第15話 河童に嫁入り

 凪咲なぎさが河童に捕まって、しかも『嫁にする』と言い出す河童。


「このまま、いい匂いのする女の子を川に連れて帰ってボクのおよめにするんだ~」


「お嫁って、あたしらまだ小学生だよ。このロリコン変態へんたいエロ河童め‼ そうはさせないよ。やっとできた唯一の友達を失うものですか!」

 澪は言い返す。


 シャリン。シャリン。


 怒った巫女みこ姿のみお神楽鈴かぐらすずを鳴らした。音に波紋が広がり時空じくうをゆがめる。妖怪は実体じったいがあってないような不確ふたしかな存在だ。神楽鈴の音は河童にダメージを与え、河童があやつる蛇口じゃぐちの水の勢いがだんだん弱まってきた。


巫女みこ姿の女、呪術じゅじゅつができるのか、おれのよめ取りをじゃまするな」

 河童は洗い場の水道水を使って神楽鈴が鳴らないように霧のような水をかけてきた。すると澪が振っても鳴らなくなった。


「ちょっとぉ、何するの! 凪咲さんを返しなさい」

「ふん、こいつは上玉じょうだまの人間だ。返すもんか! バーカ、バーカ」


「ヤダヤダ。河童の嫁なんて絶対ヤダ。誰か助けて!」

「ヒョーヒョー。あきらめな。お前は川で幸せになるぞ。ぽりぽり」


 河童がきゅうりを食べながら、洗い場の排水溝はいすいこうから河童と共に凪咲の姿がゆがみ、消えようとした。その時――。


「シャァァ――――ッ!!!」

「いててっ!」


 突然、猫の鳴き声が聞こえ、河童は何者かに皿をたたかれたひょうしに頭の皿の水が少しこぼれてしまった。とたんに河童は力が入らなくなって、ふらふらになり、目をまわして倒れた。しばられていた水のなわも解けたが、凪咲もいっしょに床に叩きつけられそうになり、間一髪、抱きとめられた。


「????」


「間に合った……危険な目にわせてすみませんでした。凪咲さん」

 心配そうな表情ひょうじょうで凪咲の顔をのぞき込む蒼玉サファイアブルーの瞳に、金色の髪をなびかせた美しい騎士。


「ノアム。わたし……助かった?」

「はい。けがはありませんか?」

「……うん。大丈夫。それはいいんだけど、今、河童と戦ったのは誰?」


 凪咲がくるりと振り向くと、雪のような真白い猫が暗闇くらやみの中、光って浮いていた。


「ボス貓鬼びょうき霜雪そうせつさん! 助けてくれたの⁉」

「ええ――霜雪さんには、何かあった時のために待機たいきしてもらいました」

 ノアムがそう言って、凪咲を立ち上がらせた。


「ありがとう、霜雪さん!」

 凪咲が駆け寄ると霜雪は「ミャオ」と言って一度床に下りてからぴょんと飛んで肩に乗った。


「なぁに、お姫様を守るのがワシのつとめじゃにゃ」



 ***



 ボス貓鬼びょうき霜雪そうせつが見守る中、河童がもっと頑丈な妖怪専用の縄で縛られ、霊力れいりょくチャージきゅうりも没収ぼっしゅうした。


「ヒョーヒョー(訳:もう悪いことしない。縄ゆるめて~)」

「いいえ。異界に戻って処罰しょばつしてもらいます」

 ギラギラとした猫目のノアムは怖い顔をして冷たく言い放つ。


「ヒョーヒョー(訳:うえ~ん)」

「シャー!」

「そうよ。反省してください」

 凪咲や霜雪そうせつもノアムの横で文句を言った。するとトイレから女の子の方から声がした。


「ちょっと―――! うるさいなぁ! 静かにして。あーあ。廊下も水浸しだし、掃除しておいてね」

「だ、誰……?」

「誰って、わたし花子じゃん」


 凪咲はびっくりした。トイレの中から現れたのは、かわいいおかっぱ頭に花をつけた赤いワンピースの女の子。

「トイレの花子さんて実在したんですか?」

「きゃあああああああ。動画撮どうがとっていいですか?」

 澪は狂喜乱舞きょうきらんぶする。

「いいわよ。そのかわりにかわいく撮ってね」


 トイレの花子さん、撮られるのまんざらでもなさそう。きゃっきゃと女の子三人で自撮りした。花子さんは写ってはいたがボヤっとしていてホラー風味ではあった。満足してトイレに帰っていった。



「俺だけ、あやかし語がわからないのか……。なにげに凪咲さんもすごいとか?」


 まったく役に立たなかった陰陽師おんみょうじ風コスプレ姿の快斗はショックを受け、深くため息をついた。あとでノアムがやってきて快斗の肩に手をおく。


「快斗殿。わたくしは凪咲さんの騎士だったのに、思ったより河童が強くて守りきれなかった。あいつは化蛇かだからなわを解く術を授けてもらっていたそうだ。責任は自分にある」


「ノアムは騎士だったのか。しかも凪咲さんではなく、調査していたのはノアム王子の方……。いやノアム騎士。俺も協力するし、教えてほしい。力になるぞ」


「快斗殿ありがとうございます……。実はわたくし、妖怪です」

「ノアム騎士。そうか……ん? えええええー? 嘘だろう」



 ――こうして、オカルト研究部は、密偵活動の正式に仲間になって、調査を続行ぞっこうすることになった。

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