第1話 だから私は飛び出した ①
このパーティーに私は不要なのだろう。今日の戦闘でそれは明確となってしまった。
言い訳はしない。折れたての愛剣がそれを物語っている。
ダンジョンは深層へ潜るほど敵が強くなる。それは冒険者にとって当たり前のことで、それに見合う力で挑むのも当たり前。だが今の私にはその当たり前すらもこなせない。
そう。つまりは実力不足なのだ。
「はぁ~少ねぇな。これじゃいつもの半分もねえよ。」
「まあまあ落ち着こう。これでも十分ノルマは達成してる。…今日も運が悪かっただけさ。」
「そうよ。トラブルがあったんだから仕方ないじゃない。そんな言い方リズが可愛そうよ。」
刺すように投げられた不平は食事の並んだテーブルを挟んで私に投げつけられる。
誰に? どうして? そんな事は言うまでもない。
情け容赦ない言葉にユリスと団長のオリウスは私を擁護してくれるが、その優しさが日に日に痛くなり始めたのはいつからだろうか。
攻略が難航して貯蓄が増えなくなったころか。パーティーへの負担が偏り始め、安定を失ったときか。それとも私が実力不足だと感じたあの時か。
そうして自身の不甲斐なさから逃げるように距離を置くが、分かり切った原因を深堀してはまた傷つく。その繰り返しだ。
「でも武器の手入れは冒険者の基礎だ。それを怠ったあんたにも責任がある。」
逃げるように視線を下げる私を問い詰めるように、ガゼットは追い打ちをかける。
私は冒険者になった時から、周りのヤジや同業者の悪態を許容するよう心掛けている。だからグレッグの言葉にも耐えれる。
でもガゼットのはダメだ、無視できない。己の失態や責任問題となると話は別。防ぐことのできた事態を自身の怠慢が原因で起きてしまった。それは命を預け、預かる私たちには決してあってはならない。私のせいで仲間が死んでいたかも知れない。そう考えるだけで恐怖が心を支配するのだ。
当然、武器の手入れは毎日のようにこなしている。
ここに来るまでずっと一緒に戦い続けた相棒のような存在だ。
だから私には少し疑念があった。
何故折れてしまったのか。モンスターの一撃を受けた程度で、折れてしまうような柔な武器ではないことは、一番私がよく知っている。突入前までは罅は勿論、刃こぼれすらなかったはずなのに……。どうして…。
「黙ってないで、何とか言ったらどうだよ……役立たず。」
「おいグレッグ!!」
ついに言ってやったと言わんばかりに勝ち誇った顔のグレッグであったが、オリウスはその言葉を聞き逃さなかった。
直後、机をたたき上げ、グレッグの胸倉をつかみかかる。白色の肌に血管が浮き上がった所を見るに、間違いなく本気だろう。
それは私にとって最も恐れた光景だ。自分のせいで仲間が裂けること。
それだけは…絶対にいやだ。
「落ち着きなよ二人とも。それにこんなところで…ほら周りの人達もいるし、ね?」
行きつけの酒屋には今日も多くの冒険者がいる。
こんなに騒ぎ立てれば無理もない。いつの間にか、私たちは彼らの注目を浴びていた。中位冒険者の中でも最も上位に近いパーティーとして名が通っている『朱色のかぎ爪団』ともあろうものが、揉め事をしているとなるといい見せ物になるのだろう。
「おっ!! 喧嘩か!! やれやれーー!」と野次が飛び交ってきた。だがそんな浮かれた熱に反して、私は仲間への罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
オリウスも冷静さを取り戻したのかグレッグから手を放す。
『私のせいで…』と罪悪感が押しつぶしてくる。私の答えはもう決まりつつあるのかもしれない。いや、愛用の剣がへし折れた時点で私の心は、きっと折れてしまったのだろう。
「皆、大事な話がある。大丈夫。安心して…これで最後だから。」
だから私は……。パーティを抜けるという言葉が案外楽に切り出せたのかもしれない。
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