第22話 化蛇を捕獲しよう

 塾の夏期講習かきこうしゅう中盤ちゅうばんにさしかかった頃、今日でいったんお盆休ぼんやすみに入る。みおは今日がピンチだけど、この日しかないと言った。


 多くの日本人はこのおぼんに、ご先祖様をまつる行事としてお墓参りをする。


 ――八月の十三日がご先祖せんぞ様のたましいがあの世からこの世へ帰る日。故人こじんたましいをおむかえするのが迎え盆、そして十六日にご先祖様が帰ってゆくので、お見送りするのが送り盆。


 お盆の帰省きせいラッシュの影響えいきょう高速道路こうそくどうろ渋滞じゅうたいするように、霊道れいどうもこの時期は霊の往来おうらいはげしいらしい。


 授業終了後、凪咲なぎさは大山川真奈美に声をかけるよう澪に言われていた。


 一方、塾の夏期講習で、凪咲と同じ教室ではなく、ノアムだけ別室で授業を受けることに。理由は「ノアムがいると女子たちがさわぎ出し、授業に集中できないから」と講師に言われてしまった。


「困ったな、妖力ようりょくを抑えようとしても、出来ないみたいだ。でもそんなにざわつかせていたのかな」

「へー。モテオーラって、消せないもんだねー。よっ色男いろおとこ!」

 凪咲はノアムをからかった。

「にゃふう……。凪咲さん、のんきですね。あなたをおまもりしないといけないのに、何のために潜入せんにゅうしたのでしょう。これでは本末転倒ほんまつてんとうです」

「わたしなら大丈夫だよ。隣の教室でしょう? 何かあったらすぐけつけられるじゃん」

「しかし……。河童の時に取り逃がしたのがトラウマです。必ず真奈美さんとお話する際は、わたくしのいるところでお願いいたします」


「ハイハイハイ。わかってるって!」

「凪咲さん、ハイは、一回ですよ」

「もう! オカンなんだから~」

「オカン……」


 ノアムはまたまた言われショックで言葉が出てこず、柱にもたれかかった。



 ***



 今日の夏期講習は、大山川真奈美の横にお友達はいなかった。授業が終わると凪咲は真奈美に声をかける。


「えっと、大山川さん、ちょっと話があるんだ」

「小さい頃は名前呼びだったし、真奈美でいいよ。それより凪咲さん、話って何?」

「真奈美さん、外に出てお話しようか」

「……いいよ。わたしも聞きたいことがあった」


 凪咲はノアムのいる教室の廊下に連れ出そうとした。


「――待って、先にトイレに行くね」

 真奈美が言う。

「あ、そうなんだ」

「凪咲さんもいっしょに行かない?」

「うん、行く行く」


 二人は廊下に出て、トイレに向かった。


(ん? 何か、前も同じことがあったような……そうだ、河童の時と同じだ)


 ぞくり。背筋せすじこおった。すると真奈美は突然、凪咲の腕をつかんだ。

「な、なに? うで……痛いし、ちょっとはなして」

『……いいから、こっちに来て』

「真奈美さん⁉」


 真奈美の顔を見ると、うろこのような肌、爬虫類はちゅうるいのような目で舌が二股ふたまたに別れていた。強い力でつかんで引っぱる。


へびみたいな顔、声も。いつもの真奈美さんじゃない‼)


「凪咲さん‼」


 ノアムが慌てて廊下に出て凪咲に向かって走ってくる。真奈美はそれに気がつき、鍵がかかっている非常口ひじょうぐちの扉を強引に開け凪咲を引っぱりながら外に出ると、農業用のうぎょうよう用水路ようすいろが目の前に見えた――。


(用水路……水だ! 化蛇かだ水獣妖怪すいじゅうようかいだから力が倍増ばいぞうする)


「そうは、させるかぁぁぁぁ――――!!!!」

 叫ぶ声がする。


 急いでいた真奈美はうっかり五芒星ごぼうせい✡の陣に足を踏み入れてしまった。

「……!」

 すると、見えない結界けっかいが張られ、真奈美はその場から動けなくなった。


『誰じゃ? ワシの邪魔をする奴は……』


 上を見上げると、陰陽師風おんみょうじふうコスプレを着て、腕を組む快斗がいた。

「どうかな。俺だってちょっとは役に立っただろう?」

「ありがとう。さっすが兄者あにじゃ!」

 快斗の後ろには巫女姿みこすがた神楽鈴かぐらすずを持ったみおもいた。


「凪咲様、あたしヒーローが参上したからにはもう安心よ」

 ニッコリして澪は不敵ふてきな笑みを見せた。

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