002 勇者が訓練をする話
鶏肉を食べながら部屋の中で俺はこの世界の人間が当たり前にできる自己鑑定魔法を使う。
「はぁ……ステータス」
名前:神無月レイジ
ジョブ:勇者
称号:D級勇者
レベル:5/∞
状態:【隷属Ⅳ】――秘匿騎士ヴァーロウにより偽装中
真の状態:【正常】
スキル1:【スキル枠10】
Ⅰ:【兵士Ⅰ】
【統率Ⅰ】【戦術Ⅰ】【武具整備Ⅰ】【武器庫Ⅰ】【携行鞄Ⅰ】【疲労耐性Ⅰ】【感情抑制Ⅰ】
Ⅱ:【なし】
Ⅲ:【なし】
Ⅳ:【なし】
Ⅴ:【なし】
Ⅵ:【なし】
Ⅶ:【なし】
Ⅷ:【なし】
Ⅸ:【なし】
Ⅹ:【なし】
2:【なし】
3:【なし】
4:【なし】
勇者特性:【異世界言語】【最大レベル∞】【無限残機】【成長率:高】【スキル遺伝率:高】【対魔王属性】【パーティー編成 1/6】
装備:鉄の剣(一般級) 皮の盾(一般級) 皮の鎧(一般級) 隷属の首輪(勇者級)
自分のステータスを眺めてため息を吐く。
(強くなれるのかなぁ俺)
俺のスキルは【スキル枠10】というスキルだ。そこに【兵士】スキルという複数のスキルを身につけられるBランクの複合スキルをこの国に来たときに、ヴァーロウと名乗った騎士のおっさんから貰ったスキルブックで身に着けている。
(マジで器だけなんだよな。俺って)
この世界の人間は生まれたときに持っているいくつかのスキルに加え、スキル枠というスキルを習得するための空き枠があって、後天的に、だいたい0~5個ぐらいスキルを身につけられる。俺も初期スキルを加えてスキルの枠は4枠あるけどこのスキルのおかげで最大13個のスキルを身につけられる。
初めてこれを知ったとき俺は思った。13個もスキルが身につけられるのだ。
兵士スキルみたいな、複数のスキル効果がある複合スキルで13枠を埋めれば、めっちゃ強いのではないかと。
チートじゃないか、と普通の人は思うだろう。
俺もそう思った。なんでこれでDランク勇者なんだろうってな。
でも現実は世知辛いのである。
理論的には最強でも、現実にその最強はありえないのだ。
スキルの身につけ方は、生まれつきの初期スキルに加えて、ダンジョンで稀に獲得できる、スキルを身につけられるスキルブックというアイテムを使う必要がある。
つまりそのスキルブックで手に入る高ランクスキルを俺に詰め込めるだけ詰め込めば最強の勇者が出来上がるのだが、所詮は理論という奴だ。子供の妄想より酷い計画。
現実には不可能だった。
俺がこの国に来たときに支給された【兵士】というBランクスキルのスキルブック。
Bランクのスキルである。Sランクではない。Bランクだ。S、A、Bの順のレアリティ。上から三番目のアイテム。それがこの国では国宝として扱われていた。
小国の国宝でBランクである。国宝級アイテムを10個以上集めてそれで埋める、とかほとんどジョークみたいな話だ。
俺が一日がんばって調子が良ければ税金やらなんやら抜かれて銅貨数十枚の稼ぎ。そんな状態でスキルブック10個以上とかアホじゃないかと。
俺がDランク勇者なのはそれが理由だった。
スキルブックを使わなければ実質ノースキル。加えてそのスキルブックも高ランクを与えなければ意味がない。雑魚スキルで全枠埋めても雑魚ができるだけだからだ。
俺が勇者だとしても、才能のある現地住民に与えたほうがずっと有効に使ってくれるだろう。
そしてこの世界に半年もいれば、他の勇者が優遇される理由もわかる。
Cランク勇者でも、
俺みたいな実質ノースキルの勇者に貴重なスキルブックを投入するより、そいつらの空き枠にスキルブックをぶちこんだ方がずっと強い勇者が出来上がるに決まっていた。
ちなみに俺に支援がないのもそれが理由で、この国にはもうひとりおっさんの勇者がいるが、国はそっちの勇者に全力支援している。
