第17話 希望

翌日、三人は旧宅に集合し、リビングの欠片を約半日かけて除去した。

 帰りに近くのラーメン屋に立ち寄り、雑談に花を咲かせた。

 心配事が無くなったこともあり、心の充足感が満たされるのが分かった。

 ラーメンを食べた後は美香と解散し、原口と共に電車に乗った。

 中井で降りた二人は始めに紳士用品店に向かった。あおいに破られたスーツを新調するためである。

 店内で三〜四着程購入した。

 それなりの出費にはなったが、必需品だから仕方ない。

 購入後、コンビニで下着類を補充してから原口宅へ再度向かった。

 原口宅は旧宅と然程変わらないくらいのグレードだった。

 室内に入り、居候させてもらう部屋に案内してもらった。

 荷物を置き、暫くゴロゴロしているうちに眠ってしまった。

 次に目が覚めた頃には室内はすっかり真っ暗になっていた。

 部屋の扉の隙間からは電気の光が見える。

 僕は寝ぼけ眼を擦りながらリビングに向かった。

 室内ではソファに寝転びながら映画を鑑賞している原口がいた。

「おう、阿部ちゃん起きたか。そろそろ夕飯食いに行くから起こそうと思っていた。」

「そうだったんだ、何食べようか?」

「近くに安い焼肉屋があるからそこに行こう。」

 話し合いはあっさりついたので、身支度を済ませて家を出た。

 近くの焼肉屋に着いた僕達は早速ビールを頼み乾杯した。

「色々あったけど解決して良かったじゃん。」

「うん、授業料は高くついたけど。」

「ハハハ、そうだな。あ、まだ誰にも言ってないんだけど、俺来月から転勤になるみたい?」

「マジか。どこに行くの?」

「えっとね、大阪。社宅は江坂ってとこらしい。また大阪来たら遊びに来てよ。」

「それは勿論行くよ。しかし本当に急だね。」

「まあ、将来的にはそうなると思ってた。行きたい部署の仕事は向こうの方が充実してるから。」

「そっか、じゃあ忙しい時期にあんなこと巻き込んじゃったな。」

「それは気にしないで。お前の頼みだから聞いただけだから。」

「ありがとな。」

 それからも色々な話で盛り上がった。

 会計を終え、ワイワイ言いながら出た僕達は僕の引越しお祝いの名目で吉原に向かった。

 吉原でサービスを受け終えた頃には、酔いも手伝ったか、原口が熟睡していた。

 僕は肩を貸しながら近くのタクシーに乗り込み、帰宅した。

 原口を引き摺りながらなんとかリビングまで運び終えると、僕も何だか眠くなってきた。

 僕も寝る為に携帯をいじっていると、メッセージを受信していることに気が付いた。美香からだった。

「阿部さん、お疲れ様でした。あおいさんは引き続き私が監視しとくので安心して下さい!」

「話は変わりますけど、今晩二人でご飯行きませんか?」

 しまった、誘われていたか。気付かなかった。流石にもう寝てるよね。

 「昨日はお疲れ様でした!助かりました!

 メッセージ気付かずごめんなさい。また予定が合ったタイミングでまた行きましょう!」

 一分もしない間隔で返信が来た。

「いえいえー。今タカ兄の家ですよね?私近いですけど…タカ兄起きてます?」

「いや、もう泥酔して寝てますよ。」

「そうですか…今から私の家来ます?」

 下腹部に血流が流れるのが感じられた。

 この時間に家に招くということは絶対に誘ってる。

 正直行きたいが生憎スッキリしてきたばかりだ。

 仮にいい雰囲気になっても体力が持たぬ。

 それに今から抜けたら原口にどう説明するのか。

 断腸の思いだが今日は止めておこう。

「嬉しいですけど、今からは難しいですかね。もう寝ますし。」

「そうですか。いつなら大丈夫そうですか?」

 やけに積極的だな。

 完全にロックオンされたようだ。悪い気はしない。

「そうだねー、また行けそうな日があったら此方から連絡する形でもいい?」

「了解でーす、お休みなさい!」

 思いがけず新しい恋が出来そうだ。

 元々好みだったのは美香の方だし、いざ付き合えそうとなるなら断る理由などない。

 ただ一つネックなのは原口の従姉妹であることだ。

 結婚まで行ったとしたら、原口は兄貴分となる。

 何となく気恥ずかしい感じがする。

 余計な葛藤を繰り返すうちに眠りに落ちた。

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