第14話 幽世からの訪問者

 ギィィィィィ……


 夜の校舎。十三階の階段を上り、あるはずのない幻の四階にたどり着いた四人。異世界とつながっていると思われる扉がゆっくり開いた。


「な、やるならこのあたしが、除霊するんだから」

助太刀すけだちすっぞ!」

 赤坂兄妹は気合が入る。


 ……ヒタ、ヒタ。ペッチョ。ベチョ、ベチョ。と、濡れたような足音がする。巫女みこ姿のみお神楽鈴かぐらすずを持ち、陰陽師おんみょうじ風の兄の快斗はお札を取り出した。


 ヒョコ。


「!」


 水をまとわせ、そのモノはキョロキョロしている。身長は一メートルくらい。手にはきゅうり、頭にはお皿がのっている。口は鳥のくちばしのようにとがって黄色。身体からだはカエルのように湿しめった緑色の肌――。


「えーっと? もしかして、河童かっぱ?」


 河童は主に日本の川や池にひそんでいる。水の妖怪だ。



 ***



 いったん、四人は河童を捕まえ三階に下りる。誰もいない教室の机と椅子を借り河童を座らせて、ノアムも座って向かい合う。明かりは懐中電灯のみ。ノアムが学校机にひじをついて両手を組み、尋問じんもんする。


「あなたは河童ですね」

「ヒョーヒョー(訳:はい。河童です)」

 

「なんか、警察の取り調べみたいだな。容疑者は河童だけどな……はは」

 快斗は苦笑いする。


「あのー。澪さんたちは、幽霊ゆうれい妖怪ようかいも見えるのね」

「そうよ、凪咲さん。なんでも視えるわ。でもあたしも初河童です。手の水かきがかわいいね。妖怪って動画どうがれるかな……」


 澪はスマホを取り出し、撮影するが残念ながらうつらなかった。


(ノアムは霊力の高い貓鬼びょうきで、人間に変化へんげしているから妖怪とは思わないのかな。赤坂兄妹には悪いけど内緒にしておこう)


「河童としょうする妖怪、どうしてこの学校に来ましたか。許可がない限り現世うつしよに侵入してはいけないはずだが? 忘れたとは言わせないぞ」

 ノアムはきびしく追及ついきゅうする。


「はて、なんのことやら。ボクはこの辺りの川に現世うつしよの河童さ。今は護岸工事ごがんこうじで異界に少しいただけだよ。ぽりぽり」

 河童はきゅうりを食べながらとぼける。


「いいや。その川は整備せいびされ河童が住めなくなったから、あやかし界に住所が移転いてんしている。午前二時九分。無許可現世侵入違反むきょかうつしよしんにゅういはんで河童を逮捕たいほします。あとで、異界の者をよこします。以上」

 ノアムが妖怪専用のなわで河童の体をぐるぐる巻きにした。


「そんな~見逃してよ~! ボクは化蛇かだにだまされたんだよ~。前々からこの学校は霊道れいどうで、扉はずっと塞いであったんだけど、いつでも出入りできるように扉を細工したよって。絶対にバレないから安心してねって言うんだよ」

「化蛇……来ていたんだな。やはりここは霊道れいどうなのか」


「あのー澪さん、霊道ってなに?」

「凪咲さん、霊道は、そのまんま霊の通り道のことよ。主に浮遊霊ふゆうれい不浄霊ふじょうれいや動物が成仏するための道かな。あとは霊道を通って遊びに来るとか、目的は定かでないの」

「なるほど」


「おいおい、いったい何の話? どうしてお前たち河童と会話が成立している? 俺には河童が『ヒョーヒョー』と言っているようにしか聞こえないんだけど。三人は河童語がわかるのか?」


「快斗殿は少し黙っていただきたい‼」

「お、おう……」

 また快斗はノアムに気圧けおされた。


「あ、安心したらちょっとおトイレ行きたくなってきた。凪咲さんも行きません?」

「そうだね。行く行く」

 澪と凪咲はトイレに向かおうと立ち上がる。河童はそれを見逃さなかった……。


 凪咲と澪は廊下に出て、トイレの前に設置された手洗い場を歩いている時、蛇口をひねっていないのに、突然水が出た――。


「うぉおおおおおおおおお!!」

 河童が急に大声を出し暴れる。先ほどのかわいい顔から一転、恐ろしい顔になった。縄を簡単にほどいて逃走をした。ベチョ。ベチョ。

「ああ! 逃げやがった!」

 快斗が走りながら叫ぶ。


 快斗が捕まえようとすると、小さいのでちょこまか逃げまわる。河童は廊下を走り、手洗い場で蛇口じゃぐちからあふれ出た水に飛び込む。そして蛇口から出る水が、縄のようになると天井まで細くなって伸び、ちょうど廊下を歩いていた凪咲をぐるぐるに縛り捕らわれてしまった。そして河童のもとに抱きかかえられた。


「きゃああああああ」

 本日、何度目かの凪咲の悲鳴がひびく。

「凪咲さん⁉ いつの間に、ちょっと! きゅうりを持ったかわいい河童を前言撤回ぜんげんてっかい。凪咲さんをどうするつもりなの? あたしは兄よりも霊力が強いから河童の言葉はわかるのよ。目的を言ってごらん」


「そこのお前からは敵のような嫌な臭いする。この女の子は人間の甘くていい匂いがするからこのまま川に連れて帰って、嫁にするんだい!」


「何ですって⁉」

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