第8話 リズのスローライフ ②

 もう一度言おう。私はこの時間を楽しみにしている。

 少し肌寒い朝。火照り始める熱がランニングの始まりを感じさせる。

 朝の陽ざしが心地いい。いつもは朝の眠りを邪魔立てしてくる嫌な奴だが、今は休戦。

 ここはいい街だ。毎日変わりないコースを一周しているが、飽きることがない。南から東にかけて大通りを過ぎると海が見え始める。私のオススメスポットは海の浜辺だ。潮の香と白砂の浜辺が上がりたての朝日に照らされ、いつもの光景が少し特別なものに見えるのは私だけだろうか。いつもの街灯下の長椅子に座り、景色を楽しみがてら一休憩。そして、私はまた走り始める。


ーーーーーーーー


 海辺の終わりでターンした後、坂の大通りを走っていた。いつもは賑やかだが、さすがに朝方となるとまだ店を開けてる最中のようだ。しかし、私は毎朝の朝食をここで確保している。そう、この店で。


「ヤオさん!」


 私は裏方で作業中のある男に声をかけた。私の声に反応したかのようにピクリと動かす獣耳、男は立ち上がり振り返る。


「リズか。相変わらずいつも早いな。」

「ええ、いつものお願いします。」

「あいよ。」


 そう言って店主が取り出したのはフルーツの詰め合わせ、新鮮なうちに食べるのがまたおいしいのだ。


「あれ、ヤオさん。これ一個多いですよ。」


 袋を確認すると私の好物、リンゴが一つ多いのに気づいた。


「とっときな。どんな時でも冒険者は元気でなきゃな。」

 

 私、そんなに顔に出やすいタイプなのかな…いつものヤオさんがヤオさんじゃない。少し情けないと思う自分もいる反面、私を見てくれている存在がいることに少し照れてしまいそうだ。

 

「はは、なんですかそれ。元冒険者の豆知識ってやつですか。」

「バカやろう、どんな時でも最高を整えるのは生物の義務ってな。いいからもってけ、たらふく食って寝たらぁいいんだよ。」

「ありがとうヤオさん。でも寝るには早すぎますよ~だ。」

「けっ! はよいけ田舎娘。」


 ケモ耳の獣人は見送ってくれるらしい。果物の入った袋を握りしめ柄にもなく私は手を振る。

 本当にありがたいな。こんなにも私を見てくれている人がいるんだ、元気出さなきゃな…。こんなしけた面じゃ、おばあちゃんがあの世で心配しちゃうよね。

 おばあちゃん、何とかリズは頑張れそうです。心配しないで。必ず上位冒険者になって、そして父さんと母さんを見つけ出してみせますから。

 

 そうして朝の坂道を走り出す。後は家に帰るだけだ。

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