第10話 気高いですね、愛剣さん。

「さ~てと。暇してる場合じゃなかった。そろそろ作業に戻らないと。」

「見た目によらず忙しいのね。」

「見た目は余計。言ったでしょ。これでも腕はちょっとしたものなのさ。」

「ふ~ん」


 ヨゼフさんを見送った後、アゼルは少々疲れ気味な肩を伸びほぐした。

 どうやら忙しいことや鍛治師としての腕は、本当で本物なのかもしれない。ハイエルフが顧客という時点でかなり信憑性はある話だ。


「それで、君の愛剣を任せる鍛冶師さんには出会えたのかな?」

「ん…まだよ。とりあえずいつもの所に行くつもり。」


 そうは言ったが、ちゃんと直してもらえるか不安だ。

 コテツさんの店がやってるといいのだが、あの人もかなりの多忙だ。

 思っているより時間がかかるかもしれない。


「それは残念。あとこれはそういう目的でいうわけじゃないけどさ。その子の修理は少し難しいかもしれない。」

「見たわけでもないのにどうしてわかるのよ。どうせまた鍛冶師だから~とかって言うんでしょ。」

「うん、正解! まあまあ参考程度に聞いていきなよ。」


 参考程度なら…。実際、見てもないのに剣が折れていることにも気づいたし。

 こいつまさか透視能力でもあるんじゃないか…いや、そんなまさかね。


「それで? 理由は?」


 アゼルのドヤ顔がむかつくけど、愛剣のためにここは我慢。どうやら本当に腕が立つ鍛治師のようだし、一応話は聞いておこう。


「よくぞ聞いてくれた! まあ単刀直入にいうと、素材の問題なのさ。ホタル鉱石は希少だからね。ダンジョンの深層じゃないと手に入らないし、見つけるのも一苦労だ。」


 ホタル鉱石? それってどんな…。

 意外としっかりした専門的な返答に虚をつかれてしまった。


「それって魔鉱石のこと?」

「んー近いけど少し違うかな。一見魔鉱石と同じだから見分けが難しくてね。たまに魔鉱石に紛れ込んで市場に出回ることもあるんだけど。」


 市場に出回らないとなると…コテツさんの所にあるかどうか分からないな。


「さてここで問題。なぜホタル鉱石は市場に出回ることが少ないでしょうか?」

「えっ、それは……。言ってた通り見分けがつかないからでしょ?」

「それじゃ半分正解ってとこかな。まああの鉱石は深層でしか採取不可。知名度も昔と比べたら随分と寂れたものさ。だから依頼の数も少ない。でも話はもっと簡単。じゃあヒント。冒険者はなぜ深層に向かう?」


 冒険者が深層に向かう理由か。そんなのは簡単だ。未知へと挑戦する探求心が…と言いたいところだけど、そんなのはほんの一部の冒険者たちだけだ。ほんとの目的なんて不純なものなのだ。


「それは金儲けのためでしょ。」

「その通り。じゃあ金を得るためにはどうする?」

「モンスターの魔石とか、場合によってはトレジャーだとか。後は…。天然資源や希少鉱石の類…あ、」

「そういうこと。深層まで進む冒険者が採取するものなんて、高値で売れる希少鉱石ばかりに決まってる。低層で採取可能な魔鉱石なんて誰も取ってきやしないのさ。だから尚のこと、ホタル鉱石は希少になるってこと。」


 うっ……。まさか私の剣がそんなにも希少なものだなんて知りもしなかった。

 そんな私に追い打ちをかけるように言葉は続く。

 

「それに加工が難しい。ある一定の高温で日の出から夕暮れまで打ち続けなきゃ脆くなってすぐ砕けてしまうんだ。上位鍛冶師程の腕じゃないと絶対成功とはいかないよ。それに。」


 次の瞬間、貧乏中位冒険者リズにとどめのお言葉が刺さった。


「あと言いづらいけどお高いよ。多分…」

「気が遠くなりそう。ただでさえ今はダンジョンにも潜れないのに。」

「まあその辺は君の判断に任せるよ。」

「そうね、よく考えるわ。」

「うんその方がいいよ。まあ開店記念の最初のお客様には少し色を付けようかな~なんて。」

「…ありがとう、考えとく。」


 なんだか少し悔しい気分だけど、背に腹はかえれない。私はとにかく強くならないと。すぐにでもダンジョンに潜って、鍛錬しなきゃいけない。そうじゃなきゃ、皆と距離がどんどん放されちゃう。そうと決まれば、早く支度しなきゃ。


「ん、行くのかい?」

「ええ、お腹もすいてきたし。」

「そうかそうか、それじゃあ一緒に朝食でも。」

「遠慮しとくわ。」


 即答のお断り。そうして、いつもと違う朝が終わる。いや……まだ朝ご飯が残ってるか。

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