。

 射撃を誘うための減速に釣られる回数が多い。

 エータの移動に目標区域までの誘導。それにはもう少し時間を要する。

 であるならあの2機には、もっと俺に夢中になってもらわないと困る。そのために必要なのは……


『良い感じに戦闘エリアの隅に追い込めているわ。このまま身動きを取れなくしましょう』

『分かった。あいつの機動性が緩んだらオレが近接で……え?』


 敵の操作が一瞬だけ止める。

 それが意味するのは困惑だ。

 まあそれも当然だろう。

 今まで逃げ回っていただけだった敵が、急に自分に向かって突撃してきたのだから。それもただの突撃ではない。最大速度で、だ。

 敵は反射的に左腕のシールドで防御する姿勢を取る。

 俺はそれに対して機体を捻るようにして左腕のシールドを振り上げ、敵機のシールドを弾き飛ばす。

 姿勢を崩した敵機に対して、仕掛けた側のこちらは次への動作に移るのも早い。

 ここでハイエナジーライフルを撃ち込むなり、エネルギーブレードを引き抜いて斬り裂けば、敵機を落とすことが出来る。

 が、あえて倒す選択肢は選ばない。俺は蹴りで地面の方へ叩き落とす。


『ぐ……!』

『させない!』


 カバーに来た敵機の射撃。

 予測出来ていたそれを旋回するようにして回避。落下中の敵にハイエナジーライフルの銃口を向ける。

 終わった。

 そう銃口を向けられているプレイヤーは思ったことだろう。

 だが俺の一撃は敵を確実に破壊できる胴体ではなく、ミサイルポットが装備された右足に命中した。

 直撃したショックと膝から下が爆散したこともあって落下姿勢がさらに崩れる。

 が、どうにかこうにか落下しきる前に敵は姿勢を整えた。


『大丈夫? まだやれる?』

『やれるに決まってんだろ! あの野郎、絶対に許さねぇ!』

『熱くなっちゃダメってさっき言ったでしょ。落ち着いて』

『落ち着いていられるかよ! あいつ、今わざとオレのこと倒さなかったんだぞ。確実に敵を落とせる場面で舐めプかましてきたんだぞ!』


 俺以外が眼中にない。

 敵機の視線や姿勢からそう思えるだけの敵意を感じる。

 どうやら俺の挑発は、きちんと理解してもらえたようだ。


「その調子で俺だけを追い回してくれよ」


 やや後退しながら再度銃口を右足が粉砕している機体へ。

 しかし、ここでやるべきことは敵を倒すことではない。相手のボルテージを上げるためにあえて直撃しないラインで、エネルギー弾を放つことだ。

 敵機は回避できるように警戒態勢。

 そこに放たれたエネルギー弾は、俺の思惑通りの軌道を描いて空を切り裂きながら地面へ落ちていく。

 回避しようと動き出そうとした敵機は、軌道を把握したと同時に停滞。一瞬の静寂。そして、右足がない敵機は怒号を発しているだろうと思えるほどの愚直な突進を始めた。


『お前だけは絶対に落とすッ!』

『バカっ! 熱くなるなってあれほど……もう!』


 もう1機もやや遅れながらこちらに向かってくる。

 姫島部長にチームメンバーとして選ばれる力量。動きから見てとれる冷静な判断力。味方の動きに合わせられる高い能力値と性格。

 事前に確認できたデータと実際に相対してから得られたデータ。

 現在進行形で起こっている事象は、そこから組み立てた予測どおりの動きだ。


『この、この。このぉぉぉうおぉッ!』

『落ち着きなさい! そんなデタラメに撃っても……あぁもう、話を聞きなさいよ。そんなんじゃ相手の思うツボでしょうが!』


 熱くなったことで生じている愚直な動き。当てることに躍起になっている射撃。

 それはこちらからすれば誘導もしやすく、後方からカバーしようとする身からすれば、自身の射撃ラインを塞ぎやすく端的に言って邪魔だ。

 この状況を続ければ、確実に敵機のコンビネーションは悪くなる。

 そうなれば必然的に俺には更なる余裕が生まれ、逃げだけでなく反撃するチャンスも巡ってくるというものだ。

 敵の動きを予測し、前衛と後衛の軌道が重なった瞬間に高エネルギー弾を発射。俺の動きが見えていた前衛は回避行動を起こそうと動き始める。


『甘いんだよ!』

『――え……嘘でしょ!?』


 後衛の敵機は即座にシールドを構えて防御態勢を取る。

 が、ハイエナジーライフルの一撃は強烈だ。並のシールドでは完全には防ぐことが出来ない。

 エネルギー弾が直撃したシールドは7割以上の欠損。衝撃を受けた左腕にもダメージは及んだようで、手首や肘からは損傷の証として漏電が見てとれる。


『いい加減にしなさいよ! あなた、私を殺す気?』

『いや、そんなつもりは……!』

『だったら自分勝手なプレーはやめなさいよね!』


 敵機の速度がわずかだが緩んだ。

 どうやら今の一件で頭に血が昇っていた部員が冷静さを取り戻したらしい。

 流れが流れだけに口論が起きていても不思議ではないが、さすがに仲間割れまでは起こしてはくれないようだ。

 まあさすがにそんなことをするプレイヤーが、全国常連校の1軍に在籍しているわけもない。故に気落ちする理由はなく、また必要もない。


「遠野、影下の準備が出来たわ。誘導座標を確認して」


 期待もなければ興奮もない。淡々と業務をこなす落ち着いた声。

 先ほどは気落ちさせるような言葉もセットだっただけに続きがあるかも、と警戒したが、そんなものはなかった。

 返事をしつつ送られてきた座標を確認。

 そこに誘導するように進路を調整しつつ、自分へのヘイトが途切れないように逃げ切らず、攻勢に出過ぎず、目標地点へと向かっていく。


『あなたの機体も私の機体もダメージを負ってる。それに悔しいけど、相手の力量はかなりのものよ。ひとりひとり襲い掛かっても対応される可能性が高いわ。だからふたり同時に仕掛けるわよ』

