第16話 誰が操られているか

 河童があやかし世界の幽世かくりよに強制連行され、引き続き小学校で調査を継続する。


 おだやかな日常に戻るかと思いきや、そうでもなくて――。


結川ゆいかわさんはもしかしてノアム王子と付き合っているの? キィーッ」

「みんなの王子様だからぬけがけ禁止だからね?」

「キラ星からやってきた王子様を世に広めたいからかつする!」

「よくぞこの王子様を生んでくれてありがとう! モンキャット王国バンザイ!」


 今日もきゃっきゃと華やか一軍女子が凪咲なぎさの机に集まり、暴走ぎみの妄想が湧き水のごとく溢れています。そこへ光莉ひかりがやってきて追い払った。


「大変だね。今まで幼稚で下ネタしか言わないヘボ男子ばかりだったのに、急に悪魔的な王子がやってくると女子を狂わせる、まったく罪な留学生だよ」

「うん。こんなはずじゃなかった」


(ノアムは猫なんだけどね。一番近い存在として、わたしまで目立ってこれじゃ調査できないなー)


 隣の席のノアムに不満をこぼす。

「どうして見目麗みめうるわしい姿に変化へんげしたの? もっとさぁモブっぽい、注目されない地味系に変化へんげできるんじゃない」

「逆にどのような容姿のことですか? 凪咲さんの外見至上主義ルッキズムの考え方は変えた方がいいですよ。人型になったところで変更はできません。ぬえというあやかしは人を食らって体を乗っ取ることもできますが……」


「怖っ。わたしは別に顔がすべてって思っていないしー。もはやノアムはオカン的存在で……。ちなみに、むかしはどんな顔だったの?」


「は……オカン⁉」


 最近覚えた「オカン」。関西系方言かんさいけいほうげんで「お母さん」のことだ。関西けんに住んでいなくてもふざけた言い方をしたい時に使う「オカン」。


 凪咲の言葉にノアムは顔をゆがませたが、深い溜め息をついてから、妖国から支給されたスマホで画像を見せてきた。そこに写っていたのは幼い顔の美少年ノアム。


「え……。かわいいじゃん」

「お褒めのお言葉ありがとうございます」

「えーと、なんの話をしていたんだっけ?」



 ***



 翌日、凪咲と澪は公園で待ち合わせをした。凪咲は自販機でジュースを買ってベンチに座る。澪がノートを取り出し話し始めた。


「凪咲さんが活動できないと思って、調べてきましたよ。あたしが学校内で急に凪咲さんに話しかけると注目されて活動できないと困るので、今のところ内緒です。あたしと凪咲っちは、ただならぬ関係、秘密の友達です♡」

「凪咲っち。ただならぬ関係ってなに?」


「忘れてください冗談です……。それより、凪咲っちなんて、また急に詰めて呼び方が馴れ馴れしいですか?」

「ううん。ではこちらも、馴れ馴れしい呼び方で。ミオミオ」

「ミオミオ……。あだ名で呼ばれるなんて初めて!……くっ最高か」


 そう言って右手の拳をあげ、うれし涙を流す。いちいち反応がアツい澪。


「土曜日、あとで兄から聞きましたよ。ノアムさんがあやかし属性ぞくせいだったってこと……。霊力高くて気がつきませんでした。あたしもまだまだ修業が足りないですね。じゃあ、調べていたのはノアムさんの方だったのですね」


属性ぞくせい……。うん、そうとらえればいいのか。そういうことです。これからも協力していただけますか?」

「もちろん! むしろ大好物案件です」

 澪は満面の笑みでメガネを左手で押し上げてからノートを読み上げた。


「――調べましたよ。まず、この小学校は今年で創立そうりつ百五十年。大山川家の親族が設立した学校なんだって」

「へえー。だから中学受験を勧めたりして、教育熱心なんだ」


「それでね、ここに学校が建つ前は、三百年前に戦地にもなっていたので、塹壕ざんごうの穴、防空壕ぼうくうごうや脱出する道あって、それで霊道れいどうが作りやすかったのかも」

「うん、うん。それで」


「でー。たしかボス貓鬼びょうき霜雪そうせつさんの話では化蛇かだが『権力を持った者に隙があるから、利用するんだ』って言っていたんだよね? 可能性として高いのは――校長先生だね」

「ええ! どうして⁉」

「だって、この学校で権限もっているよ。偉い人だし」

「そんな決めつけで大丈夫かな?」

 凪咲は不安になる。


「だから調査するの……。だって校長先生はちょうど大山川校長先生だから、親族なんだよ」

「ふむ」


「そういえば大山川の苗字の同級生いたよね。まずはそこから聞いてみるのはどう?」

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