第10話 癒し聖獣、爆売れ
「家事関係の固有スキル持ちをご所望ですか?
申し訳ありませんが、1か月待ちとなります」
「えっ、ミラの同僚さん?
なんでもいいから10頭欲しいって……ちょ、ちょっと待ってね!」
「ハルトさま、本日の配合状況はいかがでしょう?」
「ハルト、助けて~!」
「うおお、ちょっと待ってくれ!」
昼下がりのソフティス家の牧場。
譲渡会から1か月、口コミで広まった癒し子聖獣の購入希望者はどんどん増え続けていた。
「購入を希望されるに方は予約票をお渡ししますので、こちらにお並びください」
がやがや
「ふう、物凄いわね」
「想像以上です……」
セイバスさんのおかげで、ようやく購入希望者の群れから解放されたモフィとマリン。
「おねえちゃんたちお疲れ様!」
「ふふ、ありがとうございますピィ」
ピィからねぎらいの言葉を掛けられ、にっこりと微笑むマリン。
「ハルトもお疲れ様。けだま君も大丈夫?」
がうっ!
今しがた、モモとの配合を終えたけだまが大きく伸びをする。
ぼくはかっこいいかみがたがいい!
というけだまの希望でソフトモヒカンにトリミングしてやったのだが……。
モヒカンヘアーの巨大もふもふアザラシとは、なかなかシュールな存在である。
はふはふ♡
ふごっ♡
メスたちには大好評らしいが。
……俺もモヒカンスタイルにしてみようかな。
「ハルトには超絶似合わないと思うから、やめた方がいいわよ」
「うぐっ」
モフィのツッコミに凹みながらけだまの様子を観察する。
今朝からすでに3回も配合しているが、けだまの毛並みはツヤツヤだ。
がうがうっ!
「やるな!」
けだまは今日も絶好調。
「……凄いわねけだま君。
配合にはたくさんのマナを使うから、親聖獣は地脈から定常的にマナを吸い上げているんだけど……」
「普通なら1日に1~2回の配合が限界で、生み出される子聖獣も1体が基本なの。
だけどけだま君は」
もきゅもきゅ
今日配合された数十体のもこもこに囲まれながら、順番にトリミングを繰り返す俺。
至福の光景である。
「これだけたくさんの子聖獣を配合してなお、ち○こビンビンなんて、たね」
べしっ!
「ですから、殿方の前でそのような言動をなさらないでください!」
「あうっ!?」
またも危険なセリフを口走ってマリンに成敗されるモフィ。
「モフィお姉ちゃんだいじょうぶ? つんつん~」
「やれやれ……マリン、しっかり”指導”を頼むぞ」
ピィの教育にも悪いからな。
「承知しました、ハルトさま」
「ちょっ、ハルト! 助けなさいってば!」
「……ぎゃ~!?」
「よし」
ずりずりと厩舎裏に引き摺られていくモフィを見送り、俺はけだまに向き直る。
予約分を含め、癒し子聖獣の販売実績は300体を超える。
これだけで50万センドほどの売り上げになるが、モフィの借金返済にはまだまだ足りない。
特に人気が高いのは”睡眠補助”と”手指コーティング”を持った子だ。
「だけど……」
けだまの持つ白因子固有スキルは無数にあり、狙って出すのが難しい。
がうっ?
けだまにも相談してみたが、ある程度は絞れるものの。付与される白スキルを細かくコントロールする事は出来ないらしい。
「何かルールがありそうなんだけどな」
けだまの配合成績を書き写した資料を読んで唸る俺。
天気や湿度、けだまにあげた”おやつ”の種類まで。
法則性を解明できれば、需要に応じた子聖獣を配合できるだろう。
「……ん?」
ガラガラ
そんな事を考えていると、牧場の入り口に一台の自動馬車がやってきたことに気付く。
車の上にはレヴィン王国の国旗がはためいている。
「!!」
「ソフティス家渉外担当のマリンでございます。
どのようなご用件でしょうか」
あわてて自動馬車に走り寄るマリン。
蒼いローブを着た老人が自動馬車から降りてきて、マリンに一通の書状を手渡す。
「あれは元老院のマッカス殿ね、久しぶりに拝見したわ」
マリンの教育的指導から解放されたモフィが少々やつれた表情で戻ってくる。
「偉い奴なのか?」
「政務の中心からは外されているけど、上位の貴族ね。
マッカス殿の担当は王都周辺地域の安全管理、何でウチに?」
「へぇ」
モフィの言葉通りなら、元は大貴族とはいえ今は力を失い一介の聖獣ブリーダーとなっているソフティス家に用事があるようには思えないが。
「お嬢様、ハルトさま……」
困った表情を浮かべ、マリンが戻ってくる。
「王宮からの依頼で、このようなものが……」
「……え?」
マリンが見せてくれた書状には、”王都周辺に出没する手配モンスターの退治を命じる”と書かれていたのだった。
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