第49話 失いたくない

俺は所長から詳しく聞いた。


時空の狭間に入ると質量ゼロになる。よく解らないがそれでブラックホールに引き込まれないらしい。


【それなら俺がコントロールします】


それなら所長の危険は回避される。この装置未知数だ。何かあったらそれこそ…


所長は、静かに、


【だからこそ、私がやるんだよ。君には大切な人がたくさんいるじゃないか。私はこの通りこの仕事に打ち込んできて、結局離婚されてしまい、独り身だ。子供もいない。ならば誰が操作するか答えは。出ているね】


所長は、続けて、


【それにトラブルが起きたら私しか対処出来ない。もちろんさきには教えていない。教えたら名乗り出るだろうな。君みたいに、君には大切な役割がある。もし質量ゼロなら私が失敗したらみんなを救ってくれ!頼む!引き込まそうな人がいたら救ってくれ。さて、私はこれから操縦に入る。これでサヨナラだ。ありがとう】


所長…そんな何故責任を?所長のせいではない。


【所長、何かあったら助けます。それは所長も同じです。必ず、俺が必ず助けます】


俺は部屋を出て。外に。


【涼ちゃん、あれ見て!】


とてつもなくもの出現したな。


これが最大級なのか。水平線全て覆ったぞ。


その時だ。ものすごい轟音とともに、その水平線に

向かって走る閃光が、黒い閃光と表現すべきだろうか。あっという間に水平線付近のダークホールに。


【直撃か!上手くいったかな】


期待した。それほどのものだった。

このブラックホール、すごい勢いでダークホールを

吸収している。それなのに、不安は減らない…

むしろ、増えてくる不安…

何故だ?成功してるよな?何故?


さきは、


【所長こうなることを解っていて、みんなを…】


何だ、吸収しているはずのブラックホールが縮まっていく。そして物凄い速度で、装置に戻ってくる。


【危ない!】


俺は何も考えずに。飛び込み、装置の操縦席から所長を引きずり出した。その数秒後に、跡形もなく装置は消滅した。


【君、無茶するんじゃないよ!君まで消滅する可能性あっただろ!】


俺は、その言葉に、所長に、反論した。


【所長ならいいんですか?そんなはずない!】


俺は続けて、


【独り身だからとか、関係ないですよ。誰かが犠牲になって成り立つ幸せなんてないですよ。俺は間違った行動したと思っていません!】


所長は、フーとため息…


【君の言う通りだね。すまなかった。後は残された時間を後悔ないように過ごそう】


過ごそうにも、もうそこまで、あれっ?

停滞してる?


