第395話 なんて意外性なの…こむぎんちょ。。
「ここが私の部屋です。」
「えっと、お邪魔します…。」
女同士とはいえ、そう胸を鷲掴みされることなどない。まして笑美にとって小麦は気になる女性だ。恥ずかしさと気まずさと、そして2人きりになる緊張が交互にやってきては、身体の体温が上がるのを抑えられなかった乙女恋戦士。
「えっと、それじゃお願いします。あ、座ってください。」
「は、はい。では、進路の希望を曖昧でも良いので出来るだけ教えてください。」
小麦の部屋はそう広くはない。普通の一軒家の2階にある子ども部屋だ。ベッドに勉強机、収納棚に洋服のタンスがあるくらいだ。
あまりじろじろ見るのは宜しくない。勉強机の横に用意されたパイプ椅子に座ると、メモ用紙とペンを取り出し、あくまで仕事の顔を取り繕った乙女恋戦士。
「はい。私はそんなに頭が良くないので、目指せるところに行けたら良いという感じで…。」
「なるほど。何を学びたいとか、気になる顎部はありますか?」
「はいっ!それはあります!」
現代っ子のメイクをした整った顔で、パッと目を輝かせた小麦。それを見た笑美は、胸の高鳴りを無視して表情を変えずに耳を傾けた。
「うちの両親はこの辺では有名なヤンキーでした。父はあー見えて暴走族の総長でした。」
「え、意外!!」
「そうなんです。その意外性というか、パンが大好きなところやかわいいものが大好きなところに惹かれた母が猛アタックして付き合ったそうです。」
「かわいいもの…。だからひよりに甘く…」
「ああ、ひよりさんは父にとって蕎麦子みたいなものなんでしょう。昨日の夜、ひよりさんと蕎麦子にお揃いで着させられそうな服を通販で探していました…。」
「小麦さんは?」
「私はつい最近までグレていたので…。お揃いなら、そうですね…そんな可愛らしい服とかではなく、バイクのマフラーとか…。」
「え、それも意外っ!!」
「父は私を可愛く育てたかったみたいですが…なにせ両親の背中を見て育っていますので。。だから、ひよりさんを雇うことで父の萌えが満たされるのは願ってもないことで…。」
「それで…。あれ?なんでこの話になったんだっけ……??」
「あ、それで私は…昔総長であった父と、そのナオンだった母がパン業界の総長になる夢を叶えてほしくて…」
「はい????」
「つまり、頂点とらしてやりたくて、経営とかそういうのを学ぼうかと。」
「ほう。すごく考えたんだね。偉い。」
えっと、偉いって言ってみたけど、、なんか良くわかんなかったな。総長…頂点…ナオン…??
笑美は困惑した。そして考えるのをやめたんだ。なぜなら、深く考えてしまったら、まともな人が周りにいないことを目の当たりにしてしまうから…。ツラ。
「とりあえず、経営学部を目指すってことだね。わかりました。では次回までに対策を…」
コンコン。その時、小麦の部屋のドアを叩く音が。そして返事をする間もなくドアは開かれ、そこにいたのは母親。
「お茶を煮出すようで申し訳ない。うちらは小麦が頂点とるために働いてっから。余計なこと考えずに自分の夢を追いかけな!」
「だから、何回も言ってるだろ!オヤジの夢を叶えんのが私の夢なんだって!」
「ばっきゃろー!てめぇの夢はてめぇが叶えるんだ。小麦に頼らなきゃてっぺんとれねー男じゃないんだよ!あいつは!」
「いいから!ほっとけよ!」
笑美、いきます。
わ、わぁ。いろんなジャンルの漫画を一度に読んでるみたい…。そしてまず…、お茶を煮出すじゃなくて濁すじゃないかな…。でも今それを言う勇気はないよぉ。。
ていうか、かなり…、そう。かなりの勢いで小麦ちゃ、、いや、、この家族ごとイメージが変わりすぎてパニックなんですが?!
あ、これダメだ。私、まだこのおかしな状況の一員になれないかも。ひよりと仁映なら溶け込めるんだろうケド…。
す、好き?いや、嫌いとかじゃないケド…ん?んんー?そうかこれ、、
笑美「保留だな…。」
小麦「え?」
母「え?」
笑美「あ。えっと…」
母「そうね、ごめんなさい…。今する話じゃなかったわね。うら、小麦も詫び入れな!」
小麦「たしかに。せっかく来てもらっているのに…。すみません、笑美さん。」
笑美「あ、いや。」
違くて…。私の恋が…保留なの…。
続く。
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