第394話 ねぇ由奈さん?パンの耳油で揚げたやつ作ろー♡

「ねぇ、ひよりの由奈さん?かにぱんがないパン屋さんってどう思う??」


「んー?私のひよりのニーズを押さえてないからダメだね。ひよりを喜ばせることができなければ繁盛するわけがない。」


「だよね。だからひより、言ってあげたんだ。かにぱんとぱんだぱんは必須だって。」


「教えてもらえるうちが花と言うしね。」


「じゃあ、ひよりにもっと…色々教えて?♡」*なんだピロートークか。


 およそ100に近い加盟国を誇る、世界パン屋さん組合によると、9割9分の加盟店が蟹パンはメニューに載せていないという。しかし由奈がそれを知ったとしても、愛するぴよりのために意見を変えることはないだろう。


 さて、そんなことはしばらくどうでも良いことにしようか。ピロー運動会が始まったし。ぴよりと笑美、そして仁映が、くだん大石小麦おいしいこむぎの父親が経営するパン屋で働くことに決まった数日後。笑美は大石家に来ていた。


「お邪魔します。」


「いらっしゃい。あなたが笑美さんね。小麦の母です。小麦のこと、よろしくお願いします。」


「はい、受験したばかりなので勘はそのままですからご安心下さい。教えるべき要点を効率よく進めたく思います。」*こいつも天才だからね。 


「小麦〜!先生がいらしたわよ〜!」


 ハーイと小麦の返事が遠くから聞こえた。おそらく小麦の部屋は2階にあるのだろう。トントントンっと心地よいリズムが聞こえると、濃いグレーの毛むくじゃらな飼い犬、「蕎麦子」を抱いた小麦の姿が見えた。


「あ、笑美さん。今日からお願いします。」


「かわいい…。」


「あ、この子が蕎麦子です。かわいいでしょ?人見知りしない子なので、抱っこします?」


「あ、うん。」


 私がかわいいと言ったのは、貴女だけどね。小麦ちゃん…。今日は学校帰りだから、メイクしているのね。なんだろ…逆にメイクしてくれている方が落ち着いて話せる。


 そんな心の内を悟られまいと、蕎麦子だけに目をやった笑美。そっと小麦から蕎麦子を受取ると、胸に抱きかかえた。


「わっ、暴れッ、、え、嫌なのかな?」


「アレ?おかしいな。誰でも懐くんだけど…。」


「うちも小型犬飼ってるから…臭のせいかな??」


「や、綺麗な人に抱かれて緊張してるのかも。」


「は!?えっ!?なっ!?」


 その時だった。鈍感系脇役の蕎麦子は、ときにひよりがやってのける鈍感系ヒロインの技を見せたのだ。そう…、これが噂の…ラッキースケベだ!!


「こら、暴れるな!こっちおいで!」


「きゃっ、落ちちゃうよ!わっ、」


「あぶなっ、」


「ひゃっ!!!!????」


 小麦は抱きかかえようとしたんだ。それを鈍感系わんこ蕎麦は華麗にスルーした。まるで、「まだ蓋をしないでください。」と食べ続ける大食いファイターのように。。


 ぎゅむ。そう、ぎゅむだ。その音以外にないだろう。思わず鷲掴みしてしまった胸の叫び声は。「ギュムーッ!」


「あ、すみません。思い切り掴んでしまった。」


「はぅっ!!あっ、う、ううん!大丈夫っ!!」


 ひよりなら、ァァァァん♡と叫んでいたことだろう。しかし、笑美にその才能はなかったんだ。


「ていうか、時間なくなるから勉強。お願いします。」


「あ、そうだね。うん!」


 何事もなかったかのように…小麦は2階へ続く階段を上り始める。その後ろを、笑美は黙ってついていく。2人はなんてことないと思っていた。だって、女同士だから。よくあることだと…。


 しかし、ここに敏感系感度世界一の彼女をもつ由奈がいたら、すぐに気づいただろう…。2人の…両耳が真っ赤になっていたことに。


 パン屋だけに…、耳だけが良く焼けていたんだ………。


 はい、続く。

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