【吸収は出来なかったが、暫くは止めることは出来たな。気休めだがね】


とにかくここから離れよう。


※緊急放送です。再び暗黒が現れました!危険なので家から出ないようにしてください!※


サイレンが鳴り響く中、たくさんの人達が…

危険だってのに…


俺達はとりあえず家に戻った。

ユキも一緒に。ここに玲奈とレイジも呼ぶことに。


さすがに五人入ると狭くなるな。


玲奈達が早々やってきた。


【ユキ!無事だったね、良かった!今世の中大騒ぎ】


【お母さん、そのすぐ側にいたんだよ、私達】


【そうなの?危ないとこしないでよ。もう】


そんなやりとりを見て、少しホッとした。

ユキ、玲奈とほんとに親子になってる。

でも、気がつくよな、そろそろ…


玲奈が、


【ユキ、少し疲れてる?雰囲気が…】


俺が、


【ごめん、玲奈、レイジ。俺のせいだ…】


ユキは


【違うの、私が勝手に、お母さん、涼さん悪くないからね】


玲奈は、


【それ、ユキが言ってた能力?年齢の代償?】


【さすが、お母さんだね。理解力早い!】


玲奈は、


【はー、仕方ないね。ユキが判断したなら、涼、ユキに救われてるね!小さい頃のユキからずっとね】


【感謝してるよ、ユキには。ほんとにもう絶対に使わせない!!ほんとにほんと】


【どーだかね。涼がいくら言ってもユキはね、涼のことねー、あっ、ごめん、るい。冗談だからね】


るいは、


【もう、ヤキモチ焼かないことにした。もうすぐ終わるもん。笑顔でいたいから。涼ちゃんのこと独り占めしたりはしない】


そんなんだよ、もう防げない。

どこまでダークホールに飲み込まれるか解らない。

未知数だ。


ユキは、


【ねー、お腹空かない?みんなで食べに行こうよ!】


もう、全ての店はやってないだろ…みんな閉まってる。避難してる人もいるから…


【ユキ、残念だけどどこもやってないよ、きっと】


【開いてるよ、ほら、あそこ!】


えっ!営業中!なんで?すぐ家のそばの…

とりあえず俺達はそこに、ほんとに営業してる。

何故だ?この状況知らないはずないよな?


【あの、すみません。なんで営業してるんですか?テレビとかで情報、知っていますよね?】


老夫婦は笑って、


【だからだよ、みんな閉めてるだろ?そんな状態で終わったら寂しいじゃないか。せめて普通に過ごしたい。と思うのは私らだけかね?】


その、心意気!凄いよ。


【凄い…ありがとうございます…】


老夫婦は、


【あんたらがお客さん!私らがありがとうって言うのかスジだよ。で、何にするね?】


こんなときこそ、美味しいもの食べたいね。


カツ丼、カレーライス、親子丼、天せいろ、オムライスなど、みんなでそれぞれ頼んで、


俺は、


【おいー、オーダー、せめて揃えようぜー!】


るい、


【じゃ、親子丼で統一!】


ユキは、


【るい、勝手に決めないで!カツ丼が食べたいの!】


玲奈とレイジは、


【私はレイジのオムライスに合わせるよ】


【いや、俺が天せいろに合わせますっす!】


なんだよ、すっすって!無理に、っす、って言ってるだろ!それにいちゃつくな!


玲奈は、


【あれー、涼、ヤキモチかな?イライラしてる?】


俺は、


【してないよ、俺はオーダーを…】


【ハイ、最初はオムライスね。お待ち!】


えっ、オムライスで統一?


老夫婦は、


【順番に作ってるよ。少々お待ちを!こんなときだからこそ、好きなの食べな】


マジですか…すみません…泣けてくる…

ユキも涙ぐんで…


【嬉しい…こんな…優しさに触れることが…ありがとう…ほんとにありがとう…………………カツ丼】


そっちなんかーい!ユキ!


老夫婦は、


【お客さんはあんたらだけ…じゃ閉めて私等も食べようかね。最後の晩餐ってね】


レイジが、


【俺、ビール持ってきます。ちょっとお待ちっす!】


レイジ、嬉しそうだな。


老夫婦は、


【最後のお客さん、あんた達で良かった】


俺達もです。ここに来て、ほんとに良かった!

どんな高級な料理よりもこういう料理が最高!


老夫婦が、


【ビール🍺で乾杯だね。これは私のおごり。飲んで飲んで、たくさんあるよ】


じゃ、もう何でもかんでも飲みまくり!食べまくり!

親子丼、カレーライスどんどん出てきた。


さきも呼べば良かったかな?酒癖悪くてもいいからね。


そういや、レイジどこ行った?

ビールここにあるぞ!しかもキンキンに冷えてる!


ユキも、


【お母さん、レイジに連絡してあげた?ビールあ?よって】


【あっ、忘れた!】


ひでー、レイジ可哀想に…

戻ってきた…汗だくじゃん…


【みんな飲んでるんすか?ズルいっすよ!】


玲奈は、


【はい。お疲れ様。レイジもぐぐっと】


【いただきます!玲奈のビールはうまいっす!】


単純なやつ…玲奈扱い上手いね。


ここは平和だね。外の世界が嘘のようだ。

嘘であってほしい…

世界の平和をこれほど願うとはね…










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