第388話 お目々がとびでたう
その日の夜。笑美はベッドに仰向けになると、今日出会ったばかりの気になる人のことを考えていた。
小麦…さん…?それとも…ちゃん…?下の名前で呼ぶのはまだ早いか。頭の中で呼んでいて、うっかり本人の前で呼んでしまったらマズいよね…。気をつけないと。
「んん~。好きなんだよなぁ…。」
出会ったばかりだし。好ましいと思ったのは主に容姿だ。私が恋をしたくて焦ってるからなのかなぁ…。でも、あの落ち着いた雰囲気が好きだな…。とても静かに低い声で話すから、耳を澄ませていないと聞き取れないあの人の声。それがかえって心地よかった。でも、女の子だったなんて衝撃。確かに、綺麗な顔してるけど。
「やめた!由奈さんが言ったとおりにしよう!どうするかなんて考えない!何をしたら良いかなんて考えない!私は私らしく。うん。」
自信に満ち溢れていると言われた。18歳なんて、根拠のない自信に満ち溢れているから魅力的なんだと。由奈さんは、私を綺麗だと言ってくれた。かわいいし、賢いとも。笑いかけるだけで大抵の男は落とせるとも。*小麦ちゃんがいなかったら落ちているレベルの口説き文句で由奈さん草。
そうこう考えていると、気がついたら朝を迎えていた。考えてもしかたないと割り切ったつもりだが、頭はスッキリしていなかった。ほんの少しモヤモヤとしたまま、笑美はいつも通り支度をすると、カバンの中に昨日書いたばかりの履歴書をしまった。
「よし。今日はこの履歴書を持っていくから、また会える。」
今日も会える。そう思った瞬間に、思ったよりも自分が小麦ちゃんに会いたがっていると気づいた。もしかしたら…本当に恋って魔法なのかもしれない。かかってしまったら、理屈ではなく相手に夢中になってしまうのかも。その魔法を解く方法はなく、ただ解けるのを待つだけなのかも。
それならそれで、結果など気にせずに初めての恋を楽しもう。そう思えるのはあの人のおかげ…。
「由奈さん、ありがとう。そして、由奈さんに出会わせてくれたひよりにもお礼を言わないとね。あの二人にはきっと背中に羽が生えているに違いないわ。」*ぴよりは脳に羽が生えています。
今日は一限でひよりに会う。自販で抹茶ミルクかいちごミルクを買っていこう。ぷくぷくほっぺの天使さん、ひよりにあげよう。
そう考えながら、電車を降りて大学までの道を行く。途中には小麦ちゃんの働くパン屋がある。もしかしたら、ガラス越しに姿を見られるかと思ったけれど、見つかって変に思われると困る。午後まで待とうと決めて、下を向いて素通りした。
「あれ?笑美さん?」
「はい?」
後ろから声が聞こえた。その声は女性の声だった。一瞬、場所が場所だけに小麦ちゃんかと思った。だけどここは大学の近くでもある。大学の知り合いかと思って辺りを見渡すが、歩く人波にそれらしい風貌は居ない。
「笑美さんって。昨日の人ですよね?おーい?」
「は・・・はい??」
笑美は目を丸くして目の前に居る女性を観たまま固まった。なぜかと言えば、目の前に居るのはどう考えても知らない人。高校生の制服を着ている。
でも、笑美は今最も会いたい人を引き寄せていたのだった。
「合ってますよね??私、パン屋で面接したものですが。」
「は、え・・・え?」
「小麦です。制服が違うからわからない??」
「え?うそ・・・。だ、だって、え?」
「昨日は仕事中だったので。化粧してませんでしたもんね。」
笑美は頭の中をついに処理できなくなってしまった。目の前に現れたリボンの騎士は、実は今時のギャルだったからだ。
け、化粧・・・。高校の頃の仁映よりもがっつりしてる・・・。それに、なんていうの、、この、、韓流的なメイクは・・・。
「あ、あ、あ、、圧倒的・・・美人。。」
「え、ありがとうございます。笑美さんも美人さんですけどね。」
小麦たんに美人と言われて、本来なら泣いて喜ぶところでした。しかし、さすがの笑美も予想外だったんだ。小麦ちゃんが、年下の女子高生で、しかも韓流メイクの上手い今時JKだったとは。。
「あ、私今日、学校遅刻なんでもう行きますね。またあとで!」
「え、あ、灰・・・。」
あまりのことに、笑美は一限をサボった・・・。
続く。
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