第15話 破壊
店を出て、僕達は覚悟を決めて旧宅の方へ歩き始めた。
一人じゃない分若干気持ちは楽だが、やはり不安は拭えない。
居るのか居ないのか。居たらどうなるのか。予想のつかない未来を妄想しては体が震えていた。
気乗りがしないからかどうかは分からないが、あっという間に旧宅に到着した。
僕の鍵でオートロックを解除し、自室前の扉に到着した。
原口は扉を開けようとした。やはり鍵は掛かっていなかった。
恐る恐る室内に侵入する。
物音はしない。電気も付いていない。
暗闇で朧げながらも、原口が此方を向いて頷きかけてきたのが分かった。
僕達は言葉を交わさずともその意味を理解していた。
原口は室内灯のボタンに手を伸ばした。
明るくなった室内にゆっくりと侵入して行くと、僕達は絶句した。
リビングからフローリングが消滅していたからだ。
フローリングがあった筈の場所は見覚えのある無数の欠片達により占拠されていた。
暫くの無音状態の後、意を決したように原口は室内の収納、寝室を順に確認していった。
「取り敢えず例の女は居ないようだな。新居に持って行けそうな物は冷蔵庫、ベッドフレームくらいか。殆ど買い換えだなこりゃ。」
原口は苦笑いしながら僕の肩に手を置いた。
美香の方に顔を移すと、その表情には怒りが込もっていた。
「あの人有り得ない。自分のことしか考えてないじゃん。今度出勤して来たら問い詰めてやります!」
「いやいや、下手に刺激したら美香ちゃんに危害が行くよ。彼奴は切れたら何をしてくるから分からない。下手に刺激するのは止めよう。」
美香は何か言いたげに口を尖らせたが、渋々納得したのか、俯いた。
僕達のやり取りが終わるのを待っていたかのように、原口が直ぐに口を開いた。
「阿部ちゃんの刺激したくないという意見に一理あるし、このことで怒る美香の気持ちも一理ある。美香、お前は明日以降で例の女が出勤して来たら逐一様子等を報告してくれ。くれぐれも今日の件には触れないでおいてな。あべちゃん、来週までどうする?」
「何方にせよ此処にはもう泊まれない。取り敢えず明日中にゴミを片付けて引き渡しできるようにしようかな。泊まる場所は…どうしようかな。お前ん家に泊めてもらうことはできないか?」
「まあ、事が事だしな。分かった。じゃあ今日は此処で解散にしようか。明日俺も手伝うわ。今日から泊まりに来なよ。」
「ありがとう、助かるわ。」
「私も手伝いたいです。タカ兄、私も泊まっていいよね?」
「え?まぁいいけど。阿部ちゃん、手を出すなよ!」
「まさか!」
無音だった室内に笑い声が響いた。
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