特殊景品

「こりゃ…ひでぇ……」


そういって、口元を押さえた。



如何に銭ゲバクラウと言っても、それはちゃんとした薬剤や魔法魔術を極めただけだ。


神の奇跡には程遠い、だから思わず天を仰いで怒りを露わにした。



「どうにか、なりませんか」


そういって、クラウの方を見た。


「楠種は?」


「流行病が流行りすぎて病室が足りず、一か月待ちだそうです」



一か月は持たねぇな、それはクラウにも見て判った。

進行が速すぎるし、全身に転移してあちこちから別の病を患っているようなものだ。


石化の様に呪術やスキルじゃないから、追い込む事も出来ない。



「死ぬ気で一週間持たせろ、持たせたら必ず救ってやる!!」


そういって、家人の両肩を軽くたたいた。



「こいつを、救える薬の材料はちょっとやそっとじゃ手に入らねぇ。だが当てはある、頼んだぜ」


そういって、消える様に飛び出した。



「行くしかねぇな…、ゲームセンター竜屋の特殊景品場に」




一方、そんな思いを抱きながら箱舟に移動してきたクラウが見たものはオレンジのワンコインでわたあめを作る機械の前でorzで項垂れているエタナだった。



あぁん?と思ってよく見たら、白いわたあめの部分が外れて床に落ちていた。それを見てクラウは無性に腹が立った。



(相変わらずこの神様はよぉ…)



むんずとそれを猫の首を持つように持ち上げて立たせると、床に落ちた綿あめを無言でゴミ箱に投げ捨て。持っていた割り箸を取り上げて、棒手裏剣の様に同じゴミ箱めがけてなげ綺麗に割り箸がゴミ箱の中に吸い込まれていく。



「何をする!」


エタナが、ご立腹で文句を言った。


徐に、自分のズボンから箱舟の通貨であるコインを一枚取り出すとオレンジのわたあめ機の横にある四角い箱に投入した。


その箱の横につけられた、別の箱の蓋をあけて割り箸を一本取り出す。


直ぐにザラメが落ちる音がして、ぶぅんと中心が回りだした。


ものすごい手慣れた様子で、割り箸を回しながら徐々にわたあめを大きくしていくクラウ。


最初はご立腹だったエタナが、それを見て眼を輝かせる。



エタナの顔より大きくなったそれを、さらに外れにくくするように巻き取るとエタナに手渡した。


「ほれ」


そう短くいうと、エタナが満面の笑顔で受け取った。



「ったく…、無駄な時間を使っちまった。竜弥さんはいるかい?」


「あっち」


エタナが、綿あめを持っていない方の手で指を指した。


頭をポスっと音がするような優しさで、クラウが頭を撫でて歩き出した。



「よぉ、銭ゲバ。またかい?」


リーゼントが目立つ、巨漢の龍がそこに居た。



「残念ながら又だよ…、ったく世界一錬金術とか薬剤の材料がそろう場所が商店や通販じゃなくてゲーセンってどうなってんだ!」



「そうは、言ってもなぁ。特殊景品コーナーにしばらく張り込むから多めに両替頼むわ」

そういって、どかりと外の通貨であるエノース硬貨を受付に乱暴に置いた。



「俺だってお前の気持ちは痛い程判るが、景品そのまま売っちゃいけないルールがあるんでな。本当は、ルールがなきゃクジごと売ってやりてぇとこだがよ」



そういって、コインカウンターにエノース硬貨を流し込むと全部をゲームセンター用のコインに変えプラスチックのどでかい箱で積み重ねて台車の上にのせるとクラウに台車ごと渡した。



そして、実力機の札が下がった所で流れる様に景品を取っていく。


ちなみに、クラウが苦戦したのがバスケットボールを自分でシュートして時間以内に一定の回数ボールを入れるゲームと鬼の絵のお腹に穴が空いていて、その鬼の腹にボールが入る度にがおーと録音された音が鳴るタイプのゲーム。



「なんで、身体能力を人並みに落とされて全部禁止祭りで実力機をやらねばならないのかっ!」


文句を言いながら、黙々とゲームをこなしては景品を回収していく。


途中休憩がてら、意味が分からない絵が描かれた自販機にゲームセンター用の硬貨をいれてボタンを押し。赤ランプが点灯したら、ガチャンと凄い音がしてアルミホイルに包まれた四角い物体が出て来た。


それを破って中から出てきたピザトーストを被りつく様に一枚平らげると、用意されたおしぼりで手を拭いて又景品を取る作業に戻っていく。


「手を拭かずにやると、ルール違反で犬共が来るからな…。念入りにふいとかにゃ」


そう言って、今度はパターゴルフに向かって全890ホールを回って一つクリアする度にスタンプを貰う。



「なんで、ゲームセンター付属のパターゴルフを890ホールも作ってやがんだ!」



手慣れた様子でパーを出しながら、クラウが叫ぶ。


「専用フロアにはもっとあるぜ、あくまでここは特殊景品用だからな」


そんな、ゲームセンターの店員が律儀に答えた事でクラウのストレスはマッハ。



次は、コインをレバーを使って弾くタイプの大冒険やラリーを再現した両サイドからうちあうようにデザインされたゲームをこなし小さな箱に入れられた中身を確認して項垂れた。


「同じ景品が出る様にしとけよ!!」


横にはこんな景品がでますみたいなポスターが貼ってあり、クラウが望んだ治療薬の材料の一つであるレダラスの葉ではなく、ボシュドの茎が出てきたからだ。



「でも、一週間でレダラスの葉が手に入るのはここしかねぇんだ…」


悲壮な顔でひたすらゲームを続けて、遂に七度目のクリアでレダラスの葉が出て来た時思わずガッツポーズしていた。



「最期はこれか」


思わずつぶやいたそれは、アマゾネス一番クジと書かれていた。


筋肉ムキムキの色黒のお姉さんが歯を光らせながら、両手に鉞を構えているイラストが描かれたそれ。


ただ、箱舟の一番クジは普通ではない。


壁一面に一枚の一番くじがぶら下がっていて、景品を一個取りに行くだけで探しながら横に百キロの一番くじの景品がぶら下がった所から探し当ててもぎ取る。


ちなみに高さは、脚立を使って手を伸ばすと一番上まで届く高さ。



「なんで一枚をこんなにデカく作ったんだよ!」


「箱舟本店は来場人数が来るから、最後まで遊べないと楽しくないだろって事でデカくしてったらこうなったそうだが?」


そこで律儀に答えた、龍の店員が居てクラウがその場で地団太を踏む。


「こんなん、複数引いたらこのイラストみたいに色々ムキムキになれるだろうが!」


と言いながら、必死で複数引いて目当てのガュルスの水を当てるまで引きまくった。


途中から気の毒になった、竜弥の奥さんが手の空いてる店員に景品を探させる事までやっていたが。


※クジを引く所だけは本人がやらなければルールに接触する


全員頭が真っ白になるまで、引きまくってようやくガュルスの水が出た時は抱き合う程喜んだ。



それらの景品を収納にぶち込むと、片付けてさっさと消える様に走っていった。


「あの子今から、薬を作って間に合わせるんでしょ。よくやるわよ、毎回」


龍弥の奥さんが、口に手を当てながら微笑んで。



そんなこんなで、クラウは冒頭の人を救う薬を完成させ無事助ける事が出来た。


そして、毎回のようにこう言うのだ。



「納得いかねえ!」

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