道に生きる

俗にいうサンチンの構えから、右手だけをカップを持つように突き出して構える光無。



一方、苦笑しながら両手を上げたのはハクア。



「何者だ」「俺……いや、私はハクア・ニューブリッツ・ユグドラシル」


光無の眼の前で、ハクアと名乗ったエルフが止まる。



「何用で来た?」「エノと世間話でもしに来たって言えば通してくれるか?」


「戯言を……」



その時、光無の後ろからドスの効いた女の声が響く。



「ハクアか、光無それはお前の手におえる相手ではない通せ」



その言葉に構えたまま「試させて下さい、格上は久しぶりだ」。


光無がそういうと、ハクアの目つきが初めて変わる。





「これでも、その辺に居るエルフ程度には力を押さえてるんだけど?」


「そんな、隙の無いエルフがその辺に居てたまるか」



それを聞いて、「やはり、私もまだまだ勉強不足だって事か?」とハクア笑い出す。


「俺は、ずっとモブのフリする事に全次元一長けた神に修行つけてもらってんだ。普通なら気づかないさ」



「それもそうか、あれと比べられちゃな」そういって光無の横を通ろうとしたハクアを光無が右拳を蛇の様な動きでハクアを攻撃した。


それをハクアは、特に歩みも止めず。踏ん張る事も無く、魔力や闘気を展開する事も無く一指し指一本で光無の拳を止めていた。



「位階神というのは、どなたも凄まじい」流れ出る血も気にせず光無が悲しく笑う。



「バカを言え、三幻神の連中に比べたら私なんざその辺の砂粒もいいとこだよ。お前だって私の娘だって、進む事を辞めさえしなけりゃいつかは俺位には手が届く。私の娘は人間だから寿命ってやつで怪しいがコックローチは死ななきゃずっと生きてる種族だ。だから、届くさ必ず届く。人の世界の努力なんざクソくらえだが、届かせたいと願うものがあるのなら努力には意味があるさ。相手がいるものに確実はねぇ、特に相手が何かをしょってたり。あるいは、三幻神みたいな奴が後ろからしゃしゃり出て来られたらどんな努力だって水泡さ。でもな、歩かねぇよりゃマシだ」



てめえが見た目標が余りに遠すぎて、蜃気楼じゃねぇかって疑いたい気持ちは判る。

でもな、あれに届くなら間違いなく全てに届くさ。それは、位階神である私も例外じゃない。そんな奴に無限に習えるなんて、そんなチャンスは滅多にない。



寿命のあるエルフの私で神届いたのに、寿命が無い種族のアンタに届かないどうりなんてあるものか。


そういって、また闇に向かってハクアが歩きだす。




「確かに……、俺の師に届くなら全てに届く。その事だけは貴女に言われずとも」



そういって、静かに頭を下げハクアを通した。



一方、そんなやり取りを終えたハクアが部屋で見たものは。



「納得いかねぇ……」



屑の漢字が散りばめられた布団にくるまって、本体の樹の枝で蓑虫みたいに揺れているエノだった。


「ハクア、お久~」「おめーはいっつも何をしてんだ!!」


「暇だから、蓑虫ごっこしてた」「ちったぁ働けよ!」



自分で風を起こして、自分で揺れるエノにハクアが怒鳴る。



「お前はそんな事を言いに来たのか?」


急に真顔になる、エノ。それに苦笑しながら、ハクアが言った。


「俺の信仰する、世界樹の本体がそんな簀巻きみてぇな姿でぶらぶらしてたら突っ込みたくもなるだろうが」


「相変わらず、不自由な常識だな」


「ちったぁ、弁えてくれませんかねぇ?!」


「あーそのなんだ、いつも娘の守護ありがとな」


「構わんよ、母親に似て口うるさい所以外は気に入っている」


「今日は、ゲームしねぇのかよ」


「ゲームセンター竜屋にだって休みはあるし、スマホゲームにだってイベントの無い日はある。デイリーが終われば、居酒屋に顔を出そうと思ったのだ。しかし、先日要請があって黒貌は屋台を出しに行ってしまったからな。人は一人の体で出来る事しか出来はしない、だからこうして暇をつぶす方法を考えていたのだよ」


「先日要請があったって、また食料高騰で餓える国にあのやっすい値段で料理出す屋台か。また、欲にまみれたバカが大量によってくるぞ」



「黒貌と一緒に行ったのは、あのマルギルだ。マルギル相手に人間が頑張れるなら、大金星じゃないか」


「えぇ?!豚屋の女傑が一緒だって?そりゃ、ある意味災難よね」


おっといけないと、ハクアが口を押さえる。

驚きすぎて、一瞬言葉が戻ってしまっていた。



「邪神の大長老の地位にいる、マルギルの最後の仕事さ。これを終えたら、彼女の願いを叶えた時に彼女が私に前借した分の返済が終わる」


「そうか、アイツが続けないって言った時の変わりはいるのか?」


「あれ程優秀ではないが、変わりはいるよ。変わりの用意出来ない、会社組織などゴミ屑以下だからな。休ませ、副業も含む自由も全て与えられない会社組織など存在する価値は無い。人を使うという事は、人の人生を搾取する事だからな。搾取に見合う、価値を提供できない組織などダストの望む組織には必要ない」



私はダストに、努力が報われる事を約束した。ならば、その組織に居るものは末端まで報われなければおかしい。



「本当…、頑固だなエノ」「頑固でなくば、夢への道など歩けはしない。けわしすぎて、すぐ折れる」



「違いない」


そういって、二柱は闇の世界で声をあげて笑った。

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