第2話 「そんな相手如きに負けていいと思ってるの?」

 施設内の一角にあるミーティングルーム。

 そこには巨大なモニターと30人分ほどの席と小型デバイスが設置されており、自分達だけなく他校のアドバド研究にも活用されているらしい。

 とはいえ、今大切なのはこの部屋のことではない。


「よし、全員揃っているな」


 俺とシオンの前には、事前に招集されていたAクラス。

 総勢28名の視線が一斉に向けられている。

 ここに集められた者は、新入部員が入る度に部員数が3桁を超えるこの学校において大会に出場するメンバーになれる可能性があるトップ層。簡潔に言ってしまえば1軍のメンバーになる。

 事前にある程度の説明を受けてはいるのだろうが、檀上に立っている俺とシオンに対する反応は人それぞれだ。

 興味を持った顔をしている者もいれば、可愛い綺麗と盛り上がっている者。眠そうにだらけている者もいれば、暇だと言わんばかりに片肘を突いている者もいる。

 強豪校と言えば規律が取れている。模範的な生徒ばかり。

 そういう印象を抱きがちだが、ここは他者に迷惑が掛からなければいい。実力があれば多少のことを目を瞑るということなのだろう。

 視界に映る人物の中で最も俺の意識を引いたのは、最前列で明確に敵意を持っていそうな男子生徒。そして、その男子生徒とは対照的に凜とした眼差しで俺達を見定めようとしている女子生徒だ。


「事前に伝えていたように今日からこの部に新メンバーが加入する。お前達、簡単に自己紹介をしろ」

「遠野三日月です」

「ボクは財前シオン、よろしく」


 シオンの笑顔に男女問わず歓声が沸く。

 同じ土俵に立っているはずなのにこの場違い感。これで一般男子と美少女の差というやつか。

 まあ別にどうでもいいんだけど。

 似たようなことは今までにも何度かあった。多分近い将来シオンに対して残念に思う奴が出てくる。そこまでがこういう時のセット。お約束だ。


「さて、これからの日程だが」

「才川先生、少しよろしいでしょうか?」


 流れを遮ったのは、先ほど俺達に敵対心のような視線を送っていた男子。

 ネクタイの色を見る限り、俺やシオンと同じ2年生のようだ。

 パッと見は責任感の強そうなイケメンだが、真面目過ぎて融通が利かなそうな雰囲気を感じる。


「何だ?」

「彼らの自己紹介では名前だけしか分かりませんでした。彼らにはどういう経歴、どのような大会結果があるのでしょうか?」


 え、そこ気にしちゃいます?

 ここが弱小校であればそう言えたのだろう。

 が、現実は違う。

 ここは全国的に知名度のある強豪校。

 そして、この場にいる大半はこれまでに大会での上位入賞経験があるはずの1軍。

 俺やシオンの実力を気にするのは当然といえば当然だ。


「そんなものはない」

「……はい?」

「そんなものはない、と言っている。こいつらが元々所属していた高校は偏差値も標準的な公立の進学校だ。大会実績に関しても幼少の頃まで遡れば分からんが、少なくとも中学生以降に大会に出た記録はない」


 ちょっ凜華さん、あんた何を言っちゃってくれてんの!?

 確かに俺とシオンが去年まで所属していた高校は、アドバトとは無縁のところだったよ。大会に出た覚えもないよ。

 だけどさ、ここできっぱりとそんなこと言ったらトラブルが起きかねないってあなただって想像は付くよね?

 その証拠に質問していたイケメンくんの顔が凄く強張っていっている。今にも怒号が飛び出してもおかしくないくらい顔が真っ赤なんだけど。


「さ、才川先生……あなた正気ですか?」

「気が狂っているように見えるか?」


 何でここで煽っちゃうの?

 あなたは先生でしょ。この場に居る連中より一回り上の大人でしょう。

 どうして衝突を起こすような言い方しちゃうのかな?

 ぶつかり合いも青春の1ページだとか思っちゃってるの? 憧れてるの?


