第17話 約束の日 ②
まじまじと私の武器を観察するアゼル。
自分の手持ちを観察されるのは少し緊張するな。
どこか恥ずかしさを感じた私は、心をほぐすために淹れたての紅茶を一口。
茶葉の匂いが鼻を通り抜け上品な味わいだ。非常に心が落ち着く。
「よかったらこれもどうぞ。僕の手作りなんだ。」
アゼルは折れた愛剣を布でくるみ、お茶菓子の皿を出してくれた。私は一つクッキーを口に放り込み、紅茶と合わせて堪能した。
(悔しい。かなり幸せな味だ…)
「それでどう、直せそ?」
「んーーいい知らせか悪い知らせか。どっちから聞きたい?」
その質問の仕方はずるい気がする。でも逃げてばかりではいけない。頼みの伝手はここしかない。
とりあえず、私は安心する気持ちを優先することにした。
「じゃあ、良い方から。」
「分かった。単刀直入に言うと、この剣はまだ戦える。」
「てことは…」
「鍛え直せるよ。折れた刃も回収してくれてるみたいだし、僕なら元通り以上に仕上げることができる。」
「そう…よかった。」
その報告を聞いて肩の荷が一つ降りた気がする。また一緒に戦うことができる。それだけで今は十分だ。
気持ちに余裕ができた私は、もう一つチョコレートクッキーを手に取った。
「ここで悪い知らせ。直せるけど、今はできない。僕の手元にはホタル鉱石がないからね。」
「やっぱり問題はそこなのね……。」
いい鍛冶師は見つけた。だが材料がない。
私はアゼルがわざわざ市場で探してくれていたことを知っていた。だからその懸念は当然こと。
彼の手元にもないんじゃないかって予想はしていたけど、やっぱりここが鬼門のようだ。
「そうなるね。そこで二つ提案なんだけど。いいかな?」
「ええ、聞かせて。」
「一つ目は市場で張り続けることかな。深層から戻ってきた冒険者をマークしといて、商人に裏金……おほん。仲のいい商人さんたちに頼んで魔石に絞って情報をもらう。それと並行して情報屋も使う。あんまり言いたくないけど、裏市に探りを入れるのもいいかもしれない。」
(つまりお金で情報を買うということか。)
鍛冶師に関わらず商売人にとって情報を売買することは営業の基盤といえる。
私も冒険者だ。こういったグレーな場面など沢山目にしている。別にそこに抵抗を覚える必要なんてない。
「なら資金的な問題はもちろんだし……後はそう。人脈も必要になってくるわね。」
「まあね。それか上位冒険者に依頼するのも手かな。でもその場合、色々と問題もあるけどね。」
「確実性がないし、財布がしんどいかもね。」
「その通り。大体、鍛治師でも見分けが難しいホタル鉱石を、冒険者に見分けられるかっていう問題になるね。そこで第二案さ。」
ホタル鉱石は見分けがつかない特性から、上位鍛冶師兼冒険者への依頼はとんでもない額になってしまう。それを打破するための第一案であると私は納得する。
では第一案を補う形で作成された二つ目とは一体なにか?
一頻り思考が纏まった様子を見て、アゼルは話を再開する。
「第二案はまず入手にお金がかからない。」
「おぉ。」
「しかも場合によっては一括千金も狙えるかもしれない。」
「一括……え?」
「失敗は自分の腕次第。今なら鉱石を嗅ぎ分ける、お雇い鍛冶師付きだ。」
「それってつまり…」
人件費はお雇い鍛冶師のみで、入手にお金はかからない。尚且つ、一括千金も狙えると。リスクは腕次第、てことはつまり。
「そ! 僕たちで取りに行くのさ!」
それの……一体何処が良案だ!!!
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