第7話 リズのスローライフ ①

「ふぅ…はわぁ~~」


 あくびを漏らし目覚めた朝。

 窓から差し込む陽光が、体に起きろと言ってくる。

 でも生憎まだ眠い。「ほら、まだ朝も早いし寝ちゃいなよ。こっちにおいで。」と愛用のブランケットが誘ってくるが…。ここで乗ってはいけない。

 二度寝を防ぐには寝起きの体を伸ばし、迅速にベットから出ること。これぞリズ流・二度寝回避術の極意なのだ。

 では皆様。僭越ながら、私の朝のルーティーンを披露しよう。

 まず借り部屋を出て、一直線に向かうのはこの洗面所。ここでタオルと歯ブラシを忘れてはいけない。洗面台は共有スペースであるため私物の放置など、乙女にとってナンセンスなのだ。

 さあまずは洗顔から。ここが何かと今日一日の肝となってくる。冷水をこぼれんばかりに顔に当てること数回、冷たさに驚かなくなるまで続ける。目がぱっちりと開いたのを鏡で確認し、次のステップへ。

 そして取り出したるは朝の相棒・歯ブラシさん。何かと愛剣の次に使っているかも…というのは置いといて。

 よい子の皆は歯は入念に磨きあげよう。これは小さいころからの名残と習慣かな、よくおばあちゃんに『ちゃんと磨きなさい、じゃないと恐ろしい悪魔が口にいたずらしに来るよ。』と今考えればそりゃないでしょ、とツッコンでしまいそうになるような教え文句を言われてきたな。

 言ってる合間に…そろそろ口をゆすぐか。口元、全体をタオルでふき、押し当てる。よし、これが終わればいつもの私の完成だ。



ーーーーーーー


「よし!」


 さて、今私は着替えを済ませて玄関にいる。いつもの日課のランニングで体を動かすためだ。冒険者たるもの体の緩みを許してはいけない。時間はいつも通りの五ノ針が六ノ針に変わるまで。実は言うと、私はこの時間を楽しみとしている。


「おお。おはようリズちゃんや。お出かけかな?」

「あ、大家さん。おはようございます。いつもの日課ですよ。」


 突然後ろから話しかけられたが問題ない。やはり、大家さんは朝が早いようだ。このやりとりで朝が始まるといっていいほど日課となっているかもしれない。


「そうかそうか」

「はい、行ってきます。」

「ああ、リズちゃんや。大丈夫かい?」

「ん、大丈夫?」


 珍しいな。大家さんが朝に止めてくるなんて。何かやらかしちゃったかな…というか大丈夫ってどういう…


「今朝は少し元気がないように見える。何かあったのかな?」


 大家さんは私が十二の時から面倒を見てくれている。思えば三年近くになるのかな。

 私の些細な変化も気づいてくれる優しい人だ。できるだけ顔に出さないように頑張ってたんだけどな…。


「心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫です。いつもみたいに大家さんは見守っててください。」

「そうかい。リズちゃんは強いね。でもしんどくなったら頼りなさい。」

「…ありがとう。」


 照れくさいな。やはり大家さんは優しい。誰かとは大違いだ。でもまた少し心のささくれが取れた気がする。

 そうして、私は勢いよく玄関を飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る