喫茶エベレスト


「来たか、龍である俺が一年前に轟沈された伝説のメニューへのリベンジ」



完全予約制で30分で完食すれば、無料と銘打った箱舟屈指の爆盛店喫茶エベレスト。



箱舟本店の内部には、数多の飲食店が軒を連ねている。


しかし、この喫茶エベレストは数多のフードファイターや大食漢を轟沈させてきた。

かくいう、竜弥もこのエベレストで沈んだ一人。



からんと古いベルが鳴り、ガラス製の扉を押す。



「いらっしゃいませ~、Maxエベレスト五重の塔をご予約の竜弥様ですね」


その声を聴いた瞬間、常連の一部が腰を僅かに浮かした。



それもその筈、この喫茶エベレスト標準メニューから表示も価格もバグり散らかしている事で有名な店。



※今回は読者の皆様に判りやすいようにコインではなく円表記にしておりますm(__)m



「確かな味に裏打ちされ、努力の方向をいい意味で天元突破しているこの店を一年前の俺は正直舐めすぎてた……」



まず、この店の特徴。


小盛という、一番小さいサイズが既に650グラムとなっている。

しかも、これはご飯もののご飯だけの表記。


一般人は小盛でも下手したらシェアしなきゃいけないレベルのモノではあるが、+百円で大盛出来ますと書かれている訳だが。そもそも、大盛の表示グラム数は二倍を指している。


※ちなみに並盛が一キロと書かれている


通常、天丼を頼めば海老天なら三本か一本デカいのがのっているのが普通だ。

しかし、この喫茶エベレストは並盛で既にどんぶり三つ分ぐらいの高さまでキャンプファイヤーの組木がごとく海老天が積みあげられているのだ。


オムライス並がラグビーボールサイズで、ケチャップを可愛く描いたりネームを入れたりするようなサービスもしている。



※しかも、無駄に味とクオリティが高い。



通常メニューのライス部のみで、最大のモノが五キロというファイターも真っ青のものがドカンと出てくる。しかもこの店、シェアOKで通常サイズだとドリンク飲み放題がついて一品千五百円行かないのだ。(サラダバーやドリンク飲み放題が+百円で頼める為)



※ちなみにドリンクバー+二百円で酒飲み放題になる



外のコンビニでは容器や詰め方と見せ方を限界まで知恵を絞って多く見せているが喫茶エベレストはその逆でとにかく喫茶店に相応しいお洒落な写真で小さく小さく見せようと努力を重ねているがお化けが出てくる脅威的な店だったりする。


ちなみに、テイクアウトのタブレットサイズの弁当箱に指がすっぽり入る厚さでつめられて蓋を紐とゴムで無理矢理しめてるけど閉まらなくなったような弁当が三百円で置かれている。


ちなみに普通のご家庭だと夫婦に子供二人で三食つかってようやく一個の弁当を食べきるレベルだと言えば想像できるだろうか。






ちなみに、店の看板にはこう書かれている。


(コスパが良いお店、可愛いお店、箱舟一誰でも腹パンになれる店)


ここの常連客は皆こう言う、前二つは嘘で詐欺だったとしても最後の一文だけは嘘偽りハッタリ誇張の類は一切ない!と。


そこの予約制スペシャルが、スペシャルでない訳はない。


「先にサービスのお味噌汁です~」と店員が数人がかりで持ってきた添え物の味噌汁は具沢山で旨そうなのだが、サイズは寿司の酢飯を作る時の木桶だ。


それが着丼した瞬間、竜弥の手が震えた。



「これが、箱舟本店一腹パンになれる店のサービスなんだよなぁ……」


重ねて言うが、チャーハンなどについてくるスープは平均湯呑よりちょっと大きい位のサイズが標準。


トンカツ屋でも、おまけのみそしるはお椀で出てくる。


つまり、サービスのお味噌汁が既に一般飲食店のラスボスレベル。


「お待たせしました~、カツの五重の塔(ごじゅうのとう)になります」



後から着丼したそれは、正に城だった。石垣がトンカツで出来てシャチホコの変わりに巨大な海老天で出来た城の横の作りは大阪城で、天守閣の部分が五重の塔になっている巨大な食の建造物…。



「ふぁぁ~~~~?!」



思わずそれが見えた瞬間ギャラリーからは悲鳴が上がり、竜弥の眼が限界まで見開かれる。ちなみに、予約受付中の写真では五重の塔だけをかなり遠くから映して小さく見えるようにしていた。



見た瞬間から震えが止まらなくなる竜弥の戦いが、幕をあけようとしていた。


「いくら、大食漢の龍でもこれはヤバすぎるだろ」


チャレンジの特別ルールとして、一人で食べなくてはならないとある。


※通常はパーティとかで一つ頼んだら、全員が腹パンになれるまである。


なんせ、塔の部分だけでウェディングケーキと変わらない高さまで届いておりケーキと違うのは台座の部分がなく平皿にのってる全部食べられる部分で構成されている城なのだ。


「本当…、限度って言葉を覚えようぜ箱舟本店はよぉ」


思ず変な笑いが漏れて、そんな弱気な台詞が口をつく。


箸でそっと、持ち上げて食べてみれば溢れる肉汁とサクサクの衣。



「美味い!」


重ねて言うが、クオリティと味は無駄に高い水準なのだ。


※詐欺ってるのがコスパだけというのが、もはや周知の事実まである



「箱舟本店は人間以外も沢山いるからこれで三十分なんだろうがよぉ、これ人類にはすでに不可能だろが…。どうやって作ったんだよ、と思ってよく見たら本当の石垣みたいに重さと形だけで綺麗に詰め込んでやがるっ!」


キャベツの千切りが、効果エフェクトの変わりに壁として積み上げられてそれが城を倒れないように支えていた。




そして、結局龍弥は完食は出来たが時間内に食べる事は出来なかった。

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