小国だから金がないのだ。一度だけ顔を合わせたが、美女の【聖女】とか美女の【賢者】とかと一緒に高いランクのダンジョンを攻略しているようだった。
俺にもパーティーメンバーを支給してほしいな、と思っているのだが勇者は1レベル上げるのに必要な経験値量が多いため、レベル上昇が遅く、最初は一人で頑張って貰うのが基本らしい。
下手にパーティーメンバーを入れると勇者とそれ以外でレベル差が付きすぎて勇者が戦闘経験を積めなくなるらしいとかなんとか。
まぁその最初の一人の時期が半年以上も続く俺みたいなのが異常なのだ。
普通は強力な初期スキルを使いまくってガンガンレベルが上がっていくものらしい。
「はぁ……美少女のパーティーメンバーが欲しいなぁ」
お姫様とかと会ってみたいけど、会ったことない。一応この国の王様と顔を合わせたけど一回合わせたきりだし。
「期待されてねぇんだよな俺って」
勇者のスキルは子供にも継承されるから、召喚された勇者は王族なんかと結婚するのが基本で、あとは依頼されて貴族の跡継ぎのために男勇者は貴族令嬢に腰を振るのがこの世界では当たり前……みたいな話も聞いて期待した時期もあったんだよ。
実際におっさん勇者はたまに雄馬みたいに腰振ってるらしいしな。
でも俺にそんな話は来ない。
当たり前だ。スキル枠10なんてスキルを遺伝されたらされた方が困るもん。スキルブックが手に入りにくいのだ。10枠増えたところで埋める方が難しいのである。それなら1枠で強力な効果を発揮する他の勇者スキルの方がみんな欲しがるのである。
「チートスキルほしー」
そんなことを呟きながら俺は今日使った鉄の剣やら皮の盾やら鎧を床に置くと兵士スキルの【武具整備Ⅰ】を使って血脂や土埃を落として破損を魔力で補修すると、武器だけを収納できるアイテムボックスである【武器庫Ⅰ】に詰め込んでいく。
ちなみにこのⅠってのはスキルの熟練度みたいなもので、使い込んでⅡになるとスキルの威力が上がるらしい。まだⅡのスキル持ってないからどれだけ強力かはわからないが。
「レベル上げてぇなぁ」
呟きながら、俺はベッドに横になる。身体ぐらい拭くべきかなと思ったけどめんどくさいからパス。
少し早いかなと思いながらも今日は死んだし休むか、と眠りにつくのだった。
◇◆◇◆◇
朝四時頃に起きた俺はギルドの宿舎から出て街を覆う外壁の外に門から出る。そうしてランニングを始めた。
街を覆う外壁から外に出たのは、都市内でやると人にぶつかったりしてめんどくさいからだ。
ちなみにこのランニングは初めてダンジョンでゴブリンに殺されてからずっとやっている。
正直なところ俺だってこんな地道な努力はやりたかないのだが、昨日死んだ理由を考えればやはりやらないわけにはいかないだろう。
俺がオークに殺された原因に、圧倒的な持久力不足というものがある。
逃げ足が鈍らなければ、逃げ足が速ければ、オークどもを置き去りにしてダンジョン内を駆け去ることも可能だったはずだ。
加えて、このランニングは俺が持っている兵士スキルの力を引き出す作業にもなる。
兵士スキルは複合スキルだ。
これまで【統率Ⅰ】【戦術Ⅰ】【武具整備Ⅰ】【武器庫Ⅰ】【携行鞄Ⅰ】【疲労耐性Ⅰ】【感情抑制Ⅰ】のスキルを【兵士】スキルからなんとか引き出してきたが(【統率】は所属集団を制御するためのスキルだが、敵集団の統率力を観察するスキルでもある)、俺が強くなるにはまだまだスキルの力を引き出し、新たなスキルを獲得しなければならない。
これはスキルを作る、という行為らしい。
これを続けることで【行軍】や【ランニング】【体力増強】【持久力】【早足】なんかのスキルが芽生えないか、俺は期待していたりする。
まぁそれはなくてもフォームを考えながら走ることで体力や走力の訓練にはなっている。
