アドバト ~日本一という称号を掴み取るために招集された俺達!~

夜神

強豪校で最強のチーム作りを始める俺達!

第1話 「スカウトした私の評価に響く」

 人型兵器。

 メカやロボット好きな者ならこの言葉だけで興奮を覚えることだろう。

 実用性を考慮すれば人型にする意味はない。

 そういう意見もある。が、三次元で実現出来ていないものに大切なのはロマンだ。

 さて、どうしてこの話題を出したか。

 その答えは、3人1チームがそれぞれ人型兵器を操って戦うゲームが世界的に流行しているからだ。

 ゲームの名前は、《アーマードール・バトルシミュレーション》。

 一般的に頭文字から《AD・BS》、略す形で《アドバト》と呼称される。

 このゲームは従来のものとは違い、進歩したVR技術と専用のコクピット型マシンによって高レベルのリアリティを実現している。

 ある意味、二次元にしか存在できないものを三次元に生み出したと言ってもいい。


「ねぇミカヅキ」


 声に反応して視線を向ける。

 声の主の名前は、財前シオン。

 幼少の頃から付き合いのあるハーフの女友達である。

 綺麗に整えられたセミロング気味な金髪は、根元から毛先まで見事なまでに手入れがされており、日中の光も相まって輝いて見える。

 また目を惹くものはそれだけなく、完璧な比率を体現したかのような顔立ち。

 そして、透き通った色合いの大きな青色の瞳だ。

 面食いならば確実に好意を持つこと間違いない。

 どうでもいいかもしれないが、ミカヅキとは俺の名前だ。

 フルネームだと遠野三日月になる。

 愛称としてはミカヅキまたはミカといった感じだ。


「思ってた以上にこの学校デカいね」


 確かにデカい。

 だがそれは現在進行形で廊下を歩いている学校よりも目の前にある2つの山。

 シオンさんのおっぱいに他ならない。

 小学校高学年から大きくなり始めたそのお胸は、今では制服の上からでもしっかりと存在を主張する大きさになっている。

 この発育の良さはハーフという血筋が為せる業なのか。それとも本人の資質故か。

 個人的には前者を推したい。何故ならシオンの母親もおっぱいが大きいから。


「ちょっとミカヅキ、ボクの話ちゃんと聞いてる?」


 少しだけむくれながらの上目遣い。

 外見は綺麗系なのに可愛さまで備えているとかどこの完璧ヒロインだよ。

 いやまあ、完璧ヒロインといえば完璧ヒロインなんですけど。

 だってこのシオンさん、身長は160後半あって色んな服を着こなせるし。

 おっぱいだけが凄いんじゃなくて、腰のくびれはモデル級。でもお尻はしっかりと安産型で、男性にとっての理想のスタイルのひとつを体現していらっしゃるから。

 本当に外見だけは文句のつけようがない。マジで俺の好み。超絶ドストライク。

 中身はって?

 勉強に関しては俺より出来ます。何ならいつも苦手科目は教えてもらってます。

 でもだからって非の打ち所がないわけではありません。

 何故ならシオンさんはオタク。

 なかなかのオタクである俺よりもレベルの高いオタクだから!

