第24話 「AYA🐾NEKO」音声通話

 再び、化蛇かだはまた別のめ池の水を吸い上げる。その水で村が浸水しんすいするように化蛇が大量たいりょうの水を大きな水の玉にしてあやつっていた。このまま村に水を大量に流そうとしていた時――。


「お前のあやつる水を俺が横取よこどりしてやるぜ」


 快斗は再び龍笛りゅうてきを吹く。みやびな音色で空気が一変する。化蛇があやつっていた水のすべてを龍笛で引き寄せると、水は龍のような形になった。そしてまるで意思を持っているかのように水の龍が大きな川に注がれて消えていった。


「すごい! 民家に水が行かなくて助かった。お兄ちゃん、音色がきれいね。これも動画どうがで学んだの?」

 澪は不思議そうに兄を見た。

「いや、俺は部活で本格的ほんかくてきに習っているんだ。水をあやつる音階おんかいは父さんから聞いたけど……」


『ちっ……。しかし稀人まれびとはいただいたぞ』

 バサッ。

 化蛇は背中に凪咲を乗せたまま、黒い翼を広げ上空に逃げていった。


「ああ! 凪咲さんが連れ去られちゃったよ! どうしよう……」

「なんてことだ……。わたくしの力不足です。どうすればいいか。神通力じんつうりき捜索そうさします」

 あとから追いついた妖騎士ノアムは剣を取り力を込めようとした。


「待て待て、ノアム。ただでさえ現世うつしよの人型変化へんげは霊力が消耗しょうもうする。それより簡単に見つける方法はあるさ」

「本当ですか?」

「凪咲さん、スマホ持っていただろう」

「はい、それが何か」


GPS機能ジーピーエスきのうがついてるから、居場所いばしょがわかる」



 ***



 化蛇かだにさらわれた凪咲は小学校近くの裏山うらやまから流れる川の上流じょうりゅうにいた。その横には大きな池があった。


『甘い匂いのする、あやかしの言葉がわかる稀人まれびとよ。大人しくお前はワシの嫁になるんだな』

「嫌です! そんなの絶対ありえません。それよりここはどこなんですか⁉」 


 辺りを見渡す。崩れて土に埋もれた民家、田んぼの跡地。荒れた神社。池もにごって臭い匂いがただよっていた。


「古いほこらもあるし、もしかしてあなたは……ここの神様?」


『……そのむかし、この辺りに人が住んでいた。だが皆は不便ふべんだからと山を捨て、今は産業廃棄物さんぎょうはいきぶつがこの池に投げ込まれているんじゃ。澄んだきれいな池の水は汚染おせんされてしまった。人間が……ゆるせん。真奈美の身体からだを借りて調べると、それが大山川家の下請したう業者ぎょうしゃなんじゃと――突き止めた』


「そうだったのですね。わたし何も知らなくて……。でも不法投棄ふほうとうきは犯罪です。わたしから真奈美さんに言ってみます。だから何も罪もない村人を困らせないでください」


『もう遅い! ワシはこの村を洪水こうずいにしてやるんじゃ。ワシの怒りは大地の怒りと受け止めよ! もっと悪さしてほろぼしてやる!』


 突然、化蛇の身体から黒いオーラが出る。顔つきもするどく、目も赤くえていた。空に向かって叫んだかと思ったら、急に雨雲が現れ、どしゃ降りになった。汚れ切った池に雨を降らせると、みるみるうちに池の水があふれて、川に流れ込んだ。


(なにこれ? よくない方向にいっているのね。化蛇の様子がおかしい。もしかして化蛇は悪い神様になっちゃったのかな? いけない。暴走ぼうそうをとめなくちゃ! でもどうすればいいの?)




『ニャオ―――ン』

「?」


 とつぜん、凪咲のかばんの中からスマホがった。


(これは『AYA🐾NEKOアヤネコ』の着信音ちゃくしんおん。あやかしの幹部かんぶからだ)


「はい。凪咲です」

 思わず画面をタップして通話にする。


『やあ! われは猫妖怪の中でも霊力れいりょくナンバーワンのめちゃくちゃ強い猫魈ねこしょうじゃ!』

「ヤバ。妖国の王様じゃん!」


『ゴホンッ。敬語けいごを覚えておきなさい。ノアム殿から話は聞いたぞ。さらわれたようじゃな』


「こんな状況だけど、王様とお話できてうれしい。ごめんなさい。密偵みっていをまかされたのに、かえって足を引っ張っていますよね。どうしよう。結局、わたしは何もできないです。みんなと違ってあやかしじゃないし、徐霊じょれいだってできない、役立たずです……」


 己の不甲斐ふがいなさに、くやしくて、いつの間にか涙がこぼれていた。ぽたり。と携帯画面に涙がこぼれおちる。


『そんなことはにゃい』


「でもね、化蛇は暴走している。この村を水浸しにする気なので、止めたいです。何かわたしにできることないですか」

『にゃふう……。困った蛇さんじゃ。こじらせると厄介なやつよ。わかった。化蛇は近くにいるな?』

「はい」


『いいか、いっせーのーで、スマホの液晶画面えきしょうがめんを化蛇に向けるんじゃ。いーな?』

「液晶画面ですか?? わ、わかりました!」


『いくにゃ。いっせーのーで!!』

「はいっっ!!」


 凪咲は化蛇に向かって液晶画面を向ける。するとスマホの画面から、突然、まばゆい虹色の光とともに、猫の手がにゃんと飛び出した。その猫の手は長く長くどこまでも伸びて、化蛇のほおを思いっきり、パッチーンと叩いたのです。


必殺ひっさつ妖猫ようねこパ――――ンチじゃにゃ』

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