三十分ほど軽装で走ってウォーミングアップすると、今度は俺は鎧を身に着けて走り始める。これを一時間やる。
そのあとは街の傍の森に入る。ちょっと奥に入ると清流が流れる滝があるからだ。
そこで裸になるとじゃぶじゃぶとランニングで出した汗を流す。水生生物がたまに襲ってくるが街の傍ならレベルも低いので【戦術】スキル持ちの俺なら素手でも倒せるのだ。
ちなみに【戦術】スキルとは、戦術的な規模での戦いで効果を発揮する兵士スキルである。
戦闘に関連する全てを網羅したスキルだろうか。【剣術】や【体術】などに加えて、【探索】や【調達】などの補助スキルを包括的に使えるようになるスキルでもある。
便利だが、各スキルが持つ専門性までは網羅できていない。ただし他の攻撃スキルと効果が重複するので【戦術】スキル持ちが【剣術】スキルなどを獲得するとめちゃめちゃ強くなれるらしい。
なので身体についた水を布で拭いたあとは剣術の稽古などをする。【携行鞄Ⅰ】の中にあった【グランウェスト大王国 総軍教本写本 1632年度版】を取り出した。すごい分厚い本だ。兵士のスキルブックと一緒に騎士ヴァーロウに貰った本だ。
こいつは異世界版孫子みたいな本で、300年ぐらい前に、この世界で征服王と呼ばれた王様が自ら書いた本である。
戦略・戦術のことが大量に書かれている分厚い本だ。
地形の読み方やらサバイバルの仕方とか書かれていて、俺のダンジョン活動にめちゃくちゃ役に立っている本である。
というか、地形の読み方が面白い。何もないのに鳥の群れが急に飛び立ったらそこに敵軍や強力な魔物がいるみたいなことも書かれてあって、読んでてすげーってなる本だ。
俺が兵士スキルには無限の可能性があるんじゃないかと信じられる根拠みたいな本である。
だから、この本に書かれていることは全部スキル化できるだろうと俺は思っている。
これに兵士の剣術も書かれているので読みながらしっかり訓練する。
フォームを確認して素振りを何度もする。うまくすれば兵士スキルから【剣術】スキルが出てくるかも、という期待を込めて一時間ほど訓練する。
最近ちょっとしたコツが掴めてきた気もするから、もうすぐ取得できるかも?
「ふぅ~。今日も頑張った。結構楽しいかもしれんな」
再び滝で身体を洗ったあとは、筋トレを三十分ほどする。【携行鞄Ⅰ】の中に【武具整備Ⅰ】用の補修素材として鉄塊を入れてあるのでそれを持ち上げたり、大木の枝に捕まって身体を持ち上げたり自重トレーニングを行う。
(ふふふ、結構筋肉ついてきたな)
【勇者】の補正もあるのだろう。最近は身長も伸びてきていて、今の俺は180センチはあると思う。
美しい筋肉だ。この世界で育ててきた自分の肉体に見惚れてしまう。
あと水面に映る自分の顔が結構なイケメンっぽくなってきていて、ふふふ、となってしまう。俺の身体最高じゃね?
ひとしきり自分の肉体を褒め称えてから、瞑想を三十分ほどする。背筋を伸ばして立って、両足を肩幅ぐらいに広げて、膝を小さく曲げる。そうして胸の辺りの高さまで両腕を上げてから、ボールを抱えるように曲げる。手の平は開く。
これは教本に、異世界の武術にある瞑想法であると書かれていた奴だ。注釈にチューゴクケンポーと書かれていたので中国拳法だろう。
こいつの姿勢をしっかりするのはキツイ。そんで、
教本によればこうやって魔力を自覚しつつ、肉体をしっかりと鍛え上げることで【身体強化】のスキルを得られると書かれている。身体強化さえ得られればオークだって簡単にぶち殺せるらしい。頑張ろう。
そうして俺は瞑想を頑張ったあとに、街に戻ってギルドで購入した安い朝食をモリモリ食うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます