第13話 決別

翌朝、インターネットカフェを出た僕は、自宅ではなく西武新宿へ向かった。不動産屋へ向かう為だ。

 西武新宿に到着すると、近くの竹谷で朝食を済ませて、不動産屋の開店まで時間を潰した。

 不動産屋の開店を確認すると、直ぐに入店した。一番乗りだ。

 店員が直ぐにカウンター席に誘導し、早速物件の相談が始まった。

「ご希望の条件はございますか?」

「この辺りで兎に角直ぐにでも入居したいんです。何なら明日からでも。」

「お急ぎなんですね。流石に明日からは難しいですが、即入居可の物件をお探し致しますので暫くお待ち下さい。」

 店員はカウンター奥の棚から資料を何件かピックアップすると、カウンターに戻ってきた。

「即入居可の物件になります。先ずは此方です。家賃は現在の倍になりますが、現在の住環境とほぼ同じ水準をキープ出来ます。また、周辺の利便性も魅力になります。続きましては此方です。始めの物件よりはグレードは落ちますが、お家賃は若干お手頃になります。続いては此方になります。住環境はそのまま、家賃も二番目くらいの水準ですが、市街地からやや離れてしまいます。最後は此方になります。住環境としてはグレードは落ちてしまいますが、家賃は現在と同水準になります。どうなさいますか?」

 どの物件も甲乙付け難いが、家賃が変わらない最後の物件にした。

 ここ最近は仕事が忙しく、基本帰ったら寝るだけなのでこのくらいで丁度良い。

 それに、今はあの家から離れられるという付加価値がある。

 最後の物件にする旨を店員に伝えて、早速契約迄済ませた。

 入居は順調に行けば来週末には可とのことだった。

 一先ずは胸のつっかえが取れた。

 次は上石神井に戻り、退去手続きである。

 駅に向かう道中、着信が入っている事に気づいた。

 原口からだった。僕はその電話を折り返した。

「もしもし、阿部ちゃん、LINEくれてたね。どした?何かあった?」

「ありまくったよ。話せば長くなるから今日上石神井で会えないか?」

「ああ、いいよ。夕方からでもいい?」

「いいよ。近くなったら連絡ちょうだい」

 原口とのアポを取り付けた僕は電車に乗り込み上石神井へ戻った。

 駅に着くと僕はゆっくりと慎重に出口へ向かった。

 あおいが待ち伏せをしている可能性が否めないからだ。

 連絡もないし、何処で何をしているか分からない。

 出口へ出たが、あおいらしき人は見当たらない。

 取り敢えず良かった。

 しかし、これでまだあおいが自宅に滞在している可能性も高まった。

 一回忘れよう。僕は止め処なく襲う不安を振り払うように駅前の不動産屋に向かい、素早く退去手続きを済ませた。

 これで上石神井とはおさらばだ。

 全てが終わった途端上石神井で過ごした思い出が脳内に広がった。

 同時に寂しさも襲ってきた。余りにも急展開が続き過ぎて忘れていたが、僕は十年以上を過ごした上石神井を離れるのだ。

 別れは余りにも呆気なかった。

 その決断をさせたあおいに対する怒りも込み上げてきた。

 二度と関わるまい。メールアドレスも電話番号も全て消去し、改めてあおいとの決別を誓った。

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