第7話 凪咲、中学受験に申し込む

 貓鬼びょうきの中のボス、霜雪そうせつと仲良くなってから数日経った。


 学校では、放課後、中学受験組の子は先生から説明を受けていた。保護者にわたす書類をもらったが、気の進まない中学受験に凪咲なぎさは気だるそうに帰る途中、階段の踊り場で友達に呼び止められた。


「なぎさー! ちょっとだけこっち来て」

「おー光莉ひかりどうした……わわっー!」


 光莉ひかりはぐいっと凪咲の腕をつかみ、廊下のすみに強引にひっぱり込んだ。勢いで壁にぶつかりそうになりながらも壁に手をつき回避できた。


「あっぶなっ。ちょっと腕痛いよ。なーに?」

「凪咲、本当に、ほんとーにマジで受験するの?」

「うん、気が乗らないけど受けるつもりだよ。でも……私立に行くほど裕福じゃないっていうか、お金が心配になるレベル」

「ええー⁉ もうさー無理して行く必要なくね? お金があり余っているなら別だけどさー。見栄? 見栄なのかアイツら」


「本当ね、特に女子は無理してでも行った方がいいんだとか説得されて、大山川家メソッド? よくわかんないけど聞かされて、言い返しても聞く耳もってくれないから、反論するのも面倒くさいしで……都会じゃあるまいし、私立に行く理由が分からないよぅ」


「それはねー! ズバリ集団心理だよ。五人位でママランチやカフェに行くと強い人の意見が正義で一人違う意見を言うと異端扱いされるじゃん……て、ママがママ友に愚痴っていたのを聞いた」

「もう。また盗み聞きしているの? それ地獄耳じごくみみだっけ、詳しいよね光莉。うーん。そうなんだよ。前までお母さんって、わたしの将来を深く考えていなかったと思うけど、みんなに話合わせたのかな……なんでそんなことするんだろうね……」

 凪咲は困った顔をした。


「それはねー。ズバリ大山川一派から抜けたら、凪咲の立場が悪く言われないように、なのかもよ~」

「ええー。大人同士の付き合いムズ。これだから大人は……」


「でさー凪咲は、将来なりたい夢ってある?」

「夢? 夢か……なんだろう? 安定した収入の職業かな。忙しくない仕事、あと公務員こうむいんは親喜びそう」

「はあ、そんなもんだよー。あたしは小さい頃はアイドルだったー。けど、今は目立つの好きじゃない」

「逆に小学生で明確めいかくな夢なんてあるの?」


「ナイナイ」

「うんうん」


 二人は目を合わせ笑った。



 ***



 家に帰ると、ノアム猫騎士が来ていて、凪咲の部屋のウォークインクローゼットの中にお茶を飲むスペースを作りすっかりくつろいでいた。凪咲の母親は日中パートで留守ではあるが、念のため隠れている。


「聞いてよぅーノアム」

 今日の出来事を話した。


「にゃふぅ……。人間関係は大変ですね。わたくしはこれからも妖騎士として出世しゅっせして活躍したいです。とはいえ、あやかしの住む世界はもっとすごい争いですよ」

「どんな感じ」


「足の引っ張り合いでしょうか。昇進しょうしんした者を池に落としたり、散歩道にとげとげした枝をまいたり、あとはかつおぶしに唐辛子とうがらしを混ぜたり……」

「あーはは。本当に足を引っってる。猫の方が分かりやすいあらそいしてる~」


「猫じゃありません、あやかしです。最終的に強いモノがあやかし世界を制するので弱肉強食じゃくにくきょうしょく、あまりいい世界ではありません。しかし幽世かくりよにも一応法律ほうりつがありますので、秩序ちつじょは保たれております」

「じゃあ、その気になれば、あやかしたちが人間界にきたら、世界征服せかいせいふくできそうね」


「そうです。脱獄だつごくした妖怪の化蛇かだは、凪咲さんのいる現世うつしよに来て世界征服しようとした容疑ようぎです。話を聞く前に逃げられました。しかしながら霊力あるとはいえ、あやかし世界では使える神通力じんつうりき現世ここでは半分以下の力しか出ないです」

「そうなのね」


「ああ、今日来たのは、報告です。またボス貓鬼の霜雪そうせつさまに会いに行きましょう」

「ホント⁉ うれしい!」

 凪咲が吹きこぼれるような笑顔を見せると、ノアム妖騎士はなぜか面白くない気分になった。

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