「表面上は見えなくても中身は狂っているでしょう! ここは天下の天道学園で主力メンバーしか所属できないAクラスですよ? それなのにどこの馬の骨とも分からない連中を加入させるだなんて……こいつらのせいでAクラスに上がれなかった奴だっているんですよ!」


 仲間のために本気で怒れるなんてこのイケメンくん主人公かよ。

 どれだけ去年の1年間、青春を謳歌してきたんだ。

 もしもこいつの親友が俺達のせいでギリギリAクラスに所属することが出来なかったのなら。

 そう考えると少しだけ罪悪感が芽生えそうだ。

 でも……


「誰のことを言っているのかは分からんが、Aクラスに上がれなかったのならそれがそいつの実力だ」

「な……」

「いいか伊集院」


 イケメンくん、お前の名前って伊集院って言うのか。

 イケメンは名前もイケメンっぽいというのか。さすがはイケメンくんだぜ。


「いやこの場に居る全員よく聞け。貴様達も3年生が引退してすぐに所属を決めるためのテストを受けたはずだ。それと同じものをこのふたりにも受けさせている。これがその結果だ」


 才川先生は卓上にあったタブレットを操作する。

 すると卓上近くにある巨大モニターに次々と俺やシオンのデータが表示された。

 それを見て室内は驚愕や困惑に包まれる。


「見て分かるようにこいつらは操縦技術、射撃、格闘、戦況予測……どのテストでも最高水準の評価を納めている。つまり、こいつらには貴様達も良く知る人物。部内ナンバーワンであり、現部長を務めている姫島と同等以上能力があるということだ」


 その言葉に室内はどよめく。

 雰囲気からして凄く評価されている。分かりやすい例を挙げたんだ。

 ということは空気で分かる。のだが……

 姫島って誰?

 俺達そのへんの説明されてないんだけど。さすがに部長さんの顔くらいはすぐにでも知りたいんですが。

 シオンさんもそう思わないかい?


「うん?」


 俺が視線で訴えたら小首を傾げるシオンさん。

 何気ない動作だけど可愛さが詰まっている。

 こいつって本当に見た目だけは良いよね。何をやっても絵になっちゃう。

 まあそれは置いておくとして。

 どうやらシオンさんは俺のように部長が誰とか気になっていないようだ。

 さすがはシオンさん。常に自分の道を突き進む女。肝っ玉が据わってらっしゃる。

 ま、単純に興味がないだけかもしれないが。

 オタクって生き物は自分の興味のあるものにしか反応しなかったりするし。


「まあちょうど良い機会だ。この際はっきりと言っておこう」


 明確な意思の宿った言葉に全員の意識は才川先生へ向く。

 怒鳴ったりしていないのにこんな重々しい空気を作れる人、20代の教師でこの人以外にいるのだろうか。いや、いない気がする。

 これがクールビューティー属性に許された支配力。

 う~ん、この人に春が訪れるのは遠そうだ。

 気が強くない男性は人睨みで委縮してしまうことだろう。自分の春が遠いから余計に俺とシオンをくっつけようとす……

 はい、すんません。

 ちゃんと才川先生のお話を聞かせていただきます。

 だから咎めるような視線を向けるのやめてください。偶々かもしれないけど、タイミング的に内心が見透かされたようで怖いです。


「私は全国大会優勝を目標に動くつもりだ」


 大きく出ましたね。

 まあ現役時代に全国大会優勝を経験しているわけだし、全国大会出場常連校なわけだから当然の目標と言えば当然だろうけど。

 ただ明確な意思を持って断言されると惹きつけられるものはある。

 その効果は付き合いの長い俺やシオンも含まれており、素を知らなそうな部員達には顕著に現れている。


「お前達もわざわざ強豪認定されているここを選んで入部してきたんだ。多少の違いはあれど、似たような目標は持っているだろう。しかし、はっきり言って今のままでは全国大会で輝かしい記録を残すのは不可能の近い……いや、今のままであれば不可能だ」


 断定する形で現実を叩きつける言葉に動揺が起こる。

 才川先生の言葉に揺れを見せなかったのは、この部の現状を正確には把握できていない転入組の俺とシオン。

 そして、部長を務めているという姫島という女生徒だけだった。


「お言葉ですが才川先生! 確かに僕達の実力は引退された先輩方に劣っている者が大半です。ですが世代交代が起きているのはどの学校も同じ。全国大会という舞台を考えれば勝ち上がるのが難しいのは分かります。でもだからといって不可能と言い切られるのは納得できません!」


