第11話 兆候
翌朝、あおいからLINEを受信していた。
「しょうちゃん、おはよう。昨日はごめん、怒ってるよね?お詫びしたいから今日会いたいな」
お詫びとは何だ。警戒心が増している僕からすれば、お詫びという表現さえ恐怖である。
まずいまずい感情的になってはいけない。冷静かつ事務的に返信返信。
「あおいちゃん、おはよう。いやいや、昨日はありがとね〜。ぜんぜん大丈夫よ。今日は忙しそうだからやめとくわ〜」
「何で。私達付き合ってるんだよね?何時に終わるの?待つから。」
「いやいや、普通に終電くらいになるし、もしかしたら先輩の家に泊めてもらうことになるかもだから。」
「ふーん、分かったもういい。」
それっきりあおいからの連絡は無かった。
意外にごねなかったが、やっぱり面倒臭い。昨日の決意は間違いではなかった。とりあえずあおいのことは忘れて仕事に集中しよう。
それからの僕はあおいのことなど全く頭に過ることなく仕事に没頭した。
金曜日の夜、今週の仕事納めを終えた僕と山本さんは原口を伴って焼肉に出掛けた。
「阿部ちゃん、お疲れ。今週はめちゃくちゃ頑張っていたな。」
「いやいや、毎週じゃないですか。山本さんいつも見てるでしょ?」
「なんかいいことでもあったのか?女が出来たとか?」
「いやいや、そんな。原口じゃないんだからさ。」
「ハハハ」
三人とも酔いが回ったのか、軽口が伴う楽しい焼肉となった。
途中、原口が思い出したかのように僕に尋ねてきた。
「そう言えばさ、この前言ってたハンカチ女とはどうなったの?」
「え?あ、ああ、ぼちぼち…」
「何だよ歯切れ悪いな、何か隠してるだろ?」
「阿部ちゃん、口外しないから正直に言いなよ。困ってるなら助けてやるし」
山本さんも興味を持ったようだ。
ここで観念した僕は、先週末の出来事を洗いざらい話した。
二人とも興味津々のようで身を乗り出して聞いていた。
他人の不幸は蜜の味という言葉があるが、正にこの状況を表す表現にぴったりである。
「うわぁ、怖ええ。でもやることやってんじゃん!」
「勘弁して下さいよホントに。大変だったんですから。食器フル買い替えですよホントに」
「よくそんな女引き当てたな。俺一度も経験したことないよそんな奴」
「嫌味か馬鹿野郎。でもあれからメッセージも何も来てないのよ。それがちょっと不気味だな。」
「確かにな。自棄になった奴は何するか分からないからな。何かあったら連絡してきてくれ。」
「俺も出来ることするから何かあったら相談してきて」
「ありがとうございます!心強いです。」
二人に励まされ、少し胸のつっかえが取れた気がした。
駅で二人に別れを告げ、上石神井行きの終電に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます