第19話 幸福

絡め合いを終えた僕達は布団の中で見つめ合っていた。

「阿部さん、下の名前で呼んでもいい?」

「勿論いいよ、僕も下の名前で呼ぶよ。」

「ウフフ。お腹空いたよね?朝マフィン食べに行かない?」

「そうだね、ゆっくり食べよう。」

 朝マフィンに向かう為に、全裸の僕達は着替えを済ませて新居を出た。

 上石神井時代から朝マフィンは度々食べてきた。

 いつもは一人で黙々と食べていたが、二人で食べるのは余計に美味しく感じる。

 ゆっくりと食べ終えると、僕達は再び新居に戻った。

「今日これからどうしようか?」

「今日は家電とか色々買おうと思っていたんだよね。」

「じゃあ一緒に選んであげる!一緒に行こ!」

 僕達は家電量販店の開店時間までまったりとして時間を潰した後、新居を出て秋葉原まで向かった。

 お目当ての店に到着した僕達はまだ用意出来ていなかったテレビ、掃除機を購入した。

 美香のセンスが入ったから見た目がやや可愛らしくて僕に似合うか疑問だったが、幸せだから良しとしよう。

「良いの買えたわー、付いてきてくれてありがとね。」

「全然良いよ。そう言えば、食器もまだ無いよね?ついでに買いに行こうよ!」

 確かにそうだった。外食に行くことが多かったから食器が必要なことを忘れていた。

 美香が近くの雑貨屋に連れて行ってくれた。

 可愛らしいデザインの食器が並んでいたが、僕に合うのだろうか。

「これなんか可愛いでしょー。あっこれも可愛いー。」

「僕にこれ合うかなあ。」

「全然合うよ!じゃあこれペアで買お!」

「ペア?」

「えっだってまたちょくちょく翔太の家行くし、あった方が便利じゃん?」

「確かにそれなら此処の方がオシャレだからいいか。」

「そうそう。あっこれも可愛いー」

 美香はノリノリで次々に食器も選び、お陰で一通りの食器が揃った。

 買い物を終え大満足で新居に帰る頃には夕方になっていた。

 晩御飯は私が作るね、と美香は直ぐに新居を飛び出し、食材の買い出しに向かった。

 僕はその間購入した食器類を片付けることにした。

 片付いた頃には美香が帰宅し、早速調理に取り掛かった。

 肉じゃがを作ってくれるらしい。

 調理の間、僕はリビングでゴロゴロしていた。

 急展開ではあるが、幸せを感じていた。

 暫くして肉じゃがが完成したので早速盛り付けてもらい、箸を付けた。

 味付けはほんのり甘口で、飽きが来ない。美味い。美味い。

 僕は夢中で肉じゃがとご飯を掻きこんだ。

「ガツガツ食べてくれるの嬉しい。おかわりあるよ。」

 僕は迷わずおかわりを頼むと、変わらぬペースで食べ続けた。

 あっという間に肉じゃがが空になった。

 僕達が夕飯を食べ終えた後、美香が僕に相談を持ち掛けてきた。

「翔太くんと付き合うことになったし、キャバクラはもう辞めようかと思ってる。」

「そっか。次のアテはあるの?」

「うん。昔お店で一緒だった子が経営しているアパレル関係の会社があるんだけど、そこに入れてもらえる約束は取付けてる。」

「アテがあるなら全然辞めていいと思うよ。ずっと出来る仕事じゃ無い気もするし。」

「やっぱりそうだよね、分かった、今日の出勤の時に言うね。」

 美香は安堵の表情を浮かべると、帰りの身支度を始めた。

「そう言えばあおいさんとはお店で会うの?」

「ううん。最近は顔を出してない。辞めたかは分からないけれど、顔は出しにくいと思うな。」

「そりゃそうか。ごめん変なこと聞いて。」

「いいよ全然。また何かあったら教えてね。」

 美香はやや小走りで出て行った。

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