 伊集院、お前って奴は……。

 武人みたいな凜華さんに面と向かって臆することなく、皆が思っていそうな言葉を代表して言ってのける。

 もうお前が主人公だよ。持つ者の矜持みたいなものをお前は持ってる。

 もしも俺がこの部活に関わらない立場だったら素直にお前のこと尊敬するし、話す間柄でなくても応援すると思う。


「納得しようとしなかろうとそれが現実だ」

「ッ……!」

「伊集院、確かにお前を始めここに居る者は全体的に見ればアドバトのプレイヤーとしては実力者だと呼べる。自分自身の力に自信を持つのは悪いことではない。が、全国大会は実力者のみが集まる場所だ」


 才川先生はタブレットを操作する。

 モニターに映し出されたのは、ここ10年間の天道学園の大会記録。

 数々の大会で上位入賞。全国大会出場。

 その言葉だけ見れば十分と言える成果を残している。


「毎年のように全国大会出場……それは立派な成果だ。私がここの顧問ではなく、ただのOBという立場であったなら素直に賞賛しよう」


 優しい声色だ。

 本当に凜華さんはそう思っているのだろう。

 しかし……

 心を入れ替えるように才川先生は深めの息を吐く。


「だが……現実は違う。私はここの顧問だ。去年までとは違い、2軍以下の面倒を見るサブではなく、1軍であるお前達Aクラスを指揮するメインの立場にある。どうして私がサブからメインに昇格したかお前達は分かるか?」

「それは……前のコーチがやめられたから」

「そうだ。そのとおりだ。だがどうして前任者はやめた? どうして転勤といったやむを得ない理由もなく、この学校のこの部活の顧問やコーチは短い期間で入れ替わっていると思う?」


 そんなの……。

 部員達の顔が物語っている。

 ここまでの流れが。才川先生の言葉が。

 自分達が見ようとしていなかった。強豪校であるが故に課せられた重圧を。実際に現実に起こってしまっている現実を。大人の事情を叩きつけてくる。


「私の代で成し遂げた全国大会優勝を境に成績は年々低下傾向。ここ数年に至っては初戦や2回戦での敗退ばかりだ。この学校はただの強豪校ではない。アドバトというコンテンツに力を入れ、プロを輩出し、その実績を用いて生徒数を稼いでいるアドバトの強豪校だ」


 学校もビジネスである。

 公立ならともかく天道学園のような私立は生徒数を稼いでなんぼ。

 元はトップの趣味や願望で始まったのかもしれない。ここの経営は富豪の道楽のひとつかもしれない。

 しかし、どんな事情や理由があるにしても生徒数を維持できなければいつかは不要だと判断されて切られてしまう。


「一個人として見れば、過去の生徒や指導者を責めるつもりはない。先ほども言ったように十分に立派な結果を残している。が、ここの顧問として見れば話は別だ。私にはお前達を勝たせる責任がある。お前達を強くする理由がある。自分の青春時代の思い出が詰まった場所が気が付いたら廃校になっていた、などと堪ったものではない」


 大人の事情があります、みたいなこと言っていたけど。

 本音としては最後のが最大の理由なんじゃないのか?

 見方によっては単純に熱い人ってだけなのかもしれない。

 でも凜華さんだからな……


「故に断言しておく。私の目から見て今のお前達は弱い。例年のように全国大会までは行けても勝ち上がることは不可能だ」


 皆を代表して反論していた伊集院も沈黙。

 室内の空気はまるでお通夜だ。

 強豪校に来るような連中なのだからプライドもあるだろう。

 言い返したい気持ちはあるのだろう。

 しかし、相手は才川凜華。

 ここ天道学園のOBにして全国大会優勝経験者。

 加えて、コーチとして赴任する前にはプロチームで活動していた時期もある。

 確かな実績を持っているだけに今聞いた言葉は事実。明確な現実なのだと理解するしかないのだろう。


「とはいえ……これはあくまで今のお前達では、という話。来年まで見据え、お前達が明確かつ正確に努力を詰めたなら話も変わってくるだろう」


 アメとムチの使い分けが上手い。

 声色まで冷ややかなものから温かみのあるものに変えていたこともあって、部員達の目が才川先生に集まっている。


「そのために私は例年通りのやり方ではなく……正確には例年通りのやり方に加えて私自身の考えを盛り込んで練習メニューや方針をお前達に示す。まず最初に行う改革はこれだ」