『……分かった』

『気落ちしないでよ。部長は敵のエースと戦ってる。私達は私達がすべきことをするの。大丈夫、あなたと私になら出来るわ。だって私達は数ある部員の中から部長に選ばれたんだから』

『……そうだな。よし、やってやろう。あいつに俺達の力を見せてやる!』


 前衛と後衛に分かれていた陣形が、ツートップの形に変化する。

 先ほどまでと違って片方の射線を潰しにくいだけに撃ち合いは避けるべき。数的不利の現状なら通常は逃げ一択。仲間との合流を図るべき場面だ。

 とはいえ、うちのエースは部長さんとお楽しみ中。

 もうひとりは狙撃しかできないというか、それ以外をやらせようとすると露骨にボロが出そうな後輩ちゃんだ。

 そんな後輩ちゃんに多少なりとも自信を付けてもらうためにも……


「ここは俺が頑張るしかないか」


 目標としている空域には到着した。

 あとは狙撃ラインに敵機を誘導するだけ。

 もう逃げる必要はない。


『さっきの借り、絶対に返してやる!』


 機動性を落とそうとする狙いが感じられる的確な射撃だ。

 だがこちらも大幅な横軸への誘導が必要なくなっているだけに三次元的な行動が取れる。そう簡単には直撃はもらわない。


『あなたは確実に私達が落とす!』


 味方と連携し、俺を挟み込むように接近しながら放たれるエネルギー弾。

 その狙いはこちらの武装やスラスターではなく、直撃すればほぼ確実に行動不能になる胴体から腰部に集中している。

 とはいえ、うちのエースの射撃と比べれば精度も低く圧もない。それでいて素直な射撃だ。

 どちらかに完全に死角に回り込まれなければ、直撃をもらうどおりはない。


『何だよこいつ……何でこの状況下で1発も当たらないんだ? 高機動型とはいえ、こっちはそこまで大きく速度が劣るわけじゃない汎用型だぞ』

『焦らないで。相手の腕前は賞賛に値するものだけど、動き回れるエリアは確実に縮んできてる。だから』


 チャンスは必ず来る。

 そう思ってくれていれば。いや、そう思ってくれているだろう。

 何故なら確かに俺は追い込まれている。

 それでいて、俺の駆る高機動型は積載量が低い。またチームの構成的に装備コストはシオンの機体に集中している。

 加えてこの機体のメイン武装は、強力な一撃故に1マガジンあたり弾数が少ない。

 それは同じペースで撃ち合えば必然的にリロード時間が、攻撃できなくなる瞬間が敵よりも早く到来することを意味する。

 味方が近くに居れば、無防備な時間をカバーしてもらえるだろう。

 が、こちらは作戦の都合上……正確にはエースに満足してもらえるようにする都合上、現状では俺からヘイトが切れることはない。

 そのため敵が絶好の攻撃タイミングを見逃すことはないのだ。そこを俺は逆に利用する。


『そこで下には行かせない……よし、行ったわよ!』

『任せろ!』


 進行する先には、エネルギーライフルを構えた敵機。

 俺の逃げる先を制限し、誘導した先に待ち構えていた完璧な布陣。確実に撃破を狙えるタイミングだと言える。

 だが彼らはミスを犯した。

 このゲームは3対3で行われるチーム戦。

 こちらの3人目が入ったばかりで頭角も現していない1年生だからか。単なる人数合わせで入れただけだと思っているのか。

 そこの真偽は定かではないが、確実に言えることは敵機は今この瞬間に限って言えば、俺のことしか見えていない。

 つまり、彼らには意識的な死角が良まれてしまっている。


『これで……!』

「終わりだ」


 宙を駆ける一筋の光。

 一切のブレなく進んだそれは、的確に機体の胴体を貫いた。

 風穴の空いた機体は糸が切れた人形のように体勢を崩し始め、落下の始まりと同時に爆散。


『え……』


 勝利を確信していたのだろう。

 だが実際に起こったのは、俺の撃墜ではなく仲間の爆散。予想していなかった事態に敵プレイヤーの思考は停止している。

 故に俺はこのタイミングを見逃すはずもない。

 まずは万が一の反撃に備え、メイン武装を持った右腕に対して射撃。

 迫り来る高エネルギー弾に気づいた敵は、回避行動を起こすが間に合わずに右肘から先が木っ端微塵。その余波で体勢も崩れる。

 そこにすでに高機動で肉迫していた俺は、ハイエナジーライフルをエネルギーブレードに持ち替えて攻撃。敵機の上半身と下半身を分断する形で仕留めた。


「――楽しかったよ部長さんッ!」


 残った敵に意識を向けてみれば、ちょうどシオンが敵のエースをブレードで両断する瞬間だった。

 大半の武装がパージされ、近接用のブレードで仕留める形になったことから姫島部長は善戦したのだろう。

 シオンの勝利は疑っていなかっただけに何も言うことはないが、彼女を相手に戦い抜いた姫島部長に対しては賞賛を贈りたいと思う。

 とはいえ。


「……何か一気に疲れてきた」


 俺達は勝利した。

 これでどうにか全国大会で優勝するための、この学校で為すべきことを為すためのスタートを切ることができる。

 その安心感を噛み締めながら俺はゲームが終了する瞬間を待つのだった。



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