第4話 陰キャ俺、美人先輩と再会する。

白ギャルとの出会いに始まり、嵐のような1日を終えた俺は帰ってすぐにスーツのまま眠り込んでしまった。


次に目が覚めた頃には外が明るく、日差しが眩しい。鳥も愉快に鳴いている。


社畜ともあろう俺が、珍しく1日挟んで今日もまた休みだ。特になんの予定があるわけでもないが。


時計を確認すると朝の7時40分。目覚ましをかけていないにもかかわらずこの時間に起きるのは、身体が仕事に染まっている証拠だと思うとゾッとした。


まぶたを擦りながら、俺はプロ野球の結果を確認する。


なぜか。

白ギャルと交流を深めた。

連絡先までゲットしてしまった。

人生で今後またとないビッグイベントだ。

これは俺の人生が良い方に向かうに違いない!

そう思って、俺は昨日の帰り道に宝くじを買って帰ってきたのだ。


購入したスポーツくじは、プロ野球の6試合の結果をピタリと的中させればいいものだ。


まずは1試合目。

『日本ベーコンズ』対『東武リカオンズ』。

日本ベーコンズが勝っていれば、最初の関門はクリアだ。俺は恐る恐る結果を確認する。


「なっ……!? 12対3!?」


結果はリカオンズの圧勝。

勢いのある猛獣打線に捕まり、6回に4者連続ホームラン。一挙6得点で一気に突き放し、ベーコンズナインの心を完全にへし折った。

そして、俺の夢も潰えた。


「まぁ、何事も上手くいくってことはないか。……しかし休みの日ってすることないんだよな」


俺はおもむろにスマホを取った。

すると、通知が溜まっていることに気づく。

全て白浜玲奈からの連絡だ。


『うどん美味しかった〜!ありがと!』

『なんで無視するの?ねぇ!』

『なに?ブロック?う〜わ。こんなことならあの時やっぱり襲っちゃえばよかった。ウチ無しじゃ生きられない身体にしてあげたのに!』

……etc。


俺が寝ている間に怒涛の連絡の応酬。

時間が経過するごとに相当機嫌を損ねていることが見て取れる。


俺は正直に、疲れて寝ていたことを白状し、許しを乞うことにした。

すると意外にもすぐに連絡が返ってくる。昨日もそうだが、彼女は相当な早起きだ。社会人なのか?聞くのを忘れた。


『本当に寝てたの〜?怪しいなぁ』

『本当だ!連絡返さなかったのは悪いと思ってる』

『じゃあウチとデートしてくれたら許してあげる♡今日はウチが無理だから、来週とか』

『分かった。来週なら……』


トントン拍子で俺は白浜玲奈とデートをすることになった。今日は彼女の方が友達と出かける予定があるらしく、撮れたてキメキメの自撮りが送られてきた。写真写りも抜群に可愛い。最強だ。


だが俺的には生で見た方がもっと綺麗に見える。


結局、今日の俺の予定は決まらないまま。


ゲームでもしようかとパソコンを起動した時、俺は忘れていたことを思い出した。


——そういえば、マウスのホイールが故障したんだった。


俺は趣味でPC ゲームをよくプレイしている。といっても、休日の持て余した暇をつぶす為に独り惰性でやっているに過ぎない。


長年愛用していたゲーミングマウスのホイールが止まらなくなり、一生回り続けている。コンマ1秒が勝敗を決するFPS だと、致命的な故障だ。



そんなこんなで、俺は地域一番の規模を誇る大型の家電量販店にきた。

ターミナルとなる駅と直結しており、地下2階から4階までを贅沢に使う。

最近、ようやくEスポーツが世間に認められ始めて、ここの家電量販店でも大々的にゲーム用デバイスのコーナーを作るようになった。


(おっ、このマウス無線で発売されたのか。さて、どれにしようかな)


誰も見ていないのをいいことに、俺はお試し用のマウスを次々と手にとってはニチャニチャと不敵な笑みを浮かべていた。


俺が黙々とマウスの選定に勤しんでいた頃、背後から俺に声をかけてきた人物がいた。


「あれ?もしかして君、陰井くんじゃない?」


声をかけてきた女性を、俺は知っていた。

深緑色のロンT、そしてベージュのワイドパンツ。少しハスキー気味の声もさることながら、服装もカッコイイ系のこの女性。


なにを隠そう、俺が高校時代に働いていた定食屋のバイトの先輩だ。そして、俺が高校時代に片想いをし続けた相手でもある。


地元を出たのは聞いていたが、まさか俺と同じ街に住んでいるとは思わなかった。


「赤羽先輩……どうしてここに」


「どうしてって、言われてもねぇ。私も就職でこっちに来てるから」


「そ、そうだったんですね。先輩もゲームを?」


「う~ん。最近はもうほとんど見る専だけどね」



赤羽 茜。彼女のことを俺の貧しい語彙で表すとするならば、ショートボブが似合うスタイルの抜群の綺麗系お姉さんだ。


俺がかつて通っていた高校のひとつ上の先輩で、学園のアイドル的存在だった。


入学当初から俺はハートを撃ち抜かれ、密かに先輩と同じバイト先に応募した。今思うと、当時の俺はかなり活動的だったと感心する。

勿論、俺の片想いは実ることなく儚く散ったわけだが。


「そういえば陰井君は彼女とかできた?」


「いや……その……できてないです」


「ええ~!?じゃあ高校生の頃から彼女できてないってこと?勿体ないなぁ、陰井くん顔はカッコいいのに~」


「いや俺は全然……。そういえば先輩はあの彼氏さんとまだ続いてるんですか?あの生徒会長の」



先輩は当時、彼氏がいた。

サッカー部のエースで、それでいて生徒会長。文武両道に顔まで良いときた。オマケに性格も良く、こちらも学園のアイドル的存在。まるで2人が付き合うのが前世から決まっていたかのように、お似合いだと評判のカップルで有名だった。


もしかすると、もう結婚とかしていたりして。


ドラマの主人公のようにキラキラとした学園生活を送っていた彼らを、激モブの俺はエキストラとして見守っていたのを思い出す。


ただ、先輩から返ってきたのは予想外の返答だった。


「生徒会長……あ~アイツか。もうとっくに別れたよ」


「えぇ!?あんなに仲睦まじく尊い存在だったのに!」


「ま、所詮は高校生同士の恋愛だからね。私もこの人と結婚するんだろうなぁ、なんて考えていたけど、浮気されてたのがバレて一気に冷めちゃった」


「……浮気。そうですか」


こんな絶世の美女でも浮気されることがあるのか、と俺は驚いた。

俺が先輩と付き合った暁には、他の女性なんて見向きもしない自信があるのに……。


「次は陰井君みたいな一途そうな人と付き合うって決めてるの。遊び人はもう懲り懲りね。実は私、昔から陰井君のことカッコいいって思ってたんだけどなぁ」


「そんな、先輩に褒めてもらえるなんて嬉しいです」


「ねぇ?この後、時間ある?せっかくだしさ、カフェとかで話そうよ」


こうして俺は7年越しくらいに、念願の女性とカフェデートをすることになった。




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