第429話 鰺を焼こうとさえしなければこんなことには…

「へぇー、鯵にパン粉をつけて焼くのかぁ!かわいい〜♡」


「かわいいって意味がわからない…。昔からある料理だよ?」


 生の鯵をカゴに入れた小麦は早々に2人と別れようとレジに向かったが、干物の鯵をカゴに入れた真央と晴は後を追いかけた。このまま会話が終わるのは後味が悪いつってな。

 当たり前のように真央が小麦の後ろでレジに並ぶと、同じクラスとはいえ、やたらテンションの高い真央に、苦手意識こそないものの今まで以上に仲良くなれるとも思っていなかった小麦であった。パン粉をつけた鯵をかわいいと言う真央の感覚に、己の身に降りかかるパンの粉を払いたい気持ちになった。


「ねー、晴!今度作って♡鯵のなんちゃらパン粉焼き!あ、この干物でできるかな?」


「香草パン粉焼きね…。干物はそのままの方が良いと思うよ。。」


「真央が作ってよ、たまには。それより、パン屋さんなんだねご実家。だから小麦って名前に?」


 初めて話す同級生、晴は、真央と比べると落ちついた雰囲気で話しやすい。この2人は性格がまるで違いそうなのにカップルなんだなぁと少し不思議に感じてしまう。


「うん。あ、レジの番だ。お先に。」


 先に並んだ小麦はレジに買い物かごを置くと、これで真央達との会話は終わったと思っていた。しかし真央は小麦についてまだ話し足りなかった。女子は色恋沙汰が好きなのよ!


「晴、晴っ!実はね?小麦ちゃん、普通にかわいいでしょ?スラッとしてスタイルもいーし。」


「うん、そうだね。モテるって話の続き?」


「実はね、小麦ちゃんはいつもはばっちりメイクしてるの。だけどたまにはすっぴんの日だってあるじゃん?うちらだってあるじゃん?」


「うん。てかそんなにメイクしない子だっているし。」


「小麦ちゃんはね…実は、、ギャップ萌えキャラなのーっ!きゃーっ!本人がいるのに言っちゃったぁ〜!!すーっごいかっこいいんだよ!やだーっ!」*うるせぇ


「かっこいい?かわいいじゃなくて?」


「もーね!イケメンなの!なんて言うかな、、鯵の塩焼きっていうか、、どちらかと言えば鮎ね!鮎の塩焼き!!川魚の方が近い!素朴で塩加減が絶妙なの!!そのギャップにハートを釣られてしまったファンは多いわけ!」*褒めているらしいです。そしてこの子もソルト同盟でした。


「へー。ん?ってことは・・・真央は?」


「やん♡気になるの?私は晴しか好きじゃなないよ〜!でねでね、聞いて!」


「あのぉ…本人に聞こえてますけど。あと普通にやめて?」


「待って、小麦ちゃん。これだけ話させて。最近ね、小麦ちゃんのお父さんがパン屋さんを開いてね!うちのクラスの女子はすぐさまバイトに募集したり開店日に並びに行ったよね。」


「え、バイトの募集??私、知らないんだけど。っていうかクラスで親の話したことないんだけど。」


「全員断られたらしいよ。どうやらすでにバイトは決まっていたらしくてさ。あの頃、小麦ちゃんちのコロッケパンを頬張りながら女子が泣いてたよね。」


「は?嘘でしょ、そんなのみたことないってば。え?え?」


「みんな、教室のベランダで小麦ちゃんに見えないように泣いてたからね。」


「え、知らないことがありすぎて困惑するんだけど。うちの親何も言ってなかったんだけど!?」


「皆さ・・・表面的にはあこがれっぽくおちゃらけて言ってるけどさ、、私にはわかっちゃうんだよね。私は晴と付き合っている百合のパイセンだからさ。傷つきたくないっから自分の気持ちを制御しているだけで、結構本気な子もいるのよ。あ~罪深いね、小麦ちゃんは。あ、レジ終わったらそこで待っててね。」


「え、帰りたいんだけど。」


「だーめ。3人でお茶でもしよーよ♡」


「いや、お前は干物だからいいだろうけどこっちは生魚持ってるんだよ!」


「小麦ちゃんちって近い?お邪魔していーい?」


「え、癖つよっ!そんな感じだったの??」


 助けて下さいとばかりに晴の方を向くと、晴は静かに目を閉じて首を振った。


「ごめんね、小麦ちゃん。最近、真央の周りにいる大人が特殊すぎて・・・真央もちょっと良くない影響が。。」


「あ、悪口言わないの!お姉様達は皆良い人でしょ!!」


「良い人なのは確かだけど、、たくましいんだよね。性格が。」


「まぁ確かにそーだけど。私ね、百合漫画界のカリスマと言われる美人漫画家さんのアシスタントなの~!」


「百合漫画??」


「うん。ガールズラブよ!ガールがガールととぅんくで萌え~な漫画♡」


「よくわからないけど、そんなのあるんだ??」


「そうよね、小麦ちゃんはパンの本と一歩譲ってパンダの本しか読まないもんね。あ、じゃあウチに来ちゃう??」


「は?てか、なんで私のこと割と知ってるの?怖いんですけど!」


 真央、イキます!!


 なんでだって~。わかってないなぁ~、自分のこと。真央の目はごまかせないよ!小麦ちゃんはぜーったい、こっち側の人。片足だけだとしても、うちらが引っ張れば全身浸かるタイプよ。実はうちのクラスに小麦ちゃんに本気な子がいるんだよね、、私結構その子と仲良いんだよね。なんとかこのままうちに連れ帰って、百合の世界に興味を持たせるわ。なんとか晴に説明したいけど、、まぁいいか。なんとかなるっしょ!咲かせてみせるでござる!!百合の花をっ!!あーっはっはっは!!


 続く。

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