 モニターに映し出されたのは、天道学園の大会出場メンバーを決める際のデータ。

 これまでは1軍であるAクラス所属の上位5名にリーダー権を与え、共に戦う仲間を控え含めて3人スカウト。そこに専属のメカニックやオペレーターを加えた5~6人ほどのチームを作り、一定期間の練度上げを設けて総当たり戦を行う。

 そこで戦績の良かった最上位のチーム。出場枠の多い大会に関しては次席のチームまでが学校代表として大会に出場。これが天道学園の従来のやり方だ。


「お前達も知っての通り、これがここ10年のやり方だ。際立った戦績こそ残していないが、全国大会に出場という実績は出している。また新チームに以降するにあたり上位勢はこのやり方を視野に入れ、すでにチームの構想を練っている者もいるだろう。故にこのやり方に関しては大きく変えるつもりはない」


 では、どこをどのように変えるのか。

 どのような要素を付けたすのか。

 部員達の意識は才川先生に集中する。


「私が行う変更点はリーダー権を持つ者の増員。例年は上位5名だが、今年は今日から合流したスカウト組にもリーダー権を与える」


 分かっていたことではあるけど……

 好奇心に満ちた目はともかく、ぎらついた目を無数に向けられるのは少し居心地が悪いな。呑気にあくびをしているシオンさんが羨ましい限り。俺もこれくらいずぶとくなりたい。


「だが両方に与えるわけではない。このふたりは外部から来たばかり。云わばここの色に染まっていない新しい風だ。リーダー権はこのふたりのどちらかに与え、もうひとりには同じチームに入ってもらう」


 それっぽい。それっぽい理由だ。

 だが実際は、俺はともかくシオンがここのやり方に馴染めるか分からない。

 何故ならシオンは天才。凡人が努力することを最初から出来てしまう。練習しなくても出来てしまう。そんなタイプだ。なので気が向かない時は練習をしたがらない。

 だから俺らをセットにして無駄な衝突を起こさないように。衝突が起きても最低限にするつもりなのだろう。

 まあそうじゃないと俺の身が持たないんですけど。

 どうせシオン絡みのこと処理するの俺だろうから。


「加えて、これまでは負傷や病欠による離脱。転向や退部といった理由を除いて、チームワークの維持及び向上のためにメンバー変更は行ってこなかった。が、今回からはメンバーの入れ替えは自由とする」


 データだけ見た場合の相性。

 接する時間が増えたからこそ見せてくる素顔。

 そういうものがあるだけにこれは良い変更だと言えるだろう。

 人間という生き物は多種多様だ。ひとりひとりに考えや意思、夢がある。

 どうしても歩み寄ることが出来ない誰かが居ても不思議ではない。


「また入れ替えに関してはチーム未所属の者だけでなく、チーム間でも可能とする」


 求める人材を交換することも可能ということですね。

 そのためには交渉とかも必要だろうし、チームメンバーとの対話も大切になるだろうけど。強いチームを作るためには重要……

 あのねシオンさん、話を一方的に聞くばかり暇なのは分かる。

 分かるんだけど……人の気を引こうとするのやめてくれない?

 俺と君はここの人達に内面とか知られてないの。だからウィンクとかだけでもあらぬ誤解を生む可能性はあるわけ。

 でもそれ以上にモニターとか見てるフリしてボディタッチしてくるのやめて。

 時折あなたの立派なお胸も当たっちゃってるから……あ、その顔はわざとですね。

 当たってるんじゃなくて当ててるってやつですか。なら反応したら俺の負けじゃん。色んな意味で。


「ただまあ、これだけは面白みにも欠ける。例年のやり方に融通を利かせた程度だ。なので……大会に出すチーム選出テストの前日までは練習試合を行い、勝利チームは敗北したチームからメンバーの引き抜きを良しとする」


 な、何だってぇぇッ!?