 だから平然とアニメや漫画のヒロインのおっぱいの話とかしてくる。

 薄い本の話とかも平気でしてくる。それがたとえ教室の中であっても。

 だから昔から付き合いのある奴は、こいつを残念系美少女だと認識しているよ。

 無論、家族の次にこいつと話していると言っても過言ではない俺は人並み以上に残念だと思っている。


「聞いてる。というか、前に来た時も似たようなこと言ってなかったか?」

「あぁうん、言ったね」


 断言しやがった。

 言ったかもとか、そうだっけ? と濁すようなことはせず言い切りやがった。


「なら何でさっきの話題を出したんですか?」

「言葉のキャッチボールをするためだよ」

「漠然としてるな。もっと生産性を高めようとは思わないのか?」

「ボクらの会話に生産性のあるものってあるの?」


 それは……うん……

 オタクとオタクが話すわけだから需要は本人達にしかない。

 それを世間一般的に生産性があるかと言われると……


「というか、ボクらが話すのに理屈だとか理由って必要なのかな?」

「人によっては理屈や理由がないと話さないと思うが」

「ここで大切なのは他がどうのじゃなくて、ボクと君がどうなのかだよ」


 いやまあ、それはそうなんだけど。

 世の中の人間は、あなたみたいに周りからどう思われようと関係ない。

 俺は俺の道を行く。俺が納得できればそれでいい。

 そう思える人は少ないと思うよ。


「ミカヅキはボクと話すのに理由とかいるの?」

「いる」


 じゃないと怒涛のマシンガントークとかされた時に疲れるし。

 あちこち振り回されるとげんなりしちゃうし。

 理由がないと高スペックなシオンさんのペースには耐えられない。


「そこでそう即答するからミカヅキってボク以外の女友達が少ないんじゃない?」


 そういうお前だって俺以外の男友達ほぼいないだろうが。

 というか、四六時中お前が俺の傍にいるから女友達増えないんですけど。

 小学校の後半、中学校全般、去年1年間だけ通っていた高校。

 そのどれもで俺はお前と付き合ってるって思われたことがあったんだからな。

 クラスが違ってもお前が会いに来るせいで、女子とは基本的にクラスメイト以上の関係になれた試しがない。


「少ない原因の一端はお前だよ」

「まあ確かにボクがミカヅキを独占してしまいがちではある」

「自覚あるなら傷口抉るような発言やめろよ」

「それは無理だね」


 即答すんな。

 お前は俺のこといじめて楽しいのか。


「だってボク、ミカヅキと話すの好きだもん」


 ……こういうとこ。

 こいつのこういうところが俺は許せない。

 これまでに幾度も言われてきたのに美人であるが故に。

 本心を照れもなく真っ直ぐとぶつけてくるだけに。

 言われる側としてはドキッとさせられる。

 まあドキッとすると言っても内心の奥底で微かにというレベルでの話だが。

 似たようなことを言われ過ぎてミカヅキさんの感性は麻痺しております。


「故にボクはいくらでも君と話せる」

「俺と話すのが好きってそれはもう俺と話す理由だろ」

「いやいや、ミカヅキのは事務的だったり目的がある場合でしょ? ボクにはそんなものはない。純粋に君への好意だけだ」


 こういうことをさらっと言うのはお前の悪い癖だぞ。

 世の中の男子は、「え……この子、俺のこと好きなんじゃね?」みたいにすぐ勘違いしちゃうんだからな。

 ちなみに俺は何度も言われたせいで何とも思わない。

 こいつの好意が恋愛ではなく友情のものであることは理解している。

 勘違いしそうになったのは最初に言われた時から数回まで。


「お前達、少し静かにしろ」


 事務的で冷ややかな声。

 俺達に注意してきたのは、俺達を先導する形で歩いていた女性教師。ピシッとしたスーツであるが故にエッチなボディラインが浮き彫りである。

 名前は斎川凜華。

 俺やシオンより一回りほど年齢が上であり、アドバト関連で幼少の頃から付き合いのある近所のお姉さん的存在。長身の美人なのだが、切れ味を感じさせる目つきと凛とした顔立ちも相まって周囲には昔から怖がられることもあった。

 教師サイドの情報を上げるとすれば。

 この学校――《天道学園》のアドバト部の顧問を去年から担当している。

 ちなみに天道学園のアドバト部は毎年のように全国大会出場しており、世間にはアドバトの強豪校として認知されている。

 ここのOBである凜華さんの代では全国大会優勝も果たしており、凜華さんはその時の優勝チームのメンバーでもある。


「昔から仲が良いのは知っている。だが今日からお前達はここの生徒になったんだ。あまり目を付けられるようなことはするな。スカウトした私の評価に響く」


 教師としての発言と思いきや、まさかの俺達ではなく自分のための発言。

 いやまあ、こういう人だってことは知ってるんだけどね。

 昔から冗談を言ったり、からかったりもする人だったし。

 でも俺達を除いた生徒達はこの人がこういうこと言うと驚くと思う。見た目からして冗談とか言いそうにないって思われていそうだし。


「そもそも……どうしてお前達は会話の中に好きだの簡単に出るのに未だに付き合っていない?」

「こいつの俺への好意が友情の枠を出ないから」

「そういうミカヅキだって、いつまで経ってもボクに対してラブじゃなくてライクじゃん」


 え、俺から先に変わらないといけないの?

