第389話 笑美ちん、感染の疑い。

 笑美が1限の授業が終わった頃に大学に戻ると、まず見つけたのはひよりだった。


「あ〜!笑美ちんいたぁー!なんで1限来なかったのー?ひよりひとりぼっちだったんだよ〜!!」


「あ、ご、ごめん。ちょっと森を探しに…。」


「はい?」ドチタ?


「樹の下で心を落ち着けざる得なかったの。」


「ああ!不思議ちゃんか!」*お前が良くそれを言えたな。


 この近くに森はありませんか?そんなことは誰にも聞けず…、笑美はしばし街をさまよっていたのだった。そして、たった数時間出会えた理想の人は幻だったのだと、ほんの少しだけ割り切って戻ってきたのだった。


「あ、ひより。昨日のお礼にジュース奢るよ。抹茶?苺?」


「え♡いーの?まっちゃっちゃ♡」バンザイ!


「まっちゃっちゃね。笑」


 確かに。こんなふうにニコニコしてはしゃぐひよりを見ていると、女の子はかわいいなって思う。だからといってそれが恋とは限らない。やっぱり私は女性を好きになるわけではないのだろう。


 そう思った。だが同時に、今まで男性にときめいたこともないのも事実だ。小麦ちゃんを好きかどうかの前に、私はまず恋を知らなすぎる。まぁわからないことを今考えても堂々巡りだ。経験から学ぶしかないことは知っている。この反芻思考を振り払わなければ。。


 ちょこんと椅子に座って抹茶ミルクにストローを挿す、かわいいの塊ぴより。そんなひよりの隣に腰を掛けると、サボった授業のノートを借りることにした。


「ノート、写させてもらっていい?」


「いーよ!あ、由奈さんへの愛のポエムが書いてあるのは気にしないで!」


 ペラペラとノートをめくって差し出されると、どれが授業のメモでどれがポエムかわからなかった。


「自習室でコピー取ってくるね。」


「一緒に行くよ?これ以上一人でいたらひより泣いちゃいそうだし。」


「すぐ戻ってくるよ。授業が始まる前にジュース飲み終わってて?」


「わかった!」チュゥ…


 笑美は歩いて1分もかからない自習室へと向かった。次の授業が始まるまであと10分もない。サクサクとコピーをとって戻らなければならない。

 しかし、自習室に着くと、コピー機には先客がいた。


 仕方ない、ちょっと待ってみて間に合わなそうなら、次の授業が終わってからにしよう。えっと、何ページくらいあるのかな、、


 笑美がひよりのノートをペラペラとめくると、今日の日付が書いてあるページを見つける。びっしりと書き込まれた予想外の綺麗な文字。そこには宣言通り、由奈を思うポエムが、、ん?ポエム??


『由奈さん先生へ。いつもありがとう♡愛してます♡』


 どうやら、由奈は授業のノートをチェックして、ひよりの勉強の復習を手伝っているらしい。つまり、どのポエムも由奈本人に読まれることが前提であることがわかる。


『あなたは炭酸。私は原液のカルピス。あなたは塩。私は甘いスイカ。あなたは抹茶。私は牛乳。あなたがいることで、、私はかわいい女の子でいられるの。ソルティスイートラブフォーエバー』


 気にしないでとは言われたけれど、少し読んでみて思った。いやこれ、他人に読まれることを嫌がらなくていいの?ひより?と。なんだか読んでしまってごめんなさいと思った。そして妙に恥ずかしい気持ちになった。


(え、ええ、、これを由奈さん本人に読ませてるんだよね。。)


 そうか。ひよりは由奈さんに思ったことをちゃんと伝えてるんだね。あの二人は本当に、心から愛し合っているのがわかる。そうだ、このノートに書かれている全てのポエムをコピーしよう。何か気づきが得られるかもしれない。*ああ、感染していく。。


 笑美は2限もサボることにした。

 教訓。恋を知らない女が恋を知ると豹変する。

 



 続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る