第4話 宿敵
「セイバス、戻ったわ!!」
王都中心部に入る前に、郊外に点在する施設を訪ねる。
石造りの厩舎の向こうには光る網を張ったフェンスで囲まれた広大な牧草地があり、どうやら聖獣を飼育している牧場らしい。
「おお、モフィお嬢様!!」
モフィの声に、厩舎を掃除していた老執事がこちらに駆け寄ってくる。
「そちらが新たな親聖獣でございますか?」
「そうよ! ちょっとミスして暴走させちゃったんだけど。
異世界からやって来たこのハルトが止めてくれたの!!」
「それはなんといいますか……ハルト様、モフィお嬢様の尻ぬぐい、もといフォローをしていただき誠にありがとうございます」
一瞬で何があったか察したのか、俺に向かって深々と一礼するセイバスさん。
「いえ、こちらこそ転移したばかりで今夜の宿にも事欠く有様でして。
モフィには感謝しかありません」
「なんと」
「はるとは凄いんだよ! がおーってなったけだまをいっしゅんでかわいくしちゃったの!」
「……けだま、でございますか?」
ピィの言葉に首をかしげるセイバスさん。
「この親聖獣の名前よ!
というかハルト、貴方ネーミングセンスないわね?」
ち○こと連呼していたお嬢様に言われたくはない。
「それより凄いのセイバス!
ハルトは聖獣にオスメスがあることを見抜いただけじゃなく効率的な配合の方法まで……!」
「はいはいお嬢様、仕事の話はまた明日にいたしましょう。
セイバスさん、この親聖獣をよろしくお願いします」
「語らせなさいよ!?」
さっきも見たやり取りを繰り返すモフィとマリン。
面白いなこの子たち。
「それではハルト様。お預かりしますじゃ」
じゃれ合うふたりをほのぼのと見つめていると、セイバスさんが厩舎から馬具のような器具を持ってきた。
けだまに取り付けるのだろう。
「ええ、お願いします」
流石に図体のデカいけだまを街中で連れ歩くわけにはいかない。
セイバスさんが預かってくれるようだ。
「けだま、また明日な。
大人しくするんだぞ?」
がうがう?
街の中に入っちゃいけないの?
とでも言いたげにもさもさと身体を揺らすけだま。
はふはふ
ふごっ?
すると、厩舎の窓からピンク色と緑色のスライムが顔(かどうかはよくわかんないけど)をだす。
あの子らはけだまと同じ親聖獣なのかな?
ちなみに二匹ともメスだ。
がうがうっ♪♪
メスを見てンションが上がったのだろう。
セイバスさんに引かれうきうきと厩舎に向かうけだま。
現金な子である。
「それでは、王都の中に参りましょうか」
けだまがゲージに入ったことを確認すると、俺たちはマリンの先導で王都の中へと向かった。
*** ***
「おおおおっ!?」
「すっごい!!」
豊かな清水をたたえる川のほとりに立つ白亜の豪邸。
ここから見える敷地だけで100メートル四方はあるだろうか。
石造りの正門には正装した衛兵が立っており、門の奥には3階建てのお屋敷が見える。メイドと執事がいることからお嬢様だと確信はしていたが、モフィは相当なレベルのお嬢様らしい。
「よかったね、はると!」
「ああ!」
こんなお屋敷で生活できるのか……満面の笑みを浮かべるピィを抱き上げる。
「……盛り上がっているところ大変申し訳ございません」
「え?」
背後から聞こえたマリンの声に振り返る。
「この屋敷は確かにソフティス家代々のものなのですが」
こめかみにしわを寄せ、困ったとばかりに頭を抱えるマリン。
「……1か月くらい前に、借金のカタとして差し押さえられちゃった。えへっ」
「へ?」
「ふお?」
きゃるんとてへぺろ顔を披露するモフィ。
「笑い事ではありませんよお嬢様!!
次の支払い日までに10万センドを用立てできなければ……お嬢様を売春宿に沈めるしかありません!」
「いやちょっと待ってよマリン!?」
「…………というのは可愛い冗談ですが、当家は大変困窮しておりまして。
ハルトさまには申し訳ないのですが、そちらの別宅しかご用意できないのです」
ちっとも冗談を言ってるようには見えないマリンが指さしたのは、お屋敷から川を挟んで対岸に建つ2階建てのアパート。
石造りの壁は薄汚れて欠けている部分もあり、おんぼろ……もとい年季の入った建物だ。
「いや、問題ないよ」
「ピィなんて2000人部屋だったからね! だいじょーぶ!」
「にせんにんべや!?」
屋根がある場所で寝られるだけでもありがたい。
それより気になるのはモフィが抱えている借金のことだが……。
「ああ、みすぼらしい連中がオレ様の屋敷の前に立っているかと思ったら、没落ソフティス家の皆様ではないですか!
借金を返せるアテはついたのかぁ?」
突然、俺たちに掛けられたあざけるような声。
何事かと振り向けば、俺達の後ろにいつの間にか大きな馬車が止まっており、黒髪の青年が窓から上半身を突き出してこちらを見ている。
馬車……と言うには不適当だろう。なにしろ金属製と思わしき漆黒の四輪車の前には車を引くべき馬の姿がない。
「カチンスキー卿……」
可愛らしい顔を苛立たしげにゆがめるマリン。
どうやらこの男はモフィたちの知り合いで、しかもあまり歓迎すべき間柄ではないようだ。
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