第8話 陰キャ俺、襲う。

結局、俺は謹慎を命じられてから仕事に復帰できず、辞令が出ていないだけで実質は懲戒解雇のような状態だった。


絶望的だ。

あの時、もっと強く彼女を断わっていれば。


今の仕事以外に食い扶持を稼ぐ手段は持っていない。


まさか採用する立場の自分が、就職活動を強いられることになろうとは、思ってもいなかった。



「いや、正直貯金もそんなにある訳じゃないし。さっさと次の職を見つけないと、食うのもままならないぞ」



俺は暗い部屋で1人、憂鬱な気分で通帳の残高を眺める。


そういえば昨日の晩飯で冷蔵庫の食材が全てなくなったんだった。そろそろ買いに行かなくては。


財布を出す行為が億劫だな。


俺は重い腰を上げながら、トボトボと玄関へ向かった。


まるで整えていない身だしなみに、薄汚れたスウェットを着て部屋を出る。



マンションの階段を降りた俺は、俺はいきなり何者かに肩を叩かれた。



俯いていた顔を上げると、そこにはニヤァッと嬉しそうに表情を崩した芽瑠が待ち伏せしていたのだ。



「お兄さんのお家、調べちゃった♡」


「……テメェは……!あん時のメスガキ……」



沸々と込み上げる怒り。俺に降りかかる全ての理不尽を、この生意気なメスガキに全力でぶつけてやりたくなった。


俺の顔を覗き込んでくるメスガキ。


この顔、実に腹が立つ。


俺はフリル付きの服の襟首を掴んで首を締め上げ、思い切り捻って恫喝する。



「お前のせいだ!全部!俺がこうなったのも!全部お前が悪いんだ!」


「……こういう強引なプレイが好きなの?芽瑠も無理やりされるの好き♡」



彼女の表情は完全にトロけていて、快楽にトリップしていた。


なにコイツだけ気持ちよくなっているんだ!


許せない。許せない許せない!



「来いよ!!!」



俺は自分でも驚くくらい乱暴に彼女を引き摺り回し、降りて来た階段を駆け上がっていく。


人間、ましてや歳下の女の子に対する扱いとはとても思えない。


だが、コイツに限ってはもうどうなってもいい。

だって全部コイツが悪いんだから。そうだろ?


ロクに掃除もできていない汚部屋に連れ込んだ俺は、モノを投げ捨てるように布団の上へ彼女を放った。


子犬のような悲鳴をあげてはいるが、脚を開いては、どこか恍惚とした表情で俺を挑発する。



わざと俺に下着が見えるようにしているのか!

全くどこまでもイヤらしい女だ!けしからん!



股の間から覗いた桃色が、俺の下半身を刺激する。


体温が上がって、雄の本能が湧き上がってくるのを実感する。あぁ、イライラするぜ。


俺は欲望の赴くまま彼女の華奢な身体の上にのしかかり、両手を押さえつける。


この痴女は抵抗する素振りすら見せない。

それどころか、舌をベッと出して俺を揶揄う始末。



童貞であることがバレてるっていうのか?


生意気だ!童貞でもお前を鳴かせることくらい朝飯前なんだよ!今に見ていろ!



俺は可愛らしい彼女の洋服を掴み、千切り破るような勢いでひん剥いてやった。

骨ばった、彼女の細くて白い肌が露わになる。


俺は彼女の着ていた衣服を適当に放り投げて捨てると、下着姿になった半裸をジロジロと視線で舐め回した。



「ヤるぞ……いいんだな?」


「早く入れなよ♡いつまでビビってるの?意気地なしのざこざこ童貞お兄さん♡」


「こッ……こんのメスガキがァッ!」



絶対に分からせてやる!

この生意気なメスガキを支配して、俺専用の肉×××に調教してやるんだ!

ぐちゃぐちゃにして、2度と生意気なクチを利けないようにしてやる!



俺はこの身から溢れんばかりの劣情を、跨っている幼い女体にぶつけた。



さあ後は挿入るだけだ!目の前の凱旋門を潜ればいい。それだけなのに……!



——俺のマグナムは、あろうことか直前で暴発してしまった。


んあぁ……っと、どうしようもなく情けない声が無意識に漏れる。



俺は頭の中が真っ白になって、その場から動けなくなった。


まさか下着を脱ぐ前に撃ち切ってしまうことになるとは思ってもみなかった。



局部に湿った不快感を覚える。最悪だ。



いくら客観的に見て興奮する状態だったとしても、出してすぐにはそういう気分になれないのが男ってものだ。


女の身体を押さえつけて局部を擦りつけているこの状況、本来なら間違いなくリトル陰井がエッフェル塔陰井になっていたことだろう。


見方によっては、ピサの斜塔かもしれない。



だが、この頃になると俺は頭を冷やして酷く冷静に状況を分析していた。



既に出しているのがバレでもしたら、これまで優位に立ってきた俺の立場がない。



童貞いじりで立場逆転、それだけは避けたい。



——いや、そもそもコイツとヤるべきなのか?



なんで俺がこんな××××に神聖な初めてを捧げる必要がある?


てか腹減ってきたな。なに食おうかな。

インドカレーとかいいかもな。


完全に俺は賢者だった。間違いなく。

この瞬間、一寸の煩悩もないと言っていい。



どうすれば日本国民の貧富の差は是正されるのか。

どうすれば環境問題は解決するのか。


俺は今、そういう生産性のある議論をしたいんだ!



なかなか煮え切らない俺の態度に痺れを切らしたのか、芽瑠はいつもの小悪魔な笑顔で迫ってくる。



「なにモタモタしてるの。勃たないんだったら、芽瑠が元気にしてあげよっか?」



は?この女はなにを言っているんだろう?



俺はさっきから、この裸体の女が汚物にしか映らなくなっていた。


はしたなくて下品で、この女はこうして誰にでも股を開くのだろう。



嗚呼……俺はなんて愚かだったんだ。



欲望に負けたばかりに、こんな女で捨てようとしていたなんて。



俺はスンッと真顔に戻ると、咥えようと近づいた女の顔を鷲掴みにした。


そしてそのまま布団に抑えつけると、俺は何食わぬ顔で彼女から離れた。



「まっ!待って!捨てないでお兄さん!芽瑠のこと、捨てないで!」


「……気持ち悪いんだよお前。顔も見たくねえ。早く出てけよ」


「そんな……ひどい」



一瞬で突き放されたことが相当堪えたのか、彼女は服も着ることすら後回しにして背後から俺に抱き着こうとしてきた。


だが、俺にはもうその密着した時の体温の生温かささえ鬱陶しく感じる。


無理やり手を振りほどき、半泣きになった横っ面を引っ叩いてやった。



「分かったら早く着替えて出ていけよ!邪魔だからさ」


「うっ……うっ。ごめんなさい……ごめんなさい……」



女は悲壮感を漂わせながら、縮こまって服を床に散乱した服を着始める。



罪悪感?なぜ俺がそんなものを感じる必要があるんだ?だってアイツは不埒で淫乱な女だぜ?

コレくらいの扱いは、されて当然だと思わないか?



半ば強引に彼女を部屋から追い出すと、俺はすぐに鍵を閉めた。



もうこれであの女に会うこともないだろう。

流石にここまでの仕打ちを受けては、俺に好意を寄せることもあるまい。



それから俺は布団の上に寝転がり、今後の身の振り方について考える。


そして天井を見つめて15分ほどしてから、俺の中に後悔が芽生えた。


「あぁ……。どうせ会わないなら、やっぱりあの時に無理やりにでもヤっておけばよかった。チクショウ、勿体ないことしたな」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る