 そもそも、俺がお前に対してライクなのはお前が俺に対して


『ミカヅキのこと好きだよ。恋愛感情は今のところないけど』


 みたいなことこれまでに何度も言ったからだよね。

 これを踏まえると。

 俺がお前に対してラブになったところで、お前からはライクのまま。

 その可能性が大いにあると思うの。

 だからこちらに先に変化を求めるのはひどいと思うんです。


「失礼な。会ったばかりの頃はライクじゃなくてラブだった」


 こいつ以外に親しい関係になった異性が少ないというのもあるけど。

 おそらく俺の初恋はこいつだった……気がする。


「失礼なのはそっちでしょ。過去より今の方が好感度下がってるじゃん」

「いやいや、好感度は上だぞ。好きのベクトルが変わっただけで」

「好感度が上でも特別な好きから普通の好きにランクダウンしてたら意味ないから」


 そんなこと言われても。

 そうさせてしまったのは俺ではなく、あなたの言動に問題があるわけだし。

 むしろ俺としては出会ったばかりのトキメキを返してほしいというか。

 年々増している中身の残念さをどうにかしてほしい。


「もういっそ試しに付き合ったらどうだ?」

「黙れと言ってきたのにそういうこと言います?」

「今は教師ではなく昔からの知人として言っている。お前達は見た目こそ変わったが、会話の内容ややりとりが昔のままだ。外野がちょっかいでも出さない限り、何も変わる気がしない」


 変わらないことに何か問題でもあります?

 俺とシオンがこれから先も今と変わらないやりとりをしていても誰も困らないと思うんですが。

 俺はシオンのせいで異性と交流する時間や機会が少ないだろうし。

 シオンは自分の欲求に素直だから時と場合も考えずにオタクトークしかねない。なので過去には好意を持って寄ってきた人間も離れてしまったことが多々ある。

 それらを踏まえて考えると……


「付き合ったところで変わらない可能性があるのでは?」

「それはそれで問題ない。付き合ってもいないのに付き合っている連中よりもイチャイチャしているように見える方が不愉快だ」

「それってつまり凜華さんは、ボクとミカヅキの関係を羨ましいって思ってるってこと?」


 シオンさん、マジパネェす。

 ガチ睨みされたら大人でも涙目になりかねない凜華さんに真正面からそういうこと言えちゃうとか。

 憧れもしないし、痺れたりもしないけど。

 でもお前のそういう物怖じしないところは凄いと思う。


「ああ。はっきり言って羨ま妬ましい。子供の頃はまだしも中学に上がってからもイチャコライチャコラと。それなのに付き合っていないだの、ただの友達だの。恋人いない歴=年齢の私をバカにしているのか? バカにしているんだろ」


 感情をガン乗せして投げつけてくるのに声量は抑えめ。

 歩みも止めないあたりさすがは凜華さん。

 私情を挟んでもやることはやる人。周囲に配慮が出来ちゃう人。

 それなのにどうしてこの人には良い人が出来ないんだ。

 別に高スペックな相手を求めているわけじゃなさそうなのに。

 斎川凜華には高スペックな人間じゃないと釣り合わない。周囲によく知りもしない内からそう思われてしまっていそうなだけに悲しい人だ。


「だからさっさとお前達は付き合え。お互い別に嫌いじゃないんだからキスもその先もしてしまえ」

「キスまでならともかくその先はダメだろ」

「え、ボクは別に構わないけど? ミカヅキとならキスだけでなく、セックスもしていいって思うし」


 構えよ。

 あと何で濁した部分を清く正しく言語化しちゃった。

 今俺達がいるのは学校だよ。都市部にあるそれなりの生徒数がある学校なんだよ。

 いくら放課後とはいえ迂闊な発言はダメでしょ。


「在学中はちゃんと避妊はしろ。結婚式には必ず呼べ。子供が産まれたら絶対に抱っこさせろ」


 あんた厳格な教師で通ってるんじゃないの?

