ジンコウペンギン

古河楓@餅スライム

第1話 高いところ

東京、池袋。北東京屈指の大都市はどこを見渡してもビルの柱が生えている。、ビルの隙間から地面に突き刺さる太陽光から逃れるために、痴情に土地がないからと人はどんどん地下に潜っていく。このままでは、今の人類が地底人となるのも時間の問題だろうか。


「そんで、なんで俺たちこんなところで飼育されてんの?」

「いやどうしたし、いきなり」

「だってよ。地下にヒトが移動してるってのに、俺たちゃこんなに太陽に近いとこにいるんだぜ」

「いやここそういうところの水族館だから」


池袋でいちばんの高さを誇るサンシャイン60。そこにある水族館で2匹のペンギンが飼われていた。名前はポンドとケープ。10羽ほどいるサンシャイン水族館の中でも比較的お調子者で有名の2羽だ。


「地下にヒトが住んでるんだったら飼われてる俺らも地下で暮らすのがいいんじゃねーの? 地下からここまで来てくれなかったらエサもらないやんけ」

「さすがに大丈夫だろ。今も毎日エサくれるし。なんかしらここに来る方法があるに違いない」

「でもヒトは飛べないだろ?」

「いや俺らも飛べないから」


そうだったとばかりに目を丸くするポンドに翼でペチンとツッコミを入れるケープ。他の鳥類がここには来ないから飛ぶ方法はわからない。羽を何回もパタパタと羽ばたかせて脱走を試みようとしたことはあれど、ピョンと大ジャンプしたらガラスの向こうの餌をくれないヒトがキャーキャーと喜ぶだけだ。


「なあ、どうだろう。今からヒトがどうやってここまで来てるか脱走して見に行かないか?」

「大騒ぎになるわ。それに脱走したらエサもらえなくなるぞ」

「え~、エサもらえないならこのままでいっか」

「そこまできたら意思は固くもてよ……」


産まれて数年。彼らは卵のときからヒトに育ててもらったからか自然での生活など到底できっこない。泳ぐ魚を捕まえて食べれるかと言ったら怪しいの一言。だからバケツにエサを持ってきてくれるヒトがいないと困るのだ。


「そもそもこの近くに海ないだろ。葛西とかスカイツリーとかだったら近いだろうけど」

「葛西とスカイツリーってなんだよ」

「知らん知らん。ただ語呂がいいから言ってみただけだ」

「まあ、よくわかんねーけど要は海がないから俺たちはエサがないのか。じゃあ一生このままでええわ」

「さっき脱走しようとか言ってたのなんだったんだ……」


ポンドの意見の変わりように呆れて首を横に振っていると、ガチャンと音が鳴りヒトがバケツを持って入ってきた。どうやらご飯の時間のようだ。


「お、エサが来たぞ!」

「よし、食うか」

「「イェェェェ!!」」


エサの生臭い匂いを嗅いで、青色のバケツを見た2羽のペンギンは誰よりも早くヒトの足元へと駆けていく。手渡しでイワシを貰えば、さっき話していたことなどもうどうでもよくなってしまったのだった。



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