第6話 ボス貓鬼の霜雪(そうせつ)
密偵活動一日目。
真夜中に家をコッソリ出る
暗闇をぞろぞろと
「
「そうなのね、よかった。二股しっぽの二足歩行の猫さんがいっぱい。カワイイね。ところで百鬼夜行って、ぞろぞろ歩いて、なんでお散歩しているの?」
「シー。お静かに、
深くため息をつくノアム。
「風上って。ノアム、あやかしの立ち位置がわからないです。妖怪って武士精神⁉」
「……騎士です」
「ところでわたしがどうやってスパイ活動するの?」
「早速ですが、貓鬼のボスに気に入られてください」
「はぁあああ? わたし人間だってば! もちろん妖怪だろうとモフモフで猫フォルムに気に入られたいけども! けども!」
「大丈夫です。一度、あやかし世界に入ると匂いがついて貓鬼とお話ができるのです。気に入られるためのアイテムを買っておきました。これをどうぞ」
ノアムが凪咲に渡したものは
「百均の猫じゃらし。あのさぁ……。あやかしであって、猫じゃないっていってなかったっけ?」
「お恥ずかしながら、やはり元・猫なのでこういうものに弱いのです」
少し照れるノアム。
「――ね。一度ノアムで試していい?」
おもむろに猫じゃらしを左右にくるくる振ると、反射的に目を輝かせ猫っぽい仕草をするノアム。凪咲が猫じゃらしを高く上げると、ノアムは先端をつかもうとジャンプしてボールをキャッチした。ふんふんと鼻息が荒い。
ノアムは我に返った。猫本能に戻ったのがよほど恥ずかしかったのか凪咲をジトッとした目で睨む。
「凪咲さん……!」
「あーはは。ごめん、ごめん。でもこれで
「確かに――。機会を伺って、ボスに会いましょう」
「ボスってどの猫?」
「ほら、白くて長い毛で目は
「キレイ! 白くてフワフワだー。でも、ちょっとおっかない感じね」
凪咲は美しい貓鬼に釘付けだ。
***
密偵活動二日目。
満月の夜だったので、月の光を浴び霊力がいつもより増して興奮した
「こんばんは! そこの猫さんたち。 わたしと仲良くなりませんか」
さわやかな笑顔で手を振る
「なんと! ワシらがみえるのか⁉」
「あやしい奴だにゃご」
「本当に見えるにゃご」
目を光らせ爪を立て
「凪咲さん、ひるまないでください。手前の貓鬼たちは
それを聞いて、再び笑顔になる。
「ええ。見えますよ。前々から仲良くしたいと思っていました。できるなら一緒に遊びたいです」
そう言って、一歩一歩ゆっくり前へ、白いボス貓鬼の前に出て猫じゃらしを見せる。するとモブ貓鬼たちは、
「ふっざけるな! にゃごにゃご」
「自慢の
「めちゃ痛い目みるぞ! にゃごにゃご」
たくさんの猫妖怪は凪咲にじりじり間を詰め、おそいかかろうとするので、ノアムがかばって凪咲の前に出た。
「なんだ妖騎士か、そこをどくにゃご」
剣を抜く一歩手前、
「待て! お前らはさがれ―――っ!!!」
低い声でいさめるものがいた――ボスの貓鬼だ。雪のように真っ白な毛並で左の片目はななめに傷があった。
「おおっ……! 猫じゃらしか、久しく遊んでいなかったな。なつかしい――。ワシはむかし、飼い主である貴族の娘にエノコログサで遊んでもらったな……」
ボス貓鬼は
「そうなんですか!」
「だが、娘が嫁に行くとワシや仲間は捕らえられ殺されて
「蠱毒ってなに?」
「人を
「そんな」
凪咲は顔をしかめる。
「なあに愚かな人間どものすること。
何百年も、ずっと……毒として人間に利用されたことをうらんだままさまよっている……。
「人間のせいで……。猫になんてことを。ひどい話……。そんなの動物虐待よ。わたしなら猫を絶対可愛がるのに! わたし、妖怪になっても猫としてあなたと友達になりたい」
凪咲の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ止まらなかった。こぼれた涙は甘い香りがして、貓鬼たちの心は不思議におちついた……。
「やさしいのう――。涙を流してくれるとは。まるであの娘の生まれ変わりのようだ……。ワシの名は
青白く光る雪のような美しい毛並みの
「わたしは凪咲。仲良くしてね」
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