第12話 夜の学校

 金曜日の夜。家族が寝静まる頃、凪咲と人型に変化へんげしたノアムが学校に着いた。


「こっちこっちー!」


 学校の正門前から声がする。赤坂澪あかさかみおと澪の兄の快斗かいとが手を振っていた。赤坂兄妹、なにやら和装を着ていた。


「澪さん、服が白と赤色の巫女みこさんスタイルですか? 快斗さんも似ていますね」

 凪咲は赤坂兄妹を見た。

「何かあった時におはらいできるように着てきた。ね、お兄ちゃん」


「うん、カッコいいだろ。澪は巫女みこ風、僕のは陰陽師おんみょうじ風のコスプレ衣装。二千九百八十円でネット購入したんだ」

「もしかして、除霊できるのですか」

 凪咲の目が輝く。その横にノアムが立っていた。

「もちろんだよ。あれ? ノアム王子は軍服に仮装していますね。生地が高そうだし、凝ったデザインだな。どこで買いましたか?」

 快斗がたずねる。


 人型に変化へんげしたノアムは騎士スタイルだった。金糸の刺繍がちりばめられ、肩章けんしょうのチェーンがじゃらじゃらと揺れる。飾緒しょくしょという飾りひもが右肩から胸あたりまで下がっていて、腰にはサーベルが装着されていた。


「いえ――。これはモンキャット王国の正装せいそうです」

「お、おう……」


 美しく品の良い秀麗しゅうれいな顔をしたノアムが堂々どうどうと言うので、快斗は気圧けおされた。凪咲は本当にモンキャット王国があるような気がしてきた。


「どうやって入るの」

「わたくし校長先生から許可をいただきましたので、用務員ようむいんさんに事前に鍵をお借りました」

「へえ、準備がいいな」


 もちろん、本当に校長先生に許可をもらってもいないし、用務員から借りたわけではない、ダミーの鍵だ。ノアムの神通力じんつうりきで、鍵を開けるつもりだ。赤坂兄妹はすんなり受け入れた。ノアムはすうと息を整え、目を見開き叫ぶ。


「では。学校の扉――開錠かいじょう!!!」


「開錠って、ふつうに鍵を開けるだけだよね?」

 ノアムがおおげさに入り口の扉を開けるので快斗は少し笑った。



 ***



 カツン、カツン――。校舎の入り口の靴箱を通りすぎ、渡り廊下を歩く。


「夜の学校って、静かね。足音が響いて怖いんだけど」

 凪咲がブルブル震える。

「大丈夫ですか? 何だったら僕の隣に来る?」

 陰陽師おんみょうじ風コスプレ衣装の快斗が凪咲に優しく声をかけると、妹の澪はからかう。

「やだーお兄ちゃん、やさしー。か弱い澪にも言ってぇ」

「はあ? 茶化すなよ。澪はたいていの霊を除霊できるじゃん。凪咲さんは霊見えなさそうだし、巻き込まれたら俺が守れる。なんてたって先祖は陰陽師だし。っかー血が騒ぐ!」


「凪咲さん、決してわたしのそばを離れないでください。命に代えてもお守りします」

 真剣な眼差しでノアムは凪咲の手を引っ張り引き寄せる。

「……ノアム。ありがとう。大げさじゃね?」

「きゃーノアムさん騎士ナイトみたい! かっこよくて死ぬ!」

 澪は暗闇の学校ではしゃいだ。


「学校の階段は全部で二ヶ所あって、北側の鬼門きもんの方が噂されている階段だよ」

 四人は南側の入り口から入り、澪は暗闇の中、懐中電灯かいちゅうでんとうを持ち廊下を照らす。

「へええ……。知らなかった。月曜日から北側の階段を違う目で見てしまいそう。もう利用できない」

 凪咲はため息をつく。長い渡り廊下を歩き、四人は北側の階段の前に立った。


「よし、四階があるかどうか、どれ兄ちゃんが先に見てこようか?」

「ええ! 兄ちゃんズルい。あたしも行く」

「いいえ、ここはわたくしが行きます。言い出した責任があります」

「じゃあ、みんなで行こうか。凪咲さんは大丈夫?」

「……はい」


 カツカツと、四人は一階から階段をゆっくり上がる。凪咲は怖くてノアムにしがみつく。やがて三階まで上りきると、澪はないはずのその先の暗闇を懐中電灯で照らした。


「……へえー。なんか匂うね。兄ちゃん」

「ああそうだな。霊の匂いがぷんぷんする」


 ……凪咲はぞわりと鳥肌が立った。


「四階に上がる階段がある……」

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