第226話 こいつこそリアルクッキーモンスター

 ある日の晩のことじゃった。由奈が仕事から帰宅すると、かぼちゃまみれのひよりがパニクっていたそうな。


「ただいま~。ひよりー?」

 いつもなら玄関まで飛んでくるはずのひよりが来ないので、由奈は不思議そうにキッチンへと向かった。すると、


「おかえりっ!ひよりは今、大事故だから見ないでっ!!」

「え?・・・わぁっ!なんじゃこりゃ!」


 まな板の上には無残な姿のかぼちゃが。良く見ると、小麦粉や卵の殻も散乱していた。


「あーん、見ないでって言ったのにぃ!ごめんなさいぃー!ひよりにはまだ1人ではムリでしたぁ!!!」ビェェェェ‼

「な、なにしてたの?・・・あ、もしかして、ハロウィンの何か??」

「そうなのです。かぼちゃのお菓子を由奈さんにプレゼントしようと練習を。かぼちゃって包丁じゃ切れないの!」

「かぼちゃを切ろうとしたの?ひよりにはまだムリだよ~!手を切らなかった!?」


 慌てて、足下に散らばった何やらを避けながら、ひよりの元へと救助に向かう由奈氏。


「手は無事。えいっ!ってやって、かぼちゃが飛び散ったけど。。」

「もう、、びっくりさせないでよ。。何作ってたの?」

「かぼちゃのクッキー。。ジャックオランウータンの形にするの。。」*カタカナ弱い

「あーあー、顔が粉まみれだ。目つぶって?」

「んぅぅ、、もうどうしたらいいかわからない。」


 ごしごしと、顔についた粉やかぼちゃの種を拭いてもらうひより。かわいいの塊。目を離すと何をしでかすかわからない代表児ぴより。


「ハロウィンまでまだ日数があるのに、今からいたずらしないでよね。」

「いたずらするつもりじゃなかったもん。」

「レシピは、、この本か。じゃあ、一緒に作ろう。そうしなければ何もかもが始まらないい。」

「じゃあ、由奈さんはかぼちゃやって?ひよりもう、かぼちゃ嫌いになりそう。。」

「わかったよ。とりあえず、床を拭こうか・・・。歩く場所すらないよ。。」


 由奈がかぼちゃの皮を剥いて細かくカットしている間に、ひよりは床を拭いた。まるで馬車になるはずのかぼちゃを切り刻まれて、掃除をさせられているシンデレラのようなピヨデレラ。