 というか、淡々とあれこれ言うのやめてもらっていいかな。

 いったいどこ目線からの発言ってのもあるけど。あんたの頭の中では、俺とシオンの未来図がそこまで描けてるわけ?

 ならそれが実現するように本気で俺とシオンをくっ付けようとしてくれませんか。

 シオンから好き好き言われるだけならまだしも凜華さんにまで顔を合わせる度に変なこと言われたら俺の身が持たないから。


「だってよミカヅキ。結婚式はお金が掛かるからあれだけど、高校卒業したらとりあえず籍でも入れる?」

「結婚は他人からどうこう言われてするものでもとりあえずでやることでもない」

「ボクと結婚するのは嫌?」


 そうは言ってないでしょ。

 ただ物事には段取りというものがある。

 俺達は政略結婚を求められる王族や貴族ではない。

 ならちゃんと恋愛して結婚に至ろうよ。ラブコメと一緒で結婚というゴールよりもそこに至るまでの過程を大事にしよ。

 俺達は親が決めた許嫁でもなければ、出会ったばかりの他人でもない。

 お互いのことよく知っている間柄なんだから結婚からラブコメが始まる期待値は低いって。


「嫌?」

「前にたちふさがりながら覗き込んでくるな。鬱陶しい」


 加えて。

 素直に可愛いと思えてしまうシオンの顔が憎たらしい。

 お前は俺の感情を揺さぶって楽しいか。


「イチャイチャするのはそこまでだ」


 きっぱりとした声に意識をシオンから凜華さんへ向ける。

 立ち止まっている彼女の前には防音加工が施されている特殊な扉。

 渡り廊下の先にあったそれには《アドバド部》を示す文字が羅列されている。

 さすがは全国出場常連校。

 アドバドの実力者向けの推薦入学やスカウト制度が存在しているだけあって、専用の施設も規模が段違いだ。一般に開放したらゲームセンターとして認識されるのではないだろうか。


「ここから先は私は顧問でお前達は生徒。先ほどまでのようなやりとりは厳禁だ。全国からアドバトのために親元を離れている者もいる。あまり舐めた態度を取っていると噛みつかれるぞ」


 それがなくても噛みつかれそうなんだけどな。

 今年から入った1年生は年下だからともかく、去年から在籍しているメンバーは強豪校でやってきたプライドもあるだろうし。

 夏の大会が終わって3年生が引退。2年生を中心に新チームとして活動が始まったこの時期に同学年に編入生の登場。それが別の強豪校に在籍していたわけでもなければ、大会実績があるわけでもない。

 そんな実力が不明瞭な奴らが急に現れたら面白くないと思う奴は絶対に居る。

 とはいえ、仲良しこよしするために凜華さんからの誘いを受けたわけじゃない。

 俺とシオンが凜華さんに呼ばれたのは、この学校を全国優勝させるため。必要があれば交流を深めるだけでなく、バチバチな関係になろうがやるべきことはやる。


「まあ……お前達がその程度で臆するとは思えんが」


 そういう信頼してます感を露骨に出すのはやめてね。

 こちらとしては嬉しいけど、それで反感を持つ奴はいそうだから。

 出すのは俺とシオンがここのチームに馴染んでからにして。


「さて、では行くとしよう。お前達が加わる1軍のメンバーには、今日から新メンバーが加わるから集まるように伝えてある。最低限の緊張感は持っておけ」


 凜華さん……もとい斎川先生はこちらの返事を待たずに踵を返して中へと入る。

 今日が編入初日。部活へは初の顔出しだ。

 言われるまでもなく緊張感が切れることはない。

 さてさて。

 全国常連校の1軍メンバー。どんな顔ぶれが揃っているのやら。



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