第14話 邂逅

原口とのアポまでまだ時間があったので、近くのパチンコ屋で適当に打つことにした。

 店内の爆音が今日の出来事を弾け飛ばすようだった。

 今日みたいな日にはうってつけの娯楽だ。

 適当に打ったつもりだったが今日は当たる当たる。

 玉のボックスがどんどん積み上がる。

 しかし、アポの時間が近付いたので泣く泣く途中で辞める羽目になった。

 こういう時に限って絶好調なんだよな。

 戦利品を手にアポの場所へ急いだ。

 待ち合わせ場所の居酒屋に着いて間も無く原口も到着した。

「おう、何があったの?」

「まあまあ、中で話そう」

 原口は何かを察したのか、こくりと頷くと店内に入って行った。

 予約した席に着き、取り敢えずビールを二人とも頼んだ。

 付き出しを軽くつまみながら雑談をしているうちにビールが運ばれてきたので乾杯した。

 相変わらずビールは美味い。疲労度と比例しているのだろうか。最近は特に美味く感じる。

「そう言えば話したいことって何?」

 原口が本題の口火を切った。僕は今日の出来事を包み隠さずそのまま話し、引越しを手伝って欲しいこと、自宅に付き添って欲しい旨を伝えた。

 原口は一瞬驚いたが、直ぐに冷静になり、話し始めた。

「そっか。大変だな。取り敢えず引越しの件は了解。付き添いも別に大丈夫だけど、俺だけじゃなくてもう一人ぐらい居た方がいいんじゃない?」

「え?どゆこと?もう当てが無いよ。」

「いや、俺そいつの知り合いの連絡先知ってるかも。」

 原口は携帯の電話帳をスクロールし、画面を僕に見せつけてきた。

 画面に表示されたのは美香と書かれた文字と電話番号だった。

 美香……?誰だろう?僕が頭を捻っていると、原口はそれを察したのか、

「この娘、お前の女と同僚なはずだよ。同じ店にいたよな?」

 あおいと同僚…?脳内には無数の?で埋め尽くされた。

 原口が答え合わせを始めた。

「美香は俺の従姉妹だよ。俺と十歳離れている。俺はあの日美香がキャバクラで働いていることを初めて知ったからビックリしてたんだ。源氏名は何だったかな?ランだったと思う。」

 僕の脳内に電流が走った。

 まさかのランちゃんが原口の従姉妹だったとは?言われてみれば原口の面影と重なる部分もある。

「事情はよく分かったから美香にも来てもらおう。今から電話を掛けよう。」

 原口は言い終わるよりも先に美香宛に発信した。

 マイクをスピーカーにして僕にも内容がわかるようにしてくれた。

 ツーコールで美香が出た。

「もしもし、タカ兄どうしたの?」

「取り敢えず今から直ぐ上石神井に来てくれないか?事情は着いてから話すわ」

「何それ。まぁ、今日は休みだから今から行くよ。タカ兄のこと?」

「俺のツレの件で協力して欲しいことがある。話すと長くなるからこれ以上は着いてから」

「取り敢えず分かった。今から向かうね」

 今から美香が来てくれることになった。一時間後に合流だ。

「しかしビックリだな。俺あの娘の連絡先聞こうとしてたんだから。危うく情報筒抜けだったな。」

「なーに言ってんの。お前が俺と同僚なのすら知らないよ。」

 少し安心した僕は酒が進んだ。思いがけない形ではあるが、援軍が一人増えた、しかもあおいの同僚である。流石に同僚が来たら暴れられないだろう。酔いが回ってきた頃、美香が到着した。

「タカ兄、久しぶりーっ。」

 店外で見る美香はお店とは全く雰囲気が違っていた。

 服装は白ギャルルックで、如何にも遊んでいそうな出立ちをしていた。

 美香は僕の存在に気付き、挨拶をしてきた。

「あ、どうも。隆明の従姉妹の美香です。遅くなってごめんなさい。…何処かでお会いしたことあります?」

 どうやら顔に見覚えがあるようだが、具体的には覚えていないようだ。

「歌舞伎町のマリアージュで働いていますよね?あなたに一回だけ接客してもらったことがあります。あなたが私にあおいさんの連絡先を渡してくれたことは覚えていますか?」

「ああ、あの時の!あおいさんとはあれからどうなったんですか?あおいさん、濁して中々教えてくれないんですよー」

「ま、まあ取り敢えず座ろうか。何頼む?」

「じゃあハイボール!」

 ハイボールを注文したところで美香を席に着かせ、無難に世間話で時間を潰した。

 ハイボールも到着し、落ち着いてきたところで、

「そう言えば話って何ですかー?」

 と美香が振ってきたところで、原口から一部始終を話してもらった。

 美香は口を開けたまま呆然とその話しを聞いていた。

「あおいさん、店ではそんな素振り全く見せてなかったからビックリです。ごめんなさい、私が連絡先を渡したばっかりに…」

「いやいや、どちらにせよ待ち伏せされてたから遅かれ早かれ今の状況になってたと思うよ。出来れば力を貸して欲しいんだ。」

「もちろん、大丈夫です。私に出来ることがあればさせて下さい。因みに此処を出たらもう現場に向かうんですよね?」

「うん、そのつもり。」

「こうなってくるとどう突入してどう立ち回るかだな。取り敢えず俺が先頭で室内に入るから、二人は後ろを付いてきて。向こうが冷静で話し合いが出来そうだったら話し合おう。暴れてきたら俺と阿部ちゃんで取り押さえるから、美香が警察に通報して。あくまでも此方は冷静に対処しよう。いいね?」

 僕らは深く頷き、残りの料理を平らげた

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