第280話 由奈のプレッシャーに鍛えられたやつがやってきた

「むんっ!いよいよ、共通テストまで2ヶ月!ひよりは本気で頑張らねばっ!」


 ついにひよりも観念しなくてはならない時が来たようだ。学校から帰るなり部屋着に着替えると、おやつにも目をくれず黙々と勉強をし始めた。


 社会人である由奈は、付き合い始めの頃にひよりに言っていた。受験生と付き合うからには、受験に失敗させるわけにはいかない。自分のせいでひよりが大学に行けなかったら、責任を取らなければならないと。そんなことにはさせないし、もしそうなりそうなら別れるとまで言っていたのだ。


「由奈さんはいつも、仕事で疲れているのに全力で勉強を教えてくれた。それは、ひよりとずっと一緒にいるため…なんだよね。」


 大丈夫だよ、由奈さん。ひより、絶対に合格してみせるからっ!!ピヨリデキル!!


「暗記系は得意なんだ。数学は由奈さんにみっちり教わったし、、このまま気を抜かなければ大丈夫、、なはず。」


 だけど、、ぴよりは1つだけ不安なんだ…。


「英語のリスニングがマジ怖ぇぇ……。そもそもカタカナすら苦手なのに。。」


 ひよりはカタカナに弱い。めちゃくちゃ弱い。。パンナコッタはぱんなこっちゃ。博物館ははくぶちゅかんだ。チキンフィレサンドより長い単語は覚えられる自信がない。舌平目のムニエルも言えない。あ、ごめん。カタカナだけじゃなかったね、ぴより。。


「うげぇ…ヒアリング用のDVDをとにかく流してはみてるけど…、ちんぷんかんぷんだ。。」


 由奈さんが帰ってきたら、猛特訓してもらおう。すんごい嫌だけども。。


 なんて思っているとフラグとなるものである。ひよりのスマホに着信が入る。


「あっ、由奈さんだ♡ハロー?もしもし。ひよりだよ♡」


『ひより。今、駅にいるんだけど、天丼と親子丼とカツ丼から2つ選んで?』


『晩ごはん?んっとねー、天丼とカツ丼♡はんぶんこ?』


『そそ。はんぶんこ。いや、3分の2がひよりか…。じゃ、すぐ帰るから。』


『あーん、好きだよ♡とかあいしてりゅ♡とかはないの??』


『それはあとで。じゃね!』プツッ


「あっ!切られた!ひどーい。ま、帰ってきたら言わせるとするか。由奈さんは恥ずかしがりだかんね。周りに人がいっぱいいたのかも。シャイソルトさん♡」


 もうすぐ由奈が帰ってくる。晩ごはんはご飯物を買ってきてくれるらしい。ならば良妻らしく、お味噌汁だけ用意しておこう。


「久しぶりに、苺のエプロンをして、お玉を持ってお出迎えしよ♡なんてかわいいんだ!ぴよりっ!アイラービュー!ぶっちゅー!!!…なーんてなっ!ダメよっ!ひよりはまだ勉強中よ!あーん♡つって…」


 ピンポーン。ひよりが悶えていると、玄関のチャイムが鳴った。


「うぉあ!ビビった!え、由奈さん?早くね??あ、ひよりに早くあいたくて走ったのかちらー♡」トテテテテー


 エプロン、良し!かわいい!お玉持った!かわいい!にっこりんちょ!うん、かわいい〜!唇は、んにゅぅ。いつでもどうぞ♡


「今開けるわね、あ、な、た♡」ガチャ。


「あ、えっと。ひよりちゃん…久しぶり。」


「うぉあー!ゆ、優司さんっ!?なぜここにっ!!?」


 とっておきのかわいいでお出迎えしてしまったが、そこにいたのは由奈の弟、優司だった。


「えっと、、ココって元々は俺も住んでた実家なんだけどな、、まぁ、そうだよね。実は…姉さんに呼ばれたんだ。」


「由奈さんに??何も言ってなかったけどなー?なんか企んでる??」


「いや、俺は企んでないけど…、姉さんは企んでるのかもね…。えっと、上がっても良い?」


「あ、どーぞ。ひより、男の人とひとつ屋根の下で二人っきりなのは初めてなので、お玉は持ったままにしますけど。あと、お鍋も持ってて良い?」


「だ、大丈夫だよ…。何もしないから安心してよ、、姉さんの恋人で俺の彼女の友達だからね。ひよりちゃんは。」


「ひゃぁー、久しぶりに見たけど大っきいなー!」*話を聞いていないぴより


「ひ、ひよりちゃんは小さいね。」


「………えーと。お味噌汁…飲む??」


「あ、お茶とかじゃなくて味噌汁なんだ…??いや、大丈夫だよ。」


 この二人の会話はいつも続かない。二人ともお互いを異次元だと認識していた。早く帰ってきて、由奈さん(姉さん)とお互い心の中で思っていた。すると、


「ただいま〜。お待たせ、、あ、優司。先についてたか。」

「あ、姉さん。久しぶり。」

「由奈さん!お帰りなさい!本日のこの流れは一体なにかちら??」

「ひより。ただいま。とりあえず、3人でご飯を食べながら話そうか。」


 え〜、、ご飯は二人で食べたいんだけどなぁ!!困っちゃうなぁ!!・・・とは口に出して言わなかったぴより。帰ってきたばかりの由奈に抱きつくこともキスすることもできずにいたので不満そうな顔はしておいた。


「そうなのね。じゃあ、お味噌汁3つよそうね。。」

「ありがと、ひより。ひよりの味噌汁は天下一品だからね。優司にも飲ませてあげてね。」

「そうなの?嬉しいな、、お、俺にも飲ませてくれるかな??」

「ええ、ひよりは構いませんよ。どうぞ、お二人で座ってお待ちくださいな。」


 褒められてまんざらでもないが、イチャイチャを邪魔された不満とで複雑なひよりは、渋々キッチンへ、お味噌汁を仕上げに行った。


「悪いね、優司。バイト代ははずむからね。」

「普通にバイトとして呼んでくれたならむしろ有難いよ。これからクリスマスや冬休みで何かと物入りだからね。」

「お前が私の知ってる中では適役だからね。時給じゃなく、成果報酬で先払いしてやる。」

「おおっ!姉さんのそのプレッシャーのかけかた、久しぶりでゾクゾクするよ。必ずやご期待に添ってみせます。」*どМ発言


 佐々木ブラザーズが何やら企んでいると、ひよりがおぼんにお味噌汁の入ったお椀を3つ乗せて、両手をプルプルさせて戻ってきた。


「ど、どうぞ、、お、おま、たせ、しました、、よっ!はっ!」ヨロヨロ…


「ありがとう、ひより。さ、ご飯を食べながら説明するよ。優司にはカツ丼大盛りね、、ひよりは天丼とカツ丼を二人で半分こね。はい、どうぞ。」


「わぁい。ひよりは由奈さんと仲が良いから半分こね♡」フフン


「またマウントを、、。大丈夫だよ。羨ましくないから。。」


 これからかなりお世話になる予定の優司に対して、雑な態度を取り続けるぴよりであった。


 英語強化選抜臨時家庭教師、佐々木優司。由奈の虎の子であった。


 続く。 

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