「この感じだと、晩ご飯もまだ作ってないよね?」

「うん。学校から帰ってすぐ作り始めたんだけど、思ったより時間がかかった!」

「良し、かぼちゃはこれでオッケー。このベタベタの生地はなんだろ?」

「なぜでしょう。ベタベタになりました。」

「これにかぼちゃまで入れたらクッキーになる可能性は0だね。笑」


 仕方ない。ひよりが入れたであろう材料をヒアリングして、後は由奈の推測で材料を足した。


「ほら、かぼちゃを生地に入れてまぜてごらん?」

「ほーい、良い感じ良い感じ~♪」マゼマゼ

「そしたら、一度生地を寝かせないとだから、冷蔵庫に入れてその間にご飯食べよ。いや、、ひよりはお風呂に入った方が良さそうだ。笑」

「服もべったべた!これじゃ抱っこしてもらえないからシャワー浴びてくる~!」


 洗い物の山を放棄して、ひよりはとりあえずシャワーを浴びに行ってしまった。由奈は少しずつ片付けながら、晩ご飯をどうしようか考えた。


「それにしてもすごいな、、どうしたらこんなに荒らせるんだ、、どこから片付けて良いかわからない・・・。」


 大きな洗い物を済ませると、ざっと簡単に晩ご飯をと、由奈は煮麺を作った。ちょうど作り終えた頃にシャワーを終えたぴよりがパンツ一枚で登場。


「あーさっぱりした!お風呂出たよー!」チッパイパーンチ‼

「また裸でふらふらして~。風邪引くよ?」

「だって、ひより株が大暴落しそうだから、せめて色仕掛けをと、、」

「お腹空いた人~?」

「はいっ!!」

「・・・ご飯作ったからとりあえず食べよ。今日は罰としてそのままパンツいっちょで食べてください。」

「えっ!それ由奈さん、ムラムラする?」

「しない。やっぱり服着ておいで。」


 服を着たひよりとご飯を軽く済ませると、仕事帰りにお菓子を作らされた由奈はソファに寝っ転がった。


「ああ、疲れた。。ちょっと休ませて・・・。」

「ごめんね、由奈さん。帰ったばかりだったのに。」

「いいよ。ほら、おいで。」

「あいっ!あ、抱っこしなくて良いよ。ひよりが抱っこしてあげる!」


 よじよじとソファの奥に割り込んでくると、ひよりは由奈を後ろから抱きしめて頭を撫でた。


「よしよし。お仕事頑張って、ひよりの面倒見て大変だったね。イイコイイコ。」

「あはははは。まぁいいけど。ちょっと休んだらクッキー焼こうか。」

「ううん。後はひよりが1人でやるよ。由奈さんはゆっくりテレビでも観ていて?」

「え~?本当に出来るー?」

「できる!勉強もちゃんとやるよ!」

「わかったよ。じゃあ、ちょっとのんびりするね。やばくなる前に言ってよね?」

「わかった!良し、やるぞー!」


 ひよりはぴょんっとソファから飛び降りると、寝室からタオルケットを持ってきて由奈にかけてテレビをつけた。


「はい、テーブルにお茶置いておくからね。あと寂しくなったら言うんだよ?」

「はいはい、わかったよ。」


 ひよりはキッチンに戻ると、オーブンの予熱ボタンを押した。そして冷蔵庫から寝かせていたクッキー生地を取り出す。


「よし。やるぞ。ええと、形はこうやって、、こうか。鉄板にシートを敷いて、、」


 真剣な顔でクッキー作りに精を出すぴより。由奈はこういう時の無垢なひよりがかわいくて好きだ。いつもならビデオを撮るくらいだが、さすがに疲れていたのでテレビを観ながらぼーっとしていた。


「ふふふーん、でーきた。良し、あとは焼くだけ~!」


 鉄板をオーブンに入れて、タイマーをセットすると、ひよりは由奈が寝っ転がっているソファの近くに勉強道具と共に陣取った。


「ん、できたの?」

「今、オーブンで焼いてる~!あとで食べようね!」

「うん。楽しみだね。勉強わからないところがあったら言って?」

「あい。ようしやるぞー!」


 ああ、一時はどうなることかと思ったけど、ちゃんと勉強するつもりなんだ、、良かった、、と安心した由奈は、しばらくすると眠りかけていた。しかしそうは問屋が卸さない。


「ぎゃぁーーーーーー!!!!」

「えっ、はっ、なにっ!?」ドキドキ‼


 ガバッと起き上がってひよりがさわいでいるキッチンへと慌てて行ってみると、鉄板の上には綺麗に全てがくっついて焼けていたクッキーが出来上がっていた。


「超巨大クッキーになってしまった!わぁぁぁん!」

「うわぁ・・・ある意味ハロウィンっぽくてすごい。。」

「くすん。。味はどうかな、、由奈さんが味見してみて!ひよりはいじけてるから!」

「このくらいでいじけるんじゃありません。じゃあ、食べてみるか、、ぱく。・・・ん、味は、、悪くはない。」

「えーそれって微妙~。美味しくはないってことでしょ?」

「えーと、まぁ。今回の所はね。だけどひよりは本番に向けて練習してたんでしょ?失敗したって良いじゃない。」

「そうだけどぉ~。褒められたかったんだもん~。」

「私にとって一番美味しい甘いものがここにあるから、クッキーはもういいよ。」


 そう言って、由奈はひよりを俵のように抱えると、ソファの上に寝かせた。


「え、、由奈さん??ひより、宙に浮いてますが、、?あれ、今結構乱暴に落とされました?ここはソファの上ですか?え、なぜ服をめくっているのでしょうか、、?ひゃうんっ!!え、いきなりひよりのリトルぴよりがパクッとっ!!!??」


 ああああぁぁぁぁぁぁぁんん・・・・・・・・・・・♡


 クッキーじゃなくて、、ひよりが食べられてるぅぅ・・・



 由奈は思った。今日はもう、なんか疲れた。

 他のことはどうでもいいや。抱こう。



 また台所がベッタベタになっていることを知らずに・・・。



 続く。

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