第8話 欲情

ふと我に還った僕は、時計に視線を向けた。十四時。二人はかれこれ四時間も本能をぶつけ合い、立ち上がる気力が失われていた。

 次に気が付いた時には既に室内は暗くなり、月明かりによりほんのりと光があるだけだった。

 隣では余程疲れたのか女性が全裸で眠り続けていた。

 僕はとりあえず服を着て、女性が起きるのを待つことにした。

 一時間程経っただろうか。女性が目を擦りながらゆっくりと目を覚ました。

「うーん、おはよ。今何時かな?」

 時計を確認すると時刻は既に二十時だった。

「もうこんな時間になんだ。お腹空いたよね?ご飯作るよ」

「いやいや、いいよ、申し訳ないし」

「いいの、しょうちゃんの為だから全然いい」

「しょうちゃん?」

「え?私達もう付き合ってるよね?あんなにエッチしたんだから」

「そ、それは…」

「それとも何?遊びってこと?酷い。」

「いやいや、そう言うことじゃなくて、そもそも何で部屋に入って来れたの?」

「そんなの簡単よ。荷物の名前を見てあなた宛てと分かったから代わりに受け取ってあげたのよ。家族のフリをすれば然程難しいことじゃないわ」

「何でそんなことするんだ、僕が嫌がっているのはお構いなしってか」

「何よその言い方!もう好きになったんだから仕方ないじゃない!なのに、なのに…」

 女性は泣き崩れてしまった。

 理不尽な気もするが、可哀想なので背中をさすって慰め、落ち着かせることにした。

「何で大して喋ったことも無いのにそんなに好きになるのよ?」

「見た目が好みだからよ。駅ではハッキリ顔を見たわけじゃなかったけど、店でツーショットになった時にビビッと来たの。それに話してみたら優しくていい人そうだったからそれで完全に好きになっちゃったの。だからランに連絡先を託したの。だからランは私の気持ちにもう気づいてるはず」

「そうか、好きになってくれたのは嬉しいけど、やり方があまりにも強引だ。引いちゃうじゃないか」

「それはごめんなさい。でもやっぱり好きだから私を彼女にして下さい」

 あまり本意ではない形ではあるが、よく見れば見た目は少々派手ではあるがたぬき顔と言われるようなくりくりと大きな二重瞼に高く筋の通った鼻の好みの美人だし、スタイルも抜群である。出会いが最悪だっただけで本来は僕には勿体ないくらいの女性だ。僕は彼女の告白を受け入れ、正式にカップルになった。

 あおいは僕の唇に再び唇を重ね、暫く見つめると、台所へ向かった。

 あおいは冷蔵庫の中身を確認すると、何か閃いたのか素早く食材を取り出し、手際よく調理を始めた。

 三十分もすると、あおいが僕を呼び出した。

 机に座ると、既に料理が完成していた。豚の生姜焼きに味噌汁、シーザーサラダ。とても美味しい。しょっぱすぎず、甘過ぎず、絶妙な味付けで箸が止まらなかった。

 あおいは無我夢中で食べる僕を嬉しそうに眺めていた。

「何でこんなに料理が上手なの?」

「お母さんがギャンブル狂いで、全く家事をしないから代わりにやってお父さんを助けていたの。だから家事炊事は何でもできるよ。」

「へぇ。大変だな。今は一人暮らしなの?」

「今は一人暮らし。中二の頃にお父さんが病気で亡くなってしまって。暫くお母さんと二人暮らしだったけど、段々色んな男の人と毎晩帰って来ることが増えて、居心地が悪くなったから中学卒業と同時に家を出てからはずっと一人暮らし。生活しなきゃいけないから今の仕事をしているんだ」

「そっか。なんだか僕は誤解していたみたいだ。キャバ嬢は皆稼いでホストに貢いでボロボロのイメージあったけど、貴女が真面目だからちょっとイメージ変わったよ」

 彼女は何も言わずに微笑むと、食器の片付けを始めた。

 片付けが終わる頃、あおいは上目遣いで僕を見つめてきた。

「今日はもう帰りたくないな」

 僕の中で何かが弾けた。

 あおいを抱き寄せると、薄紅色の唇を奪った。

 激しく舌を絡み付かせた二人は、浴室内で再びお互いを求め続けた。

 浴室内に響き渡る音はリビングの時よりも籠り、より二人の欲情を高めていった。

 激しく求め合った二人は、疲れ果てるとシャワーを浴び、熱く湧き上がる欲情をクールダウンさせた。

 リビングに戻った二人は冷蔵庫で冷やしてあった発泡酒で乾杯した。

 激しく動いた後の発泡酒は格別に美味しい。

 あおいも美味しそうに喉を鳴らしていた。

 酒が入ったことで僕には急に睡魔が襲ってきた。

 ウトウトしていると、あおいが再び唇を重ねてきた。

「寝かさないよ」

 あおいはこの言葉を皮切りに再び僕の体を求めてきた。

 正直体力的にもう厳しかったが、あおいは有無を言わさずあらゆる手段で、僕の欲情を高めていった。

 そこからはもう記憶があやふやだが、我に還った時には既に外が明るくなり始めていた。

 酷使の結果、下腹部には痛みが走っていた。

 あおいは疲れたのか未だにぐっすりと眠っていた。

 僕は喉が渇いていたのでコップ一杯の水を体に流し込んだ。

 しかしあおいの性欲は尋常ではない。昨日一日で大分搾り取られてしまった。今日も同じように求められたらもう体が持たない。早めに帰ってもらおう。

 すっかり目が覚めた僕は、決意を秘めて寝室に戻った。

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