 レベルでは生温いほど室内がどよめく。

 落ち着いているのは話した本人である才川先生。

 彼女を除けば、新参者でありあらかじめ彼女のやりたいことを聞かされていた俺とシオン。そして、この中で唯一才川先生の考えを真に理解していそうな部長の姫島さんだけだ。


「待ってください才川先生!」

「またか伊集院。今度は何だ?」

「何だも何も今先生が仰ったことはいくら何でも横暴が過ぎます!」


 もしもチームメンバーを奪われた場合。

 その日までに積み上げてきたチームとしての練度を失う。

 また新しいメンバーの選定と補充。そこから戦術と機体カスタマイズの見直し。一からの練度向上……などなど。

 練習試合に負けた際のリスクを考えれば、伊集院を始め多くの部員達が狼狽えるのも無理はない。

 ただ……そう思う一方でこうも思う。

 このエリートさん達はどういうチームを作りたいのだろう?

 全国大会優勝を目指すチーム……《最強》のチームを作るなら凜華さんの言っていることは理解できると思うのだが。欲しい人材がいるのに手にする機会がない方が嫌じゃないのか。


「チームというものは1日やそこらで出来上がるものじゃない。それなのに強引にメンバーを奪われるなんてそんなの」

「負けなければいいじゃん」


 至って普通の声だった。

 何の淀みもなく、何の昂りもない。

 当たり前のことを口にしただけ。

 そんな声だったからこそ今の部室内においては効果があった。

 感情のままに話していた伊集院も声の主に意識を引っ張られている。


「確か伊集院くんだっけ?」

「あ、ああ」

「急に割り込んで悪いと思うんだけどさ。何で君は負けてメンバーが奪われる。それが起きる前提で話してるの? さっきも言ったけど、負けなければいい話だよね」

「それはそうだが、勝負の世界に絶対はない。普段は実力で上回っていても試合当日に何かしらの事情で本来の力が発揮されない可能性だってある」

「うん、まあそれはそうだけど……」


 あ、やばい。

 この顔は言おうか言わないかで迷っている顔だ。

 学校に居る時間の居心地の良さを考えたら是非ともシオンには言おうとしている言葉を呑み込んで欲しい。

 しかし、何を言おうとしているか理解できるだけに。

 俺とシオンがここに来た理由を考えた場合、俺から彼女にやめるようには言えない。遅かれ早かれ俺達は一部の部員とはぶつかってしまう。それはこれまでの部員達の反応から分かっていたことだ。


「それってただの言い訳だよね」


 ……止めないとは言ったけど。

 何でここでお前は言い切っちゃうの。鋭利な言葉を剛速球で投げつけちゃうのよ。

 言い訳にしかならないんじゃないかな? とか柔らかい言い方とかあるでしょ。

 結局は同じことかもしれないけど、その言い方だと敵しか作らんて。


「ここまでの流れからボク達の今後の目標は全国大会優勝を勝ち取ること。それは君も他の人達も分かってると思う。だったら《勝てる》チームを作るのが重要だってことも分かるよね?」

「分かってる。だからそのチームを作るためにメンバーを奪われたりしたら作れるものも作れないと言っているんだ」

「何で?」

「何でって……」


 何で分からないんだと言いたげな伊集院。

 その伊集院の価値観や考えに共感できないシオン。

 このふたりは、現状だとどこまで行っても平行線だろう。


「全国で優勝するってことは負けが許されないってことだよ? この学校の部員達は仲間。それ故に簡単に観察も出来るし、それを元に対策も立てられる」


 やめて。それ以上はもうダメ。ミカヅキさんの精神力はゼロよ。

 そうアドバト以外のことなら言えたのに。

 場の空気とかシオンの様子とかを窺うまでもない。直感的に分かる。

 この後、確実に亀裂が生まれますわ。


「そんな相手如きに負けていいと思ってるの?」


 ……はい。空気が凍りました砕けました。

 シオンのせいで俺の好感度もダダ下がりです。

 この場でプラスの感情を見せているのは才川先生だけ。

 あんたは良いよな上から仕切るだけだから。

 こっちは絶対シオンからリーダーやれって言われるんだぞ。俺とシオンだけじゃダメだからメンバーを集めないといけないんだぞ。

 その難易度がたった今跳ね上がりました。俺のメンタルはガチで憂鬱です。

 でも……やるしかない。頑張れ俺!



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