第25話 決着

 化蛇かだはスマホの画面から飛び出した妖猫ようねこパンチを受けて少しよろけた。


『……痛い』 


 そこに勢いよく地面をる音がする。赤坂兄妹が息を切らしながら凪咲のいる山にやって来た。


いとしの凪咲なぎさ様、助けに参上さんじょうしましたわ」 

「ミオミオに快斗さん! 来てくれたのね」

 凪咲はほっとして笑顔になった。


「やっと見つけた。妖猫ようねこパンチで化蛇に完全に霊力が戻ってない、今がチャンスだぞ。はぁはぁ」

「快斗さん、よくここが分かりましたね」


 快斗はスマホを見せた。

「おう。文明ぶんめい利器りきだ。それとノアムが会社員かいしゃいん風の大人姿に変化へんげして、母に借りた車を運転して、ナビ使って急いで来たぞ。途中で、車が通れないってんで、車から降りて獣道けものみちを走ってきた」


「さあ、観念してあたしの凪咲様を返しなさい」

 澪が化蛇に向かって叫ぶ。

『返しはしない。このままいてもらう』

往生際おうじょうぎわが悪いわね!」


 シャリン。シャリン。


 神楽鈴かぐらすずを鳴らす澪。


「まって、わたし化蛇と話がしたい」

「凪咲さん……」


 凪咲は化蛇に訴える。

「化蛇さんの気持ちがわかりました。どのくらいかかるかわからないけど、この池を再生させてみせます。だからお願い。悪い神にならないで!」


『もう遅い……』

「そんなことない」


「――いいえ、凪咲さん。化蛇はもう悪霊に取り込まれて、自分の意志では無理です」

 黄金色の髪をなびかせ、妖騎士ノアムが剣を持って立っていた。


「そんなぁ。ノアム。倒さないで、このままじゃ化蛇がかわいそうだよ」

「やさしいですね。ええ、承知しております。ですから、この剣で悪霊あくりょうだけを成敗せいばいいたします。わたくしを信じてください」

「……わかった。ノアムを信じる」


『ヴォオオオオ……!』


 化蛇が黒い翼を広げ空に飛ぶ。そしてけたたましく鳴いた。すると山が共鳴きょうめいしてゴゴゴゴと鳴る。直後、激しい雨が降りだすと、川の上流から土石流どせきりゅうが流れてきた。


「危ないこっちだ!」


 快斗は凪咲と澪を誘導ゆうどうして、川から離れた場所に連れて行った。


「よし、陰陽道おんみょうどう定番ていばん結界けっかいを張るぞ」

「ありがとう。快斗さん」


 快斗は修学旅行しゅうがくりょこう京都土産きょうとみやげで買った、模造刀もぞうとう背負せおっていた。刀をさやから取り出し、五芒星ごぼうせい✡を描いた。最後に両手を広げると、結界を張るのが成功した。


「二人ともこのまま結界に入っていて。俺はノアムをサポートしてくる」

「わかった。がんばれ兄ちゃん」

「おう」



 ***



化蛇かだ、観念するんだ!」

 空に浮かんでいる化蛇。剣をかまえたノアムが地上から叫ぶ。


『もう、遅い。川の水があふれ、土石流どせきりゅうが町をおそい今ごろ水浸しになっているはずだ……ハハハ』


「――それはどうだろう」

『何?』


「雨もやみました。あなたは力を使いすぎて、霊力が残っていないのか、土石流どせきりゅうが止まりました。それに、この前つかまった河童に川を直すように指示したので、今ごろ岩をどけているんじゃないのかな」

『!!』


「悪さしようものならきゅうりとお皿の水を没収されるから、真面目に働くと思いますよ」


『くそぅ。もう一度……』

「させません!」


 ノアムが外套マントをひるがえし、風のように走って木に駆け上がる。てっぺんまで登ると、足を蹴って空に飛翔ひしょうする。するときれいな放物線ほうぶつせんを描き、そのまま地面に着地する前にノアムの剣がくうを切る。

 刹那せつな、剣から発する稲妻いなずまのような〈〉が爆風ばくふうとともに化蛇の体を切りいた。


『うわああああああ』


 化蛇にいていた悪霊あくりょうがちりぢりになる。大妖怪で水獣の化蛇は叫びながらみるみるうちに体が小さくなって、草の上にぽとりと落ち、ただの老いぼれたへびに戻った。


 蛇姿になった化蛇がにょろにょろと草木の陰に隠れようとした。


「ノアム。これ受けとれ」

 快斗がうしろから走って、投げた。


 『AYA🐾NEKOアヤネコ』アプリで買った妖怪専用の蛇捕獲棒へびほかくぼうだ。ノアムはキャッチして、すかさず捕獲棒ほかくぼうで小さな蛇を捕まえ、蛇専用のBOXボックスに入れた。


「今回は、上手くいきました! 凪咲さんは見てくれましたか?」


 ノアムは蒼玉サファイアブルーの瞳を輝かせ、凪咲を探したが、待機たいきしていた山からちょうど隠れて見えない位置にいた。


「はあ……。いいところをお見せできなくて、残念です」

 そう言って、力を使い果たしたノアムは、モフモフ猫騎士に戻った。


「俺は見ていたぞ! 今度こそノアムかっこよかったぜ。それに、猫姿のノアムを初めて見た」

「快斗さんも、何もかも助けてもらってありがとうございます。さすが陰陽師おんみょうじ末裔まつえいですね」

「へへ……。もうスマホがなくてもあやかし語がわかる」


 快斗がこぶしをあげ、ノアムにうながす。二人は少年漫画のように拳と拳を突き合わせ笑った。


 ノアムは思う。


(男の友情もいいものだな……)

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