第13話 十三段の階段

 学校の七不思議のひとつ。


 三階建ての校舎なのに、夜になると四階が出現する。階段を上がりきると異世界への扉があり、異世界に入ると戻ってこられない――という噂。


 噂が本当かどうか、四人で夜の学校へ入った。凪咲なぎさとノアム、霊感強いみおとその兄の快斗かいとが三階建ての校舎に四階に上がるための階段があることを発見した。


「わお。この感じイイ! 久々すぎてワクワクするよ。兄ちゃん、行っていい?」

「おーい。まてまて澪、落ち着けって」


 赤坂兄妹は大興奮。それもそのはず、陰陽師おんみょうじ末裔まつえいらしく、兄妹そろって霊感が強かった。


「本当にこの階段を上るの? ……怖いんだけど」


 凪咲の心臓のドキドキが止まらない。四階に上がる階段が出現した時点で脳内キャパオーバー状態。恐怖とパニックで震えが止まらなくて、ノアムにひっついて離れない。ノアムは頼られてうれしかったのか、騎士らしく「大丈夫です。わたしにすべて任せてください」と言ってギュッと抱きしめた。


「凪咲さん、騎士ナイトに守られているぅ……感涙。ノアムさん、あたしもぎゅーしてー!」

「澪。妹でありながら俺より強いだろうが。さてと、どうしようかな。ふつうは十二段の階段だけど、霊界に続く階段は十三段って聞くし、段数を確かめてみたいなー。先に行ってみる」

 快斗はにやにやと愉快そうに言うので、凪咲は心配になった。


「快斗さん、慎重に行動してください。何かあったらスグ戻ってきてね」

「凪咲さん、ありがとう。いい子だなー。こっちに来るか?  俺強いぞ」

 快斗は呼び寄せようとする。


「いいえ、凪咲さんは、こちらでお守りしますゆえ――」

 少し――いや、かなり不機嫌そうなノアム。澪は急にいたずら心が芽生え、人差し指で凪咲の肩をツンツンした。


「きゃああああ」

 普段は蜘蛛くもなどの虫に驚かない凪咲だが、今は暗闇。ないはずの四階が出現。恐怖心でいっぱいだったので、ちょっとしたことでも悲鳴をあげた。


「ごめん、あたし、あたし!」

 不覚にも懐中電灯を自分に向け顔を下から照らしてしまった澪。浮かび上がる生首に見え、顔の陰影がホラーに。怖い顔になる。

「いやああああああ!」


 半べそのまま、混乱して逃げ出そうと動き回り、はずみで凪咲の頭と澪の頭がごっつんした。さらに驚き、階段を駆け上がってしまった。


「そっちはダメ! 凪咲さん、その階段は幻の四階行きだよ」


 カツカツカツ……。


 錯乱状態で澪の声が聞こえないまま、階段を上がりきったところで、凪咲は我に返った。

「え、わたしここって⁉」

「はぁ、はぁ。やっと追いついた」

 澪が凪咲のそばに駆け寄る、続いて澪の兄とノアムも階段を上りきった。


愚妹ぐまいが凪咲さんを驚かせて本当に、申し訳ないです‼ 兄から先に謝ります。すみませんでした!!」

 快斗は凪咲に頭を深々と下げ謝った。澪はそこではじめて事の重大さに気づき、慌てて謝る。


「凪咲さん、悪ふざけしました! 本当に、本当に、ごめんなさい!」

「大丈夫だよ」


「あたし、いつもそうなの。親しい人との距離感がわからなくて急に詰めて……。場の空気悪いのに、空気読めなくって……そのうち避けられて。だから友達できないのかな……」

 澪は涙を溜め寂しそうにしゅんとなった。


「――いいよ。もう友達じゃん。そのかわり二度と驚かせないでね」

「うん……。分かった。凪咲さん、許してくれてありがとう」


 澪は『友達』という言葉に嬉しくて涙が溢れた。



 ***



「そういえばここって……」

「やっぱり階段は十三段だったな」

 未知の領域である四階に来てしまった四人。澪は懐中電灯で床や周りを照らし確認する。

「暗くてよく見えないけど、扉があるね」

「本当だ」


 噂では、異世界の扉だ……。緊張が走る。


「澪、開けてみる?」

 快斗があおる。

「だって、異世界への扉なんでしょう、噂では! さすがに開けたくないよ~」

「では、わたくしが様子を見に行きましょう」

 ノアムにとって異世界は慣れたものだった。

「ええ! じゃあ、あたしも!」


 どうしようかと四人で相談していたら、扉がギギギギギギィとゆっくり開いた。


「!!!!!!!!!!」


 緊迫の中、四人は扉